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[コラム]第20代大統領選挙と大韓民国の将来

登録:2022-02-16 03:13 修正:2022-02-16 08:39
将来の展望は見えず、果てしなく過去に回帰している。古い労働観、旧態依然とした思想検閲、好戦的冷戦意識が乱舞している。暗い現実だが、それでも私は信じる。「成熟した市民の組織された力」が、この国が野蛮の奈落へと転落するのを最終的に防ぐことだろう。 
 
キム・ヌリ|中央大学教授(独文学)
第20代大統領選挙の選挙戦が正式に幕を開けた。左から正義党のシム・サンジョン候補、共に民主党のイ・ジェミョン候補、国民の力のユン・ソクヨル候補、国民の党のアン・チョルス候補//ハンギョレ新聞社

 第20代大統領選挙の選挙戦が正式に幕を開けた。「最悪の中の最悪」を選ぶ「過去最大級の非好感選挙」という酷評の中、いかなる熱気も、希望も、感動もないおかしな選挙が進んでいる。好感の持てる候補がいないと誰もが不平を言っているが、本当の問題は候補たちに将来のビジョンが見えないというところにある。実に憂慮すべき事態だ。いま大韓民国は、大転換の時代にあってさまよっている。

 巨視的な視点から見れば、第20代大統領選挙は3つの重要な意味を持つ。第1に、今回の選挙は大韓民国の新たな100年において最初となる大統領選挙だ。1919年の大韓民国建国から100年の歳月の間に、この国は近代国家が体験しうる歴史的悲劇をすべて経験してきた。植民地の歴史、分断の歴史、冷戦の歴史、内戦の歴史、軍事独裁の歴史をすべて経験したのだ。このような歴史的試練の中で、韓国は輝かしい民主革命と驚異的な経済成長を成し遂げた。この100年間の栄辱の歴史を振り返れば、大韓民国の新たな100年を切り開いてゆく大統領の地位は、決して軽いものではない。今回の大統領選挙は、悲劇の一世紀を脱して新たな希望の時代へと飛躍する「歴史的転換」のきっかけとならなければならない。

 第2に、今回の大統領選挙は「先進国大韓民国」で行われる最初の大統領選挙だ。昨年、国連貿易開発会議(UNCTAD)は大韓民国の地位を「開発途上国」から「先進国」へと変更した。世界10位の経済規模、主要7カ国(G7)首脳会議(サミット)への参加、「30-50クラブ」への加盟などは、大韓民国が名実共に先進国になったことを示している。今や「先進国らしい先進国」を作ることが次の大統領の課題だ。そのためには何よりも韓国社会を「成長社会」から「成熟社会」へと転換しなければならない。今回の大統領選挙はこうした「社会的転換」の出発点とならなければならない。

 第3に、今回の選挙はポストコロナ時代に行われる最初の大統領選挙だ。コロナ・パンデミックは「すべての価値の転倒」を求めている。今はあらゆることを考え直さなければ人類の生存そのものが不可能な世となっている。特に物質文明から生態(エコ)文明への文明史的転換は不可避だ。今回の大統領選挙はまさにこのような「生態的転換」の始発点とならなければならない。

 要するに、第20代大統領選挙は「大韓民国の新たな100年」の歴史的転換、「先進国大韓民国」の社会的転換、「ポストコロナ時代」の生態的転換という「三重の転換時代」に行われる最初の選挙だ。このような転換の時代の意味を洞察するとともに、巨大な転換を担うビジョンと能力を備えた大統領を選ばなければならない。

 しかし今回の大統領選挙は絶望的なほど失望させられる。第1に、論争していることが極めて時代錯誤的だ。将来の展望は見えず、果てしなく過去に回帰している。古い労働観、旧態依然とした思想検閲、好戦的冷戦意識が乱舞している。

 第2に、論争内容が極度に保守的だ。先の米国の大統領選挙で、民主党のサンダースとウォーレンは大学の無償化、大学生の負債の帳消し、無償保育、富裕税の導入を最重要公約として掲げた。いま韓国では、米民主党が示した水準の公約を掲げる候補すら見当たらない。これは、韓国政治が極端に右傾化していることを裏付ける。

 第3に、論争の視点が極めてミクロだ。国の将来をマクロ的に構想すべき大統領候補が「小さくとも確かな幸せ」云々し、現実への安住のイデオロギーに便乗している。

 特に憂慮されるのは、現在、最も当選が有力視されるというユン・ソクヨル候補の退行性だ。彼はこの時代が求める「3大転換」に最も不適切な人物だ。「新たな100年の大韓民国」は進取的な歴史意識を持った大統領を求めるが、彼の歴史意識は非常に時代錯誤的だ。「滅共(共産主義を亡ぼすの意)」パフォーマンスであらわになった冷戦意識、「先制攻撃論」で表われた好戦的対決意識は、朝鮮半島に新たな戦争の危機をもたらす危険性が高い。また「先進国大韓民国」は成熟した理性的な指導者を求めるが、ユン候補が示す権威主義的性格、低い人権感受性、シャーマニズム的性向は、先進国の指導者の水準に満たない。さらに「ポストコロナ大韓民国」はエコロジーに対する感受性を持った指導者を求めるが、ユン候補はエコロジーの意識どころかエコロジーの基本知識も欠如している。

 「ユン・ソクヨル現象」を作り出した責任は何よりも文在寅(ムン・ジェイン)政権と民主党にある。ユン・ソクヨルは民主党に対する怒りのアンサンブルだからだ。これに対して民主党は痛切に反省し、率直に許しを請うべきだ。それがろうそく市民に対する最小限の礼儀であり、選挙の勝利のための最小限の条件だ。暗い現実だが、それでも私は信じる。「成熟した市民の組織された力」が、この国が野蛮の奈落へと転落するのを最終的に防ぐことだろう。

//ハンギョレ新聞社

キム・ヌリ|中央大学教授・独文学 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1031201.html韓国語原文入力:2022-02-15 16:42
訳D.K

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