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[コラム]張芸謀監督と陳凱歌監督の「劇場政治」

登録:2022-02-14 06:47 修正:2022-02-15 06:11
Jaewoogy.com//ハンギョレ新聞社

 張芸謀(チャン・イーモウ)監督が1980~90年代に作った『紅いコーリャン』『紅夢』『活きる』や、陳凱歌(チェン・カイコー)監督の1993年作の『さらば、わが愛/覇王別姫』は、韓国の観客が最も愛する中国映画だ。中国の「第5世代監督」と呼ばれる彼らは、文化大革命の廃墟の上に登場した。文革の苦痛を直接経験した彼らは、歴史の荒波のなかで犠牲になり傷だらけになっても屈しない生命力で耐え真の心を守る、中国の民衆の姿を描きだした。1992年の韓中国交正常化の直後の中国の「第一印象」は、そのようなものだった。

 張芸謀監督は、2008年と2022年の夏季・冬季北京五輪の開会式をすべて演出した。今年の開会式には、韓服を着た朝鮮族をはじめとする少数民族の団結を強調し、聖火の最終走者としてウイグル人選手を前面に出した。国際社会の新疆ウイグル人に対する弾圧への批判に正面から対抗する演出により、中国国内では歓呼を、国際的には議論を引き起こした

 今の中国の映画界では、張芸謀監督が娘の張末(チャン・モー)監督とともに作った『狙撃手』と、陳凱歌監督が共同監督を務めた『長津湖の水門橋』が正面対決している。両方とも朝鮮戦争を題材にした「愛国主義宣伝映画」だ。『狙撃手』は、朝鮮戦争の後半期に米軍を相手に中国軍のある部隊が行った遊撃戦を描いた。『長津湖の水門橋』は、昨年の中国共産党100周年の記念映画だった『長津湖』の続編だ。これらの映画は、朝鮮半島を背景にはしているが、南北朝鮮の軍人や住民は一人も登場せず、徹底的に米中の対決で朝鮮戦争を描いている。米軍は圧倒的な武器を持つ傲慢な悪党であり、中国軍は、凍ったジャガイモ一つで一日を持ちこたえながらも、強靭な意志で劣勢を克服する英雄として描写されている。「米国鬼子、何人殺せば英雄とみなされるのか」というセリフに圧縮される世界観だ。『長津湖』の海外上映はごくわずかだが、世界最大の中国の内需市場だけで、昨年の全世界の映画のなかで収益第2位になった。

 習近平国家主席の就任後、中国の路線・理念・制度・文化が西欧より優れているという自信と排外的な愛国主義が強調され、中国と外部世界の間の壁が極めて高くなった。リアリズム強硬外交を主張してきた精華大学の閻学通教授でさえ、最近の講演で、「中国の若者世代は、中国だけが正義であり、他の国、特に西欧の国々は邪悪だと考える二分法で世界を見ている」と懸念し、「中国の歴史の複雑さと世界の多様性を理解するよう教育しなければならない」と述べた。

 しかし、五輪の開会式の巨大なスクリーンに映った習主席が威圧的に観客を見下ろす「劇場政治」が示したように、政治的な目的のために愛国主義を呼びだした習近平主席は、愛国主義のトラの背中から降りることは難しい。その「劇場国家」において、張芸謀監督と陳凱歌監督はいまや、弱者ではなく権力の視線、コミュニケーションではなく中華の偉大さを宣伝する最も有能な扇動家に変身した。

パク・ミンヒ論説委員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1030862.html韓国語原文入力:2022-02-13 14:00
訳M.S

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