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[コラム]尹大統領の「このXX」をめぐる波紋と「文在寅叩き」

登録:2022-09-27 06:22 修正:2022-09-29 10:08
これまで大統領外交で問題になったのは主に相手の冷遇や儀典におけるミスだった。ところが、今回は尹大統領が自ら言った言葉だ。そのミスさえも前政権勢力との政争の構図に持ち込んだ。文在寅叩きのためだけに、尹大統領が検事時代に好んで行ったという別件捜査、枝分かれ捜査の技法が外交でも展開されているわけだ。 

チョン・ウィギル|国際部先任記者
海外歴訪を終えて帰ってきた尹錫悦大統領は26日午前、ソウルの龍山大統領室庁舎に出勤し、「このXX」発言をめぐる波紋に関する記者団の質問に対して謝罪や釈明なしに「事実と異なる報道で同盟を傷つけることは国民を危険に陥れることだ」と述べた=大統領室写真記者団//ハンギョレ新聞社

 2001年3月に米国を訪問した金大中(キム・デジュン)大統領は、ジョージ・W・ブッシュ米大統領に「ディス マン」(この人)と呼ばれた。ブッシュ大統領は2003年5月、盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領も「イージー マン」(気楽な人)と称した。

 国内でブッシュ大統領が両大統領を見下した発言をしたとして批判世論が沸き起こった。金大統領は自叙伝にこの表現について「親近感を示したものだというが、不快だった」と書いた。当時はブッシュ政権が北朝鮮を「悪の枢軸」の一つとみなし、北朝鮮の核問題に強硬対応をするために金大中大統領とビル・クリントン前大統領の合意を覆そうとしていた時だった。

 ブッシュ大統領が見下す意味でこのような発言をしたかどうかは定かではない。ブッシュ大統領は2002年2月に米国を訪問した小泉純一郎首相にも「ディス マン」と言ったが、問題にはならなかった。米国務省で27年間通訳を担当し、韓米首脳会談を見守ったキム・ドンヒョン氏は、2005年の引退会見で「ディス マン」や「イージー マン」は見下した言葉ではなく、親近感の表現だと説明した。ブッシュ大統領は後に盧大統領の死去後、自分が描いた肖像画を贈り、特別な愛情を示した。

 問題は国内だった。問題の発言はブッシュ大統領がしたのに、金大中、盧武鉉大統領が非難の的になった。当時、野党ハンナラ党の内外では「盧武鉉、金大中がまともに礼遇されず、国格を損なった」という嘲弄が飛び交った。それでも、当時は政界がこのような嘲弄に露骨に参加することはなかった。

 ハンナラ党のホン・サドク議員(当時)は「ディス マン」と関連し、ホワイトハウスに抗議の手紙を送った。ブッシュ大統領が北朝鮮の核問題で立場を和らげ始めた2003年、同党のパク・ジュチョン事務総長(当時)が米放送との会見で盧大統領に対して「米国の立場をオウムのように繰り返すなら、永遠に『イージー マン』から抜け出せないだろう」と発言したが、急きょ取り消した。朴槿恵(パク・クネ)大統領が韓米首脳記者会見で質問に答えられず、バラク・オバマ大統領から「かわいそうな大統領」と言われた時も、野党がそれを露骨に嘲弄したりはしなかった。

 文在寅(ムン・ジェイン)大統領が2017年12月に中国を訪問した際、庶民が集まる大衆的食堂で随行員と朝食を食べたいわゆる「一人飯」問題で、このような暗黙の了解は崩れた。自由韓国党は中国に「朝貢外交」を行って「頭を下げる三田渡外交(三田渡の盟約:清と朝鮮王朝との間で行われた丙子の乱の終戦講和条約)」をしたにもかかわらず、冷遇され、一人で朝食を食べたという嘲弄と攻撃を加えた。その後、野党は海外歴訪でも文大統領の夫人、キム・ジョンスク女史の衣装などについて文句をつけ、嘲弄した。

 尹錫悦大統領は英国女王の国葬での「棺への拝礼のない弔問外交」、国連総会で岸田文雄首相のいる建物までわざわざ会いに行った会合、ジョー・バイデン米大統領との「48秒間の対面」に続き、「このXX(野郎ども)」、「赤っ恥」発言で猛攻にさらされている。これに先立ち、大統領夫人のキム・ゴンヒ女史がNATO首脳会議でファッションとアクセサリー、儀典におけるミスで嘲弄の対象になった。与党「国民の力」のチュ・ホヨン院内代表は、「共に民主党に丁重にお願いしたい。大統領の外交中は互いに応援し激励する風土を作るよう願う」と述べた。国民の力はこのようなことを言う資格があるのか、まず考えなければならない。

 さらに大きな問題は、尹大統領が外交を前政権叩きの手段とみなしているのではないかという疑念を抱かせることだ。尹大統領は大統領選候補時代、「THAAD(高高度防衛ミサイル)再配備」を一行公約として掲げた時から、文在寅叩きの一環として外交事案に取り組んでいる。日本の首相との会談にこだわるのも、文在寅政権が壊した韓日関係を修復するという名分だ。実際、韓日関係の悪化は、李明博(イ・ミョンバク)大統領が2012年8月、国内政治的目的で突然独島(ドクト)を訪問したことから始まった。いずれにせよ、尹政権発足後、韓日関係は加害者の日本が被害者の韓国にむしろ強気に出る関係に逆転した。

 今回の歴訪に先立ち、尹大統領はニューヨークタイムズ紙とのインタビューで、文在寅政権の対北朝鮮政策を「教室で特定の友人だけに執着する学生」のようだとし、既存の南北首脳会談や南北交渉を「政治的なショー」と非難した。尹大統領が国内外の演説で「自由連帯論」を叫び続けるのも、文政権が中国と北朝鮮に傾斜したことを非難するためのものに他ならない。尹政権は独自の対外政策を展開すれば良い。このように前政権の外交に対する「批判」を前面に出せば、これと関連した国に弱点を握られ、外交リスクを増大させるだけだ。 今回起きた「外交惨事」がその結果だ。

 このような疑念は、尹大統領が発言した「このXX」とは米国議会ではなく韓国野党だったという釈明でよりいっそう深まる。これまで大統領外交で問題になったのは主に相手の冷遇や儀典におけるミスだった。ところが、今回は尹大統領が自ら言った言葉だ。そのミスさえも前政権勢力との政争の構図に持ち込んだ。文在寅叩きのためだけに、尹大統領が検事時代に好んで行ったという別件捜査、枝分かれ捜査の技法が外交でも展開されているわけだ。

//ハンギョレ新聞社
チョン・ウィギル|国際部先任記者(お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1060180.html韓国語原文入:2022-09-27 02:37
訳H.J

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