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[コラム]BTSのJ-HOPEの 「コンドーム柄シャツ」

登録:2021-12-23 07:51 修正:2021-12-23 08:20
//ハンギョレ新聞社

 「割れ窓理論」は米国犯罪学者のジョージ・ケリングと政治学者ジェームズ・ウィルソンが1982年に米国の月刊誌「アトランティック・マンスリー」に寄稿した文で最初に登場した。軽犯罪を放置すれば、凶悪犯罪につながるという犯罪心理学理論だ。

  1994年にニューヨーク市長になった連邦検事出身のルドルフ・ジュリアーニは「割れ窓理論」を適用し、ニューヨークの地下鉄と路上の落書きを消し、信号違反やただ乗りを積極的に取り締まった。 ニューヨーク市民たちは「凶悪犯罪には対応せず、軽犯罪ばかり処罰する」と反発した。ところが、人々の予想を覆す結果が出た。ニューヨーク市の犯罪率が下がり始めたのだ。「割れ窓理論」を適用してから3年でニューヨーク市の凶悪犯罪が80%も減少した。 ジュリアーニはギネスブックに世界で犯罪率を最も大きく減少させた市長として掲載され、再選にも当選した。

 しかし、また別のどんでん返しがあった。シカゴ大経済学部教授のスティーヴン・レヴィットが著書『ヤバい経済学』(原題:Freakonomics)で「割れ窓理論」を覆してしまったのだ。レヴィットは、ニューヨーク市の犯罪が1990年から減り始め、1993年には凶悪犯罪がすでに20%も減少したと分析した。これはジュリアーニが市長になる前だ。さらに、1990年代の犯罪率はニューヨークだけでなく、全米で減少したという。最悪の犯罪都市として悪名高いロサンゼルスでも、ニューヨークと同じくらい犯罪が減ったということだ。

 レヴィットはニューヨーク市の犯罪が減った理由を「ロー対ウェード」裁判で説明する。同裁判は、望まない妊娠をしたテキサス州ダラス在住の女性が、中絶手術を受けようとしたが、当時のテキサス州法が中絶を認めなかったことから始まった。女性の仮名である「ロー」を原告、ダラスの検事ヘンリー・ウェードを被告としたこの裁判は、連邦地裁を経て連邦最高裁でも続いた。1973年に連邦最高裁は「政府は個人の生命・自由・財産を剥奪できない」という修正憲法第14条の「プライバシー権利」を理由に、中絶を処罰する州法を違憲とする判決を下した。事実上、人工妊娠中絶を認めたもので、その後、中絶を禁止したり制限する法律は廃止された。

 レヴィットは、中絶が認められ、養育の準備ができていない状況で生まれた子どもたちが減ったことで、犯罪もともに減少したと主張した。1990年代初めは、連邦最高裁判所の中絶違憲判決後に生まれた子どもが10代後半になった時期だ。この時、犯罪率が下がり始めたのだ。レヴィットは「中絶の合法化が犯罪率を下げた」という主張の根拠として統計を提示した。ニューヨーク、カリフォルニア、ワシントン、アラスカ、ハワイは、連邦最高裁の決定が出る2年前から中絶が合法化された。これら5州は他の45州と比べて1998年から犯罪率が下がった。1970年代に中絶が多く実施された州は、1990年代の犯罪率が最も大幅に減少した一方、中絶の割合が低い州では犯罪の減少率も少なかった。

 子どもをしっかり育てられるかどうかを最も正確に判断できるのは女性だ。レヴィットは「女性が子どもを望まない場合は、それだけの理由がある」と強調した。養育の環境が整っていない状況で生まれた子どもは適切な保護を受けられず、結局犯罪を犯す確率も高くなるというのがレヴィットの主張だ。

 中絶が犯罪を減らしたという経済学者の主張は興味深い。しかし、現実的に中絶には多くの副作用が伴う。中絶はその賛否をめぐり政治・社会的に論争の的になっている。倫理的な問題とも結びついている。何よりも中絶は妊婦の精神と健康を害する。

 このような複雑な問題を簡単に解決するのがコンドームだ。コンドームは望まない妊娠を中絶のような副作用なしに予防できるからだ。しかし、韓国ではコンドームは一般的に隠さなければならない物と考えられている。コンドームを青少年に売ってはいけないという誤った考えを持っている人も多い。学校でコンドームに関する教育を企画したが、保護者たちの抗議で実現しなかったこともある。韓国は経済協力開発機構(OECD)加盟国の中で中絶率が1位であると同時に、コンドーム使用率が最下位だ。

 防弾少年団(BTS)のメンバー、J-HOPEが着ていた「コンドーム柄シャツ」が議論と共に予想外の展開を招いた。J-HOPEは8日、インスタグラムにコンドーム模様の入ったシャツを着た写真を掲載した。この写真について一部のネットユーザーたちは「扇情的で不快だ」と批判した。

 その後、状況が一転した。この製品を販売する企業は「コンドーム柄シャツ」が「安全で肯定的で責任感のある性関係を支持する意味」だと説明した。今回の出来事をきっかけに、J-HOPEがファッションでよい影響を広めたのは、初めてではないということも知られている。J-HOPEは昨年11月には「FREE VOLT」のTシャツを着用した写真をフェイスブックに公開した。このブランドは、販売収益金を世界の疎外階層の子どもや障害者のために使用している。J-HOPEは2019年には乳がんに対する認識の改善のために製作したTシャツを着た写真をツイッターに掲載した。彼がファッションでよい影響をもたらしているのが「コンドーム柄シャツ」でもう一度刻印されたわけだ。

チョン・ヒョクチュン文化部記者(お問い合わせ japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1024368.html韓国語原文入力:2021-12-22 18:45
訳H.J

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