本文に移動

[コラム]「Yノミクス」は残酷だろう

登録:2022-06-15 02:38 修正:2022-06-15 07:38
尹錫悦大統領が14日午前、ソウル龍山の大統領室庁舎に出勤し、記者たちの問いに答えている/聯合ニュース

 「尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権の経済政策」を意味する「Yノミクス」とはどのようなものだろうか。

 5月10日の尹錫悦大統領の就任演説から理解の糸口を探ってみた。3つの文に核心の内容が圧縮されていた。

 「自由な市場が息づいていた場所は、常に繁栄と豊かさが花開いていました」、「飛躍と速い成長を成し遂げなければ、(『行き過ぎた両極化と社会対立』という問題を)解決することは難しいと思います」、「(飛躍と速い成長は)ひとえに科学と技術、そして革新によってのみ成し遂げられるのです」

 核心キーワードは自由市場、早い成長、科学と技術だ。全く新しいものはない。李明博(イ・ミョンバク)政権の経済政策がまさにそのような哲学を含意したものだった。

 「政府の規制の最小化と減税によって、経済主体が市場で競争し創意を発揮できるよう市場に任せ、市場で自然に低成長や両極化などの韓国経済の問題が解決されることを目標としている」(毎日経済用語辞典による「MBノミクス」の解説。MB=李明博)

 財閥大企業に対する法人税などの減税、企業主に負担をかける規制の撤廃や緩和が、Yノミクスの前面に掲げられることを予想するのは難しいことではなかった。実際にチュ・ギョンホ副首相兼企画財政部長官が、2日の経済諸団体の長との初の懇談会で、法人税や企業相続税の減税、規制撤廃を確約している。

 法人税の引き下げは考慮しうる。しかし李明博政権時代の例をみると、投資促進という目的を達成できるかは疑わしい。企業に対する減税による税収減少は労働者と自営業者の所得税を増税して埋めることになるだろう。

 公務員の力の誇示に使われるだけの不必要で過度な規制は、なくすか緩和すべきだ。だが労働者の命と健康を守り、経済的強者と弱者との間で公正な交渉と取り引きがなされるようにするための規制、環境保全やバランス発展などの社会的価値の実現のための規制は、むやみになくしてはならない。効率的に作動するかを問えばよい。

 政権発足から1カ月が過ぎた。近いうちに新政権は経済政策の方向性を発表すだろうが、3月9日の大統領選挙後に設置された政権引継ぎ委員会の時代からやってきたことによって、その方向性は推測できる。

 当面の最大の経済懸案は物価だ。尹錫悦大統領は「物価」を何度も強調している。14日には「供給サイドにおいて政府ができる措置はすべて取る」とも述べている。様々な手を尽くしているようにみえる。だが供給側の衝撃から来る物価急騰は、「抑える」というやり方では解決することは困難だ。李明博政権時代にも物価が急騰した際に52の生活必需品を指定して集中管理を行ったが、「MB(李明博)の物価品目が物価を引き上げた」と揶揄されただけだった。尹錫悦政権は輸入豚肉の関税(最高25%)免除、コーヒー豆の付加価値税(10%)の来年までの免除など、生活・食卓物価安定策を5月30日に発表した。1~2カ月もあれば効果がほとんどないことが明らかになるだろう。実際のところ、地方選挙2日前に発表されたこの対策の核心は、高価住宅の保有者であるほど大きな恩恵が得られる「保有税の引き下げ」であり、脆弱階層支援(9000億ウォン、約938億円)はそれを覆い隠すものにすぎなかった。残酷だ。

 物価急騰期の政府政策は、諸経済主体の苦痛と対立にどのように対処するかによって評価しなければならない。原材料価格の上昇を販売価格にそのまま反映できる市場支配力の大きい企業は、あまり苦痛を感じない。最近の精油会社のように、濡れ手に粟のところもある。その一方で、原材料価格は上がっているのに納品単価は上げてもらえない下請け業者、生活必需品価格は上がっているのに賃金は上げてもらえない労働者などに苦痛が集中する。苦痛を公正に分かち合えるように調整することこそ、物価管理よりも大切だ。だが、いま必ずいるべき場所に政府の姿が見えない。

 政府が直ちに取り組むべきは、納品単価連動制の導入だ。原油価格上昇の負担を貨物車主に丸ごと背負わせないよう、運賃が公正に決定されることを助けること、最低賃金の審議過程で実質賃金の削減がなされないようにすることだ。尹錫悦大統領は、すでに弾力税率の限度である30%まで引き下げた油類税のさらなる引き下げを検討するよう指示したという。さらに10ポイント下げても1リットル当たり82ウォン(約8.54円、ガソリン)ほどなのに、微々たるものである上に税収が減るだけだ。むしろその金で実質所得が下落した低所得階層を支援してはどうか。過去最大の62兆ウォン(約4兆4600億円)規模で編成した第2次補正予算に占める物価・国民生活安定予算はわずか2兆2000億ウォン(約2290億円)だ。残酷すぎるのではなかろうか。

//ハンギョレ新聞社

チョン・ナムグ|論説委員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1046970.html韓国語原文入力:2022-06-14 17:29
訳D.K

関連記事