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[寄稿]中国を主敵としようという政治

登録:2021-07-23 06:11 修正:2021-07-23 08:22
キム・ジョンデ|延世大学統一研究院客員教授

 『目に見えぬ侵略 中国のオーストラリア支配計画』の著者であるオーストラリアのクライブ・ハミルトン教授は最近、韓国のあるメディアとのインタビューで「中国の顔色などをうかがう韓国の政治家はしっかりしろ」と非難した。彼は「韓国人がようやく勝ち取った自由と独立が、今では(韓国の)親中政治家、財界エリート、世論形成者によって売りとばされている」と診断する。「韓国は中国から金を受け取って、媚びへつらい続ける」か、「逆に中国が科す経済的な処罰に耐えながら自由と独立を得るための代価を払うか」を選択せよという主張だ。野党の政治家たちは、中国は韓国の独立を脅かし、韓米同盟を解体させ、来るべき大統領選挙に介入しようとしているというハミルトン教授の主張に共鳴する。国民の力のイ・ジュンソク代表は最近の外国メディアとのインタビューで、香港問題に言及し、「中国の残忍さに立ち向かって戦うべき」という、政治家の中で最も強硬な反中発言を行った。有力な大統領選候補であるユン・ソクヨル前検察総長は国内メディアとのインタビューで「中国は、THAAD(高高度ミサイル防衛)配備の撤回を主張するなら、国境近くに配備した長距離レーダーをまず撤去すべき」とし、落ち着いていた韓中のTHAADをめぐる対立をほじくり返した。彼らは、文在寅(ムン・ジェイン)政権は中国の顔色をうかがって媚びへつらっていると非難する。

 事実をきちんと語るべきだ。今、東アジア諸国では、文在寅政権だけでなくどの国の政府も、影響力を武器として他国を圧迫する中国の強圧政策(Coercive Policy)に屈服したことはない。これに関しては、米国のシンクタンク「ランド研究所」が最近発行した報告書「中国との戦略競争における影響力に対する理解」が注目される。同報告書によると、中国は「影響力のジレンマ」に直面している。中国が他国に軍事力と経済力というハードパワーを掲げて影響力を行使すれば、東アジア諸国はどこも反発するため、むしろ中国が孤立する。ジレンマの中にあって、中国は東アジアのいかなる国にも、米国との安保協力を放棄し、同盟から脱退するよう要求したり圧迫したりすることはできず、実際にそのようなことはしていない。東アジア諸国は中国との経済関係を維持することを望んでいるが、中国の資本と技術とインフラで構成される、いわゆる「中国モデル」に全面的に吸収されることは望んでいない。中国は他国に友好的な世論メディアとエリートを動員して中国に対する認識を変えたり、親中的な人物を買収して中国に対する政策を変えさせたりすることもできない。そのような意図がないのではなく、能力がないからだ。ただし観光、外国人交換留学生プログラム、そして中国に投資する外国企業に対する規制においては、中国の影響力行使は脅威となる、というのがランド報告書の診断だ。

 香港や新疆地域での中国の権威主義のあり方は、明確に批判されなければならない。台湾海峡の安定も韓国にとっては非常に重要な問題だ。しかしパンデミックで世界が苦しむ中で、なぜ韓国が中国との「文明衝突」や「戦略競争」といった言説を輸入して紛争を志向せねばならないのか。特に、政党の指導者や大統領選候補ほどの有力者なら、このことに非常に慎重でなければならない。

 北朝鮮の挑発が鎮静化しているこの3年間、韓国の保守は主敵の存在感の空白に非常に困惑している。大韓民国の生存を脅かす恐怖があってこそ保守政治は活気を帯びるわけで、北朝鮮がその役割を果たせずにいるのだから、もどかしいのかもしれない。だからといって中国を主敵の地位へと押し上げれば、中国は実際に敵となって立ち現れるだろうし、それは朝鮮半島問題の解決にも困難な状況を招くことになる。今、国の指導者級の人々は朝鮮半島周辺の情勢についてきちんと洞察しているのか、疑問だ。

 ハミルトン教授は、オーストラリアは中国の脅威に翻弄されているという被害者意識を韓国にそのまま投影している。しかし中堅国家である韓国は、オーストラリアのように中国にとってくみしやすい相手でもなく、簡単に翻弄されるほど脆弱な国でもない。韓国が中国との貿易で稼ぐ金は中国に屈服した代価ではなく、革新国家大韓民国の力量に対する補償だ。今の韓国には中国の属国を目指す政府はない。今は国際関係において不必要な被害者意識と恐怖をぬぐい去り、パンデミック以降まで考慮する姿勢、すなわち「回復力(Resilience)」を志向することに韓国外交の中心を据えるべきである。

//ハンギョレ新聞社

キム・ジョンデ|延世大学統一研究院客員教授 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1004635.html韓国語原文入力:2021-07-22 13:05
訳D.K

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