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[コラム] 「常識離れ」した尹大統領の出勤囲み取材での発言

登録:2022-06-10 06:29 修正:2022-06-10 12:14
今月10日で就任1カ月を迎える尹錫悦大統領が9日午前、龍山の大統領室庁舎に出勤し、取材陣の質問に答えている/聯合ニュース

 出勤途中、短くても取材陣と疎通する大統領の姿は新鮮だ。ところが、最近の尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領の発言は、あまりにも常識はずれで失笑を誘う。そのような効果をわざと狙っているのではないかと思われるほどだ。

 尹大統領は7日、出勤途中に「文在寅(ムン・ジェイン)前大統領私邸で起きている保守団体デモをどう思うか」という記者の質問に「大統領執務室前のデモも許可されている状況なので、法に則って(処理)されるのではないか」と答えた。集会とデモに関する常識があれば、あり得ない発言だ。

 集会とデモが意味を持つのは、公的な事案に対する意見を表出する行為であるためだ。その意見表出の相手が重要な公的人物であるほど、集会とデモがさらに幅広く保障されなければならないことは言うまでもない。この点において、現職大統領と前職大統領が天と地の差であるのは、小学生にも分かることだ。ところが尹大統領は前・現職大統領の差を無視したのだ。

 集会とデモの場所に対する規制においても、この「公的な意味」が基準となる。国政を遂行する執務室は公的な場所であり、公的事案に対する意見を表出するのに適切な場所である。一方、私生活が行われる住居である私邸は私的空間であり、集会とデモにある程度制約がなされる場所だ。集会とデモに関する法律は、国会議事堂や裁判所、憲法裁判所などの周辺100メートル以内の集会とデモを制限しながらも、「その機関の活動を妨げる恐れがない場合」などには認めなければならないと例外規定を設けている。ところが、大統領官邸や国会議長公館、最高裁長官公館、憲法裁判所長公館など住居に対しては、このような例外規定なしに集会とデモを禁止している。執務空間と居住空間を区分しているのである。ところが尹大統領はこの区分も無視し、自分の「執務室」と文在寅前大統領の「私邸」を同一線上に置いた。

 公的な意見表出よりは嫌がらせが目的にみえる前職大統領の私邸前の「罵詈雑言デモ」に対し、懸念を表す代わりに「法に則って」という言葉を持ち出したのも残念だが、その「法に則って」の内容まで法原則に合わないことには当惑せざるを得ない。

 尹大統領は翌日の出勤途中にも「法治」という言葉を持ち出したが、「検察独占」人事に対する批判に反論するためだった。尹大統領は「米国のような先進国であるほど、ガバメント・アトーニー(政府で働く法曹人)の経験を持つ人々が政界や官界に幅広く進出している。それが法治国家ではないか」と述べた。難しい英語表現を使って側近の検事らを重用した人事を弁護したわけだが、やはり常識とかけ離れた論理だ。

 法治は絶対君主が勝手に統治すること(人の支配)とは異なり、法律に基づいて国政を運営する「方式」(法の支配)をいう。国政運営を誰が担当するかとは関係がない。学校の授業で法律家(検事)が国政に多く参加するのが法治だと言えば、先生に指摘されたり、生徒たちの笑い物になるだろう。

 法治と関連して考えてみるべき肝心の部分はこのようなものだ。検事時代、ソウル市公務員のユ・ウソン氏スパイ捏造事件で懲戒を受けたイ・シウォン元部長検事が、大統領室公職綱紀秘書官に任命された。犯人をでっち上げた事件に責任があるというのは、検事として消えない汚点だ。にもかかわらず、これ見よがしに大統領室秘書官、それも大統領参謀たちの綱紀を担当する秘書官に抜擢された。専制君主時代なら、王が自分に近い人の過ちを許し、側近に呼び入れることも十分あり得る。しかし、法治国家においてこれでいいのだろうか。米国の「ガバメント・アトーニー」がこのようなことで懲戒を受けたとすれば、他の公職に起用されることは不可能であろう。

 このようなことは他にもある。尹大統領は検察総長の時に受けた懲戒に不服を申し立て、法務部を相手取って訴訟を起こしているが、最近法務部は、これまで法務部を代理していた弁護士に解任を通知した。一審裁判で法務部の懲戒が正当だったという判決を引き出した有能な弁護士をクビにした理由は、容易に推測できる。懲戒処分を受けた検察総長が大統領になり、その最側近が法務部長官になった。法務部は訴訟で負けるしかない状況になったのだ。このような論理が通じるのは「人の支配」の体制だ。「法の支配」なら、法務部は法的手続きに則って行われた懲戒の正当性を主張し続けなければならない。米国司法省で働く「ガバメント・アトーニー」たちは、おそらくそう主張するだろう。

 「法に則って」という言葉は、一見非の打ち所がないようにみえる。しかし、誤った脈絡の中に置かれれば、独断を覆い隠す武器にもなる。それが尹大統領の最近の発言を振り返る理由だ。

//ハンギョレ新聞社
パク・ヨンヒョン|論説委員(お問い合わせ japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1046407.html韓国語原文入力:2022-06-10 02:091
訳H.J

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