本文に移動

[コラム]東郷茂徳と米国の戦線

登録:2022-01-27 01:07 修正:2022-01-27 07:47
ウクライナに隣接するクリミア半島で18日、ロシア軍の装甲車が列をなして道路を走っている。ロシアは2014年、ウクライナのクリミア半島を武力で合併した/AP・聯合ニュース

 先週末、鬱屈した気持ちで東郷茂徳(1882~1950)の回顧録を取り出した。壬辰倭乱で日本に連れて行かれた朝鮮陶工の末裔である東郷(朝鮮式の名前は朴茂徳(パク・ムドク))は、1941年12月に米国に対して開戦を宣言した東条英機内閣の外務大臣として歴史に名を残した。悲惨な破局へと近づいているウクライナ周辺情勢を見て、80年前に似たような状況で戦争を防げなかった東郷の内面が知りたくなったのだと思う。

 東郷は、自分が忠誠を尽くした「大日本帝国」のように矛盾した人生を生きた。彼の人生を貫く最大の矛盾は、太平洋戦争の開戦と敗戦という正反対の局面で外務大臣を務めたことだろう。1937年7月の日中戦争によって日本の大陸侵略が本格化し、米日関係は急速に悪化しはじめた。4年の月日が流れ、対立が「原油禁輸」などの厳しい制裁局面に突入していた1941年10月17日の夜11時半ごろ、東郷のところに東条から電話がかかってきた。外務大臣への就任を要請する連絡だった。東郷は「相当な譲歩を覚悟し、合理的な基礎の上で(米国との)交渉が成立するよう真に協力するという意志がないならば、入閣を承諾する意思はない」と答えた。

 東条は協力すると言ったが、交渉は容易ではなかった。米国のコーデル・ハル国務長官は11月26日、後日「ハル・ノート」と名づけられることになる最後通牒を日本に提示した。ハル・ノートには、無条件に中国から撤兵すること▽蒋介石の国民党政権以外の中国政府を認めないこと▽独伊日三国同盟を廃棄することなどの要求が記されていた。東郷は米国の要求を「長きにわたる日本の犠牲を完全に無視し、極東の大国としての地位を捨てろということを意味する」と受け取り、交渉を放棄することになる。「最後の穏健派」が落胆した直後の12月8日未明、真珠湾攻撃が行われた。その結果、日本は310万人の自国民と、それよりはるかに多くの周辺国の市民を死に至らしめた無謀な戦争へと突入していく。

 複雑な世界史を学ぶたびに、地球上のあらゆる国にはそれぞれ独特の事情があり、そのために決して譲歩できない「線」を心に抱くようになるということを痛感する。80年前の日本にとって、それは「極東の大国としての地位」であり、現代の中国にとっては、台湾は中国の一部であるという「一つの中国」原則であり、ロシアにとっては北大西洋条約機構(NATO)が旧ソ連の一部だったウクライナにまで拡大することは許さないという最後の自尊心なのだ。

 それに比べて米国はどうか。ジョー・バイデン大統領はいくつかの戦線で厳しい対決を続けている。最初はウクライナと台湾海峡という「2つの戦線」があるだけだと考えていたが、それは大きな勘違いだった。2015年7月の核合意(JCPOA)を復活させて国家の尊厳を守ろうとしているイランは中国とロシアに必死に接近中で、北朝鮮は「敵視政策の撤回」を主張しつつ奇怪なミサイルを連日発射している。内憂外患に弱まった米国が、これらのすべての戦線で勝利を得ることはおそらく不可能だろう。

 幸いなことに米国内からも、もういい加減に合理的に考えるべきだとの声が聞こえてきている。ウィリアム・ペリー元国防長官らは13日付の「ロサンゼルス・タイムズ」への寄稿で「2021年のイランは20年前の北朝鮮に似ている」とし、この問題を今のように放置すれば、イランも20年後には核武装することになるだろうと警告した。同氏らは「完璧の追求は、時に善行の敵になる」と付け加えたが、じっくり噛みしめるべき名言だ。米カトリック大学のマイケル・キメージ教授の主張はさらに果敢だ。同氏は17日、「NATOの門戸を閉じるべき時」と題する「フォーリン・アフェアーズ」への寄稿で、「世界で最も危険な国(ロシア)が隣にあるのに、すでに拡張しすぎた同盟にウクライナまで引き込むことは、『戦略的狂気』となるだろう」と述べた。

 あらゆることが切迫した複数の相手を前にして、米国にとって絶対に守るべき「線」とは何だろうか。今後の人類の運命を決める中国との戦略競争において、有利な位置に立つことだろう。そのためには果敢な戦線の縮小が必要だ。ロシア、イラン、何よりも北朝鮮との対立を収拾するために「相当な譲歩を覚悟し、合理的な基礎の上で交渉が成立するよう真に協力」しなければならない。

//ハンギョレ新聞社

キル・ユンヒョン国際部長 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1028940.html韓国語原文入力:2022-01-26 18:34
訳D.K

関連記事