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[コラム]命よりお金?…危険水位を越えた東京五輪

登録:2021-05-28 06:38 修正:2021-05-28 07:48
キム・ソヨンㅣ東京特派員
東京市内に掲げられた2020年東京五輪の広告看板=東京/ロイター・聯合ニュース

 東京五輪が27日基準で、残り57日となった。五輪史上初めて1年延期された「東京2020」はまた危機に直面した。全世界を襲った新型コロナウイルスの前で、世界の祝祭である五輪が悩みの種に転落した。

 日本は今、新型コロナへの対応だけで精いっぱいだ。東京や大阪、北海道など9都道府県で、防疫対策の最高水準である緊急事態宣言が延長されているが、1日4000~5000人の新規感染者が発生し、依然として拡大傾向が続いている。このうち90%以上は変異ウイルスによるものだ。さらに深刻な問題は、今月に入って重症患者が1000人を超え、1300人に達するなど、過去最高となった。死者も1日100人以上の日が増えている。人材と病床不足のため、医療現場は毎日のように戦場と化している。ワクチン接種率も1回以上ワクチンを接種した人が全体人口の5.2%で、世界平均(9.9%)の半分程度に止まっている。経済協力開発機構(OECD)加盟国の中で最下位だ。

 こうした状況で日本国民の83%(朝日新聞の世論調査)が「命が大事」だとして五輪に反対するのは、当然の結果かもしれない。専門家らはコロナ禍での五輪開催は致命的な結果をもたらすと指摘している。最低でも全世界から選手やコーチら約9万人が入国し、ボランティアまで合わせると10万人以上が一定の場所に集まる。五輪とパラリンピックが開催される7~8月は、東京では一年中最も蒸し暑い時期だ。厳しい防疫対策が守られるかどうかなど、危険要素が多すぎる。「東京五輪はウイルスの“培養皿”になる」と懸念する声もあがっている。

 国内外から五輪中止の声が相次いでいるにもかかわらず、国際オリンピック委員会(IOC)と日本政府は「安全・安心な五輪」が可能だと主張している。ニューヨーク・タイムズはコラムで「五輪強行の理由は第一も、第二も、第三もお金」だと主張した。IOCは主な収入源の放映権の販売だけで東京五輪で26億4600万ドルを手に入れるという。放映権を確保した米放送局NBCは広告で莫大な収益を上げる。もし、五輪が中止となれば、IOCは放映権の収益も消え、テレビ局が契約した広告費用も払わされる羽目になる。「緊急事態が続いても開催する」、「日本の首相が取り消しを要請しても続行する」など、IOC関係者の発言は危険水位を超えている。朝日新聞は社説で「IOCの独善的体質」を批判した。

 費用の問題は日本にとっても重要だ。日本政府では収益ではなく、どれほど被害が少ないかが議論になっている。五輪が延期され、開催費用が1兆6440億円まで膨れ上がった。簡素に五輪を開催しても1兆円以上の損害が発生し、中止となった場合は経済的被害が4兆円を超えるという試算も出ている。IOCとの間で違約金問題も複雑に絡み合っている。また、菅義偉政権が受ける政治的打撃も、決断を躊躇させる要因となっている。新型コロナにきちんと対処できず、五輪が中止となれば、菅首相は責任を免れることはできない。

 日本の状況を見ていると、ますます危うくなる「メガイベント」の現実と向き合わざるを得ない。五輪やワールドカップなど大型化・商業化した「メガイベント」に対する幻想が崩れ始めて久しい。莫大な費用がかかるが、国のイメージ向上や経済的効果は不明だ。その代わり、国際スポーツ機関やメディア、企業などに収益が集中する。政権維持など政治的に活用される事例も多い。特にコロナ禍の中、五輪がどれほど脅威になり得るかを目撃している。「誰のための五輪なのか?」最近日本で最も多く聞かれるこの質問に、誰か答えるべきではないだろうか。

//ハンギョレ新聞社
キム・ソヨンㅣ東京特派員(お問い合わせ japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/996953.html韓国語原文入力:2021-05-28 02:36
訳H.J

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