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[コラム]コロナで「労働者優位市場」が始まるのだろうか

登録:2021-11-10 08:03 修正:2021-11-10 08:41
コロナ禍で爆発した労働力不足問題は、パラダイムの転換なのかもしれない。出生率低下や人口減少などを経済成長にとっての悪とみなすのは、低賃金を好む資本家の見解でしかない。資本と労働のすべてにとって、生活の質を高める好機だと考えてみなければならない。
昨年11月、「ブラックフライデー」を控え、世界最大の電子商取引企業であるアマゾンで働く15カ国の労働者が連帯ストライキと抗議デモを起こした。写真はバングラデシュで行われたデモ=バングラデシュ労働組合のツイッターよりキャプチャー/聯合ニュース

 米国や欧州で、労働者が足りないと騒がれている。

 米国の飲食店では、従業員が見つからず就業時間を縮めている。英国では、油を運送するトラックの運転手がおらずガソリンスタンドには長い列が並んだ。米国で歯科医を営む知人は、看護助手を見つけることができず、診療に支障をきたしていると困り果てていた。

 サプライチェーンの停滞と労働力不足は、コロナ禍後の先進国の経済の代表的な症状だ。サプライチェーンの停滞は、これまで延期されてきた発注に加え、今もなお正常化されていない防疫によるものだが、労働力不足は予期できなかった現象だ。

 米国労働省が10月12日に発表した「月間新規雇用および労働移動率」の統計によると、8月に1040万の雇用が創出された一方、離職した労働者の数は430万人に急増した。430万人の離職は、関連統計の発表を始めた2000年12月以降で最高値だ。

 「ウォールストリート・ジャーナル」は10月14日、「米労働者430万人、仕事に復帰しないのはなぜ」という長文の調査報道を掲載した。現在の米国の労働市場からはコロナ禍前に比べ430万人の労働者が消えたが、これは仕事に就いているか求職している16歳以上の人口の経済参加率が、2020年2月に比べ63.3%にすぎないという意味だと報じられた。同紙は、コロナ禍で労働者が自発的に職場をやめただけでなく、就業の機会の増加にもかかわらず職場に復帰していないと報じた。

 オランダの多国籍金融グループ「ING」の経済分析専門家は、米国の雇用が2020年2月に比べ500万減ったが、これは雇用が少ないのではなく供給がないからだと指摘した。米国では現在、1000万の雇用が空いているという。

 保守的な経済学者らは、米国などの先進国の政府が積極的に提供した新型コロナ支援金と強化された失業手当により、労働者の労働意欲が下がり、遊び食べながら暮らしていると診断している。しかし、米国では補助金や強化された失業手当を早期終了した州でも、労働力の増加現象は感知されていない。むしろ、8月の統計によると、強化された失業手当の支給を継続する州の方が、失業手当を早期終了した州に比べ就業増加率がわずかではあるが高かった。特に英国と欧州では、減った労働時間や一時解雇期間に比例して補助金や失業手当を提供している。補助金などを得て遊んでいる余裕はないということだ。

 米国などの先進国の労働力不足は、コロナ禍前にその根源があるという専門家の指摘が相次いでいる。以前から潜在していた労働に対する労働者の考えが、コロナ禍後に現実的に爆発したということだ。休暇もない劣悪な作業環境と低賃金の職場に、労働者はもう戻らない。

 ベビーブーム世代の早期引退、MZ世代の少子化、移民制限に加え、会社に毎日出勤するこれまでの職場に対する選好度の減少などが、コロナ禍を機に複合的に作用した結果だ。このような労働力不足問題は、一時的なものというより長期的に続くものだと、INGの経済分析専門家は指摘する。

 最近、ハリウッドの労働者のストライキや、アマゾンなどそれぞれ異なる大企業のストライキで、労働者たちは単純な賃上げではなく、生活の質を要求し貫徹している。レジャーと接客の分野では、コロナ禍前に比べ雇用が9%も減った一方、賃金は18%上がった。経済学者のポール・クルーグマンは、これを休暇もない劣悪な仕事環境と低賃金の職場に対する「米国労働者の蜂起」だと規定した。クルーグマンやマサチューセッツ工科大学(MIT)の経済学者のデイビッド・オーター教授は「労働力不足は良いこと」だと歓迎している。

 米国経済は過去40年間で雇用が両極化し、多くの労働者は劣悪な低賃金の雇用に追いこまれた。これにより、米国の所得下位20%世帯の構成員1人に対し、様々な形で9500ドル相当の国家補助が支給されるようになったと、オーター教授は指摘する。この金額を賃金の形で支給することが、労働者や国家全体から見てはるかに健全なのは自明だ。

 労働経済学者や労働組合の間では、1980年代のロナルド・レーガン政権期にストライキをした航空管制官らが大量に解雇されてから萎縮していた労組運動が復活し、労使関係で労働者優位に向かう転換点だと評価されている。先進国での労働力不足問題は、労働市場と社会のパラダイムの転換なのかもしれない。出生率低下や人口減少などを経済成長にとっての悪とみなすのは、低賃金を好む資本家の見解でしかない。資本と労働のすべてにとって、生活の質を高める好機だと考えてみなければならない。

//ハンギョレ新聞社

チョン・ウィギル|先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1016510.html韓国語原文入力:2021-10-26 02:33
訳M.S

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