戦争が広がれば、真実は消え、ただ勝とうとする宣伝扇動ばかりが幅を利かせる。ウクライナ戦争におけるザポリージャ原発への砲撃などの交戦状況が典型的だ。
核災害への懸念が国際社会に広がっているが、ロシアとウクライナの双方が互いに砲撃の責任転嫁をしているという程度しか伝えられていない。ロシアが、自国軍が占領し駐留しているザポリージャ原発に対して砲撃を加えているということなのか。ウクライナが、自国の住民が最も被害を受けることになるザポリージャ原発への攻撃を敢行しているのか。
先月29日、米国国防総省の記者会見で匿名を要求した「軍高官」は、この状況について「ウクライナが、その近隣に砲撃を加えなかったとは言いたくない」とし、「彼らが行った可能性は十分にあると思われる。ほとんどの場合は、そこから砲撃するロシアに対する応戦の砲撃だ」と述べた。彼の話は、ロシアがザポリージャ原発施設を人質にし、そこからウクライナを攻撃しているというこれまでの西側の主張の延長ではあるが、ウクライナも原発に砲撃を加えたことを初めて認めたのだ。
7月22日、ウクライナ国防省の国防情報局はツイッターに、ザポリージャ原発に駐留していたロシア軍のテントがドローンで攻撃される動画を投稿した。テントの横で爆発が起きて燃え、ロシア軍兵士たちが驚いて逃げる場面だった。当時ウクライナ国防省は、自殺ドローン攻撃でロシア軍兵士3人が死亡し、12人が負傷したと明らかにした。核問題を監視する「憂慮する科学者同盟」原発安全局長のエドウィン・ライマン氏は、米国公営放送「NPR」で、ウクライナが自身の攻撃の精密性に自信を持っているようだと述べ、「火遊びが明らかに始まった」と懸念した。
ウクライナ戦争の戦況をメディアに毎日提供する米国の「戦争研究所」は、ザポリージャ原発をめぐる核災害への緊張は、米国がこの夏、ウクライナに高機動ロケット砲システム(HIMARS)や攻撃用ドローンなどの精密で強力な兵器を提供した時期に一致すると分析した。これらの兵器を用いてヘルソンなど南部地域の奪還を試みる反撃を進めているウクライナがザポリージャ原発に手を出したことは、ウクライナ戦争が抱える矛盾と欺瞞を示している。
欧州最大のザポリージャ原発は、ウクライナの電力の20%を担うだけでなく、ロシアの同盟国であるベラルーシなど旧ソ連の共和国の国々に電力を供給している。ロイター通信の報道によれば、ウクライナは戦争が始まると、ベラルーシなどに送られる原発の電力を切り、今後は欧州連合(EU)加盟国に回すと明らかにした。侵攻したロシアが3月にザポリージャ原発を占領したが、その運営は今もなおウクライナの企業と技術スタッフが行っている。電力の配分もそのまま維持された。
しかし、ウクライナは7月、原発の電力をルーマニア経由でEUに輸出し始めた。ウォロディミル・ゼレンスキー大統領はこれについて、欧州の同盟国がロシアの石油とガスに対する依存を減らすことへの助けになる過程の始まりだと述べたと、同通信は報じた。ロシア軍が電力網の変更を防ごうとして職員と衝突したためか、職員がロシア軍に殴打などにより虐げられているという報道も出てきた。ロシアはザポリージャ原発をウクライナの電力網から完全に切り離して自国の電力網につなぐ計画を推進し始めた。
この時期にザポリージャ原発をめぐる砲撃戦が始まった。ウクライナは戦争中にも電力を近隣諸国に売ろうとし、ロシアは危険を冒して原発の電力網の交替を試みたことで起こったのが、ザポリージャ原発事態だといえる。
ウクライナは消費するガスの約30%を欧州から輸入している。ところがそのガスは、実はロシアがウクライナを通過するパイプラインを通じて欧州に輸出したものだ。正確に表現すると、欧州に輸出するロシアのガスを途中で供給されるものだ。ウクライナはパイプラインの通行料を今もなお徴集している。そうしておきながら、ウクライナは、欧州各国にロシアからのガスなどのエネルギー輸入を中断するよう求めている。ロシアも、ドイツに向かうノルドストリームのパイプラインは閉鎖しながらも、本来の交戦国であるウクライナを通過するパイプラインは閉じずにいる。
戦争をしていても生きていかなければならないので、ロシアとウクライナが相互に絡みあう電気やガスの問題について、欺瞞や偽善を使うことは理解する。彼らが戦争を行うためにその問題を用いて宣伝扇動に利用することも仕方ない。しかし、そのような戦争の宣伝扇動によって、国際社会全体が陣営論理で分裂している。核災害を引き起こす事態や第3次世界大戦には飛び火しないなどと、誰が自信を持って言えるだろうか。
チョン・ウィギル|国際部先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )