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[寄稿]福岡から送る手紙

登録:2022-05-20 11:32 修正:2022-05-20 12:18
イギル・ボラ|映画監督・作家
2022年5月、仁川発福岡行きの飛行機で撮った写真。対馬上空を通過している=写真/イギル・ボラ//ハンギョレ新聞社

 仁川(インチョン)から日本の福岡に向かう飛行機に乗るたびに、もしくは福岡から韓国に帰るたびに、改めて驚く。「ほんとに近い!」って言葉が思わず出てしまう。実際、新型コロナのパンデミックの前は、日帰りで日本に行ってきたりもしたから。仁川空港に向かいながら日本行きの航空券を買ったこともある。もう遠い昔の話みたいだね。

 仁川から福岡までは1時間20分。離陸して、あなたの故郷の釜山を過ぎ、対馬を越えると、飛行機が方向を変える。着陸準備に入るということ。窓の外を眺めてコーヒーを一口飲めば到着。こんなに近いのに、本当にどうしてこんなに遠くなってしまったんだろう。パンデミック以降、両国を行き来するたびにそう思う。

 私が一人で書面で婚姻届を出したことはあなたも知っているよね。新型コロナ感染症の拡散で、日本が韓国と相互ノービザ入国を中断し、韓国人の入国の全面的な禁止措置を実施したことで、文字通り国境が閉ざされてしまった。私は日本国籍のパートナーと生き別れになった。毎日のように日本行きの航空券を検索しながら、いつになったら国境が開かれるのかと待ちくたびれた私を心配してくれたあなたを思い出すよ。そして束の間、日本人・永住者の配偶者に限り新規入国が可能になった時、私はすべてを差し置いて、国際郵便で書類を送ってもらい、婚姻届を出し、ビザを発給してもらった。その時は、本当に無事入国できるのかも確信できなかった。福岡行きの便もないから関西空港に行かなきゃならなかった。パートナーと家族が、私を迎えに来るために福岡から10時間以上運転してきて、また10時間運転して帰ったこと、覚えてる? 改めて思い返しても、途方もないことだったね。

 今回韓国に行って福岡に帰ってきたら、日本語教室の先生からショートメッセージが届いたの。桜は散ってしまったけど、ツツジ、アヤメ、アジサイの季節です、早く会いたいですねって。本当にやさしいでしょ?授業に行ったら、フィリピン出身の受講生が「会いたかった」って喜んで腕を組んできた。いつも通っていたパン屋さんにも行ったよ。「ただいま」って大きな声で日本語で言うと、店長さんと店員さんが覚えたての発音で「アンニョンハセヨ」って韓国語で挨拶してくれたの。ここのパンは相変わらず最高。

 先週末にはある美術館で映画上映とトークイベントをしたんだ。80席の客席がいっぱいだった。みんなマスクをしていて表情は分からなかったけど、天気も良かったし、いい反応だったからよかった。

 あ、スイカおじいさんにも会ったよ。同じ町内に住んでいる、眉毛の濃いあのおじいさん。以前、海でゴミを拾っていたら誤解が生じて、大喧嘩したことがあったって言ったよね。その後、おじいさんは人に向かってむやみに大声をあげないようにしているんだって。その代わり、不審なことがあれば警察にすぐ電話するんだって。韓国に行ってきたのか、ニンニクと玉ねぎを収穫したから持ってけって。ニンニクの芽もくれた。日本でもこれを食べるんだね。私は韓国風にコチュジャンで和えるつもり。

 隣の家の子どもはすくすく育ってる。やっとよちよち歩きができたくらいだったのに、韓国に行って帰ってきたら、もう駆け回っているんだ。ときどき言葉も話すよ。韓国語を少しずつ教えてみようと思ってる。子どもがかわいいなんて一度も思ったことがなかったのに、この子を見ていて少しずつ考え方が変わってきたんだ。子どもが育つのを見守るのって、本当に不思議なことだね。

 国境はいまだに閉じている。良いニュースは、今月中に金浦-羽田路線が再開されて、6月からは日本政府が外国人観光客に門戸を開くってこと。そうなればあなたも福岡に来る飛行機に乗れるね。たぶん「こんなに近いの?」って思うだろうな。早くあなたもその感覚を感じてほしい。国境を越える、その感覚。ずっと待っていたよ。毎日眺める海を見せてあげたい。海に沿って歩けば町中の人たちに会えるよ。その道を一緒に歩きながら、ここの友達を紹介したい。そして私たちは考えるだろうね。国境とは何かを、そことここがどれだけ近いかということを。

2022年5月、福岡市今宿の海岸=写真/イギル・ボラ//ハンギョレ新聞社
//ハンギョレ新聞社

イギル・ボラ|映画監督・作家 (お問い合わせ japan@hani.co.kr)

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1043406.html韓国語原文入力:2022-05-19 02:37
訳C.M

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