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[コラム]尹大統領の長年の友人たちには暗黙のタブー「キム・ゴンヒ」

登録:2022-07-08 06:42 修正:2022-07-08 08:22
北大西洋条約機構(NATO)首脳会議に出席するため、先月27日、城南ソウル空港を出発した空軍1号機で資料を検討する尹錫悦大統領と一緒にいる夫人のキム・ゴンヒ女史=大統領室提供

 尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領の長年の友人だけが知っている暗黙のタブーがある。キム・ゴンヒ夫人だ。大統領の40年来の友人は「(尹大統領が)妻についてはかなり敏感に反応するところがあって」いつからか皆触れなくなったと語った。尹大統領が夫人と共にプライベートな集まりに姿を現した記憶もないという。彼は大統領夫妻が愛情以上のものを共有しており、主導権はキム女史にあるようだと話した。

 検察総長時代、尹大統領を近くで補佐したある前官弁護士は、大統領選陣営に合流したが、すぐに追い出された。当時、相次いで持ち上がったキム女史に関する疑惑に対して、大統領の面前で直言をしたのが原因だったという。大統領選の過程で重要な役割を果たし、キム女史問題の深刻性を指摘した与党のある議員は、政権発足後にニュースから消えた。

 尹大統領夫妻の関係は普通とは言えない。国家保安施設である大統領執務室で撮った写真をファンクラブに流出し、「セキュリティ事故」ではないかという批判が高まった時も、大統領は沈黙を守った。盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領の墓を「公式」に参拝する際、以前経営していた会社の社員を連れていき、公私混同という声があがった時も、大統領は「烽下(ポンハ)村は国民なら誰でも行けるところではないか」とむしろ反問した。だからこそ今度は、再び公的地位もない一般人の知人を海外歴訪に何の躊躇いもなく連れて行ったのだ。最高権力者がこのように庇う対象を、人々は古くから「逆鱗」と呼んできた。

 そのようなキム女史の周辺から最近、様々なノイズが聞こえてくる。キム女史と直接連絡を取り合っているというファンクラブの会長は、私設団体を作り会費を集めて疑念を抱かせたうえ、最近は与党内の政治懸案に助言までしているという。キム女史の実兄は、大統領選挙前から世間の噂になってきた。キム女史自身は憲政史上類例のない被疑者の大統領夫人だ。大統領選候補時代に尹大統領を何度も窮地に追い込んだ疑惑も、キム女史あるいはキム女史の母親など妻の実家と関連したものだった。

 最近になってキム女史は「1日1スケジュール」と言うほど活動幅を意欲的に広げている。キム女史はもともと長い間自分の会社を運営していた人だ。夫の当選後、会社をたたんだというが、すでに作られた人的ネットワークは依然として残っている。その会社の一部社員は大統領室に採用され、これから官邸で働くという。官邸は「チェ・スンシル・ゲート」で明らかになったように別世界だ。誰が出入りするのか、どんなことが起きるのか一般に公開されない。「秘密の実力者」は権力の陰で芽生えるものだ。

 それでも尹大統領にとってキム女史は口にしてはいけない「アンタッチャブル」だ。昨年の大統領選挙の時から、キム女史問題でぶつかった経験のある人は、大統領の怒った顔を覚えている。そうなると、側近でさえ口を閉ざしてしまう。そのうえ、大統領の周辺には「部下」しかいない。政権の聖域はそのような土壌から生まれる。そして権力が弱くなれば、聖域はアキレス腱となる。

 今、尹大統領が他人に助言する立場なら、おそらく特別監察官(特監)を早く任命すべきだとアドバイスしただろう。特別監査は万能ではないが、特別監査法が定めた1番の「監察対象者」が「大統領の配偶者および4親等以内の親族」であるため、ぴったりの予防・監察システムがすでに存在するわけだ。大統領は直系が高齢の両親だけで、独身の妹が一緒に暮らしている。一方、キム女史本人や実家は全く事情が異なる。特監が任命されれば、誰を注視するかは言うまでもない。

 「特監の危険性を、特殊通出身の尹大統領が知らないわけがありません。チェ・スンシル・ゲートの時も、当時のイ・ソクス特監の内部捜査が起爆剤になりました。だから任命していないんだと思います。今後もずっと空席にしておくでしょう」。尹大統領を初任検事の時からよく知る法曹界関係者の予想だ。10日に就任2カ月を迎えるのに、さらには国会が正常化したにもかかわらず、尹大統領は特監候補の推薦を要請していない。「文在寅(ムン・ジェイン)政権も5年間空席にしていたではないか」という便利な言い訳もあるからなおさらだ。しかし、それは「常識を取り戻した正しい国」の実現を国政の最優先課題に掲げた尹政権には全く似合わない。それほど特監を任命するのがいやなら、設置の根拠である特別監査法を廃棄しようと提案するのが「常識」に合う。

 「はらはらします。事件が起きるのは時間の問題だと思います。小さいものなら幸いですが、大きいものなら…」。法曹人でもある尹大統領の長年の友人は、本気で心配する顔でこう語った。

//ハンギョレ新聞社
カン・ヒチョル論説委員(お問い合わせ japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1050067.html韓国語原文入力: 2022-07-08 02:41
訳H.J

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