988年、キエフ公国のウラジーミル大公は、三大一神教の宗教のうち、どの宗教をロシアに持ってくるか決められずにいた。彼は、ユダヤ教、イスラム教、キリスト教の地に使節を送った。使節は三つの宗教の話を持って帰ってきた。
伝説によると、ウラジーミルは、食習慣の制限のためユダヤ教とイスラム教を拒否した。ビザンツから帰ってきた使節は、コンスタンティノープルのアヤソフィア聖堂の美しさについて語った。その結果、ウラジーミルはキリスト教(ロシア正教)を選択し、臣下に改宗を強要した。1000年が過ぎた今日でも、ロシアは正教会の国家としてありつづけている。
では、自分の国にどのような政治体制を選択するか決めなければならない現代の国家の統治者を想像してみよう。統治者は三つの異なる領域の首都であるワシントン、ブリュッセル、北京に使節を送る。1カ月後、使節団が帰ってくる。
ブリュッセルから帰ってきた使節は、欧州について説明する。彼は「各国がそれぞれ民主主義を持っていて、民主主義の欧州連合を形成するために協力しています。不遇な人々に対する社会的な責任意識が強く、国家は経済において重要な役目を果たしていて、市民はすべての水準のガバナンスに参加し、活気あふれる多言語文化があります。一方、ブリュッセルの意思決定は極めて混乱していて、多くの人々が恣意的に見える規則に対して不満を言っています」
統治者は「わが国に、彼らのシステムを選択するべきか?」と尋ねる。使節は「わが国の多様性によく合います。なので、私の返答は『条件付き賛成』です」と答える。
次の使節は中国について説明する。「広大な地を一人が治めています。彼は事実上、自らを終身の指導者だと宣言しました。一部の地方にはある程度の独立性がみられますが、厳格で階層的な政治システムです。一方、国家は数多くの人々を貧困から救い、経済的には成長を続け、気候変動のような問題の解決のために、資源を非常に素早く割り当てることができます」
「そのシステムを選択すべきか?」と聞かれ、使節は答える。「経済成長だけを考えるのであれば、良い選択です。しかし、ここは考えが異なる人々には良い所ではなく、私たちは多様性のある国家です。私の返事は『条件付き反対』です」
統治者は最後の使節に向かって言う。「米国は地球上最高の国だと自慢している。米国式民主主義を選択すべきだろうか?」
使節はしばらく黙った後、「米国は極めて奇妙な国」だと語った。「米国は、自身を民主主義と呼びますが、それが正確な名札なのかは確信できません。例えば、議会では一人が多くの重要な法案の通過を妨げています。ウェストバージニア出身のある民主党上院議員は、金額が非常に大きく、化石燃料の使用を減らすための費用が含まれているという理由で、大規模な支出法案を妨げています」
統治者が尋ねる。「そのような政策立案者らが、国益のために一緒に働けるだろうか?」
使節は「米国は極めて両極化されています」と答える。「多くの共和党議員は、前回の大統領選挙で敗れた前大統領が実際には勝利していたと考えています。彼らは、前回の選挙で詐欺があったといいますが、証拠は全くありません」
「それでは話にならないだろう」と統治者が言う。
「国が文字通り崩壊しています」と使節が答える。「道路、橋、公共交通などがめちゃくちゃなのに、選挙で選ばれる官僚は、簡単な解決策にさえも合意できません。かなり穏健な銃規制にも合意できません。クーデターを起こすところだった前大統領が事実上の党首であり、2024年に再び出馬する可能性が高いです」
使節は「さらにその政府は、自国の民主主義を海外にモデルとして広報を続けています。モデルとしてですよ!誰かが自分たちの民主主義に従いたがなんて、どうして考えられるのでしょう。率直に言って、米国が今後5年のうち二つに分かれて片方が独裁になっても、私は驚きません」
統治者は使節の肩に手をおいて言う。「使節団をもっと送らなければならないようだ。韓国、ニュージーランド、ブータンなどについて良い話を聞いたのだが…」
ジョン・フェッファー|米国外交政策フォーカス所長 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )