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[コラム]二度の北京五輪が変えた世界

登録:2022-01-15 02:39 修正:2022-01-16 21:47
2008年8月8日、北京国家体育場(鳥の巣)で、張芸謀監督が演出した開幕公演が行われた=ハンギョレ資料写真//ハンギョレ新聞社

 2008年8月8日午後8時8分、筆者は北京五輪の幕が上がる現場にいた。真夏の夜、李明博(イ・ミョンバク)大統領やブッシュ米大統領など、各国の指導者たちが胡錦濤国家主席をはじめ中国指導部と並んで座っていた。米中が「テロとの戦争」と経済的利益で緊密に協力する「チャイメリカ」体制の絶頂期だった。張芸謀監督の演出で、「論語」の内容と共に2008人が一斉に演奏する壮大な太鼓の音で始まった開幕公演は、中国の伝統と先端技術を融合させ、「中国が偉大になった」と宣言しているかのようだった。

 五輪が閉幕した直後、米ウォール街の金融会社リーマン・ブラザーズが破産し、米国と世界は金融危機に陥った。中国は国家主導の大規模浮揚策で危機から最も早く立ち直った。中国では「中国モデルが米国モデルより優れている」、「もはや米国から学ぶことがない」という声が高まっていた。帝国主義の侵略を経験したアジアの中国が、米国の覇権とは異なる代案的秩序を示すことを期待する人も多かった。

 金融危機直後に政権に就いた米国のオバマ政権は「ピボット・トゥ・アジア」(アジアへの旋回)戦略を打ち出し、中国牽制に乗り出した。2009年に中国は台湾、南シナ海、チベット、新疆ウイグル自治区などを外部から絶対に介入できない「核心利益」だと主張し始めた。2010年7月のASEAN外相会議で、中国の楊潔チ外交部長は南シナ海をめぐる周辺諸国の反発を一蹴し、「中国は大国で、あなたたちは小国だ。これが現実だ」と宣言した。

 中国社会の内部では、労働運動や市民社会が成長していた。激しい不平等や土地没収、環境汚染に抗議し、弱者の権利を求める声が高まった。一時は「下から変化の要求」を受け入れて妥協する姿勢を見せた中国指導部は、共産党の統治が揺らぎかねないという不安を感じ始めた。「漸進的政治改革」に対する暗黙的約束が姿を消し、権威主義体制を強化する動きが始まった。民間の役割が拡大していた経済分野でも、「中国式の国家資本主義」を強化しようとする勢力が主導権を握った。

 そして中国とロシアが手を結んだ。2009年上海協力機構(SCO)サミットで、プーチン大統領は胡錦濤主席の袖を引っ張りながら、「中国で非政府組織(NGO)を統制しなければ、あなたたちの国で革命が起きる」と警告したという(デイビッド・シャンボー著『中国グローバル化の深層「未完の大国」が世界を変える』)。2014年、ロシアがウクライナ領土だったクリミア半島を合併すると、中国は南シナ海に人工島と軍事施設を建設した。現在、プーチン大統領はウクライナを軍事的に威嚇し、米国にロシアの「影響権」を認めるよう要求し、習近平国家主席は台湾に対する「武力統一」の可能性をちらつかせ、米国に圧力を加えている。「米国が安全保障上の脅威になり、国内市民社会が政権の脅威になる」という不安を共有する中ロの「帝国夢」が世界秩序を揺さぶっている。

2019年6月6日、ロシアのモスクワで首脳会談を開いたウラジーミル・プーチン大統領と中国の習近平国家主席=モスクワ/タス・聯合ニュース

 最初の北京五輪が巨大な激変の出発点になってから14年ぶりに、来月4日、北京冬季五輪が開幕する。昨年末、中国共産党史上3度目の「歴史決議」を通過させ、権力を強化した習近平国家主席は、今回の五輪を通じて「強い中国」の存在感を誇示し、今秋の第20回党大会で長期執権の道に進むための正統性の確保の舞台として活用しようとしている。今年1年間、中国指導部の愛国主義動員と社会統制はさらに強まるだろう。習近平主席が主要業績と宣言した「ゼロコロナ」を維持するための強力な都市封鎖と「反腐敗」を掲げた粛清が続いている。11月の中間選挙を控えた米国のバイデン政権も、今年1年間は中国牽制を強化する見通しで、米中対立はさらに激しくなる可能性が高い。米国の対中国牽制包囲網は、安全保障、先端技術、サプライチェーンの再編、原材料など様々な戦線でさらにきめ細かくなり、中国の反撃も激しさを増すだろう。

 韓国は今年の大統領選挙と韓中国交正常化30周年を、世界秩序の激変の中で外交戦略を再整備するきっかけにしなければならない。そのためにはまず、北朝鮮問題で中国の協力を得るのに外交力を過度に集中してきた対中国外交の変化が必要だ。中国が北朝鮮の非核化よりも安定を優先することを決めた状況で、韓国が南北関係に対する中国の協力に執着すればするほど、外交的立場が弱くなる。中国が「内循環戦略」で経済の自力更生の要素を強化していく状況で、韓国は中国依存度を減らす対策作りに力を入れるべきだ。「限韓令」が解除され、再び中国で韓流が花開く時期は、当分は期待できないという現実も直視しなければならない。

 韓国は国際社会の様々な勢力と連帯し、荒波の時代を乗り越えていかなければならない。朝鮮半島をはじめとする東アジアの平和、先端技術とサプライチェーンの再編、人権と民主主義の向上に向け、立場の近い国々との協力を強化する必要がある。韓国の進歩的市民が、政治的目的のために無責任で退行的な「滅共(共産主義勢力を滅ぼす)」「嫌中」を扇動する人々に断固として対抗しながらも、強大国の覇権主義を批判し、平和を守るために連帯し、弱者の権利のために努力するという初心に返って、中国と再び向き合うことを望む。

 大統領府は、文在寅(ムン・ジェイン)大統領が北京五輪の開幕式に出席せず、代表団の構成は検討中だと明らかにした。「外交的ボイコット」には参加しなくても、韓国が中国で抑圧されている人々の苦しみに背を向けていないことを伝える方法を模索してほしい。

//ハンギョレ新聞社
パク・ミンヒ | 論説委員(お問い合わせ japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1027180.html韓国語原文入力:2022-01-13 19:01
訳H.J

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