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[寄稿]バイデン政権の対北朝鮮政策に対する期待と懸念

登録:2021-02-22 08:10 修正:2021-02-22 10:53
北朝鮮核問題の30年の歴史における惜しまれる瞬間には、間違いなく情報の失敗と判断ミスがあった。もう少し圧力を加えれば北朝鮮の体制がすぐに崩壊するはずだという認識、北朝鮮の脅威は外部ではなく内部から来るという恣意的な評価が代表的だ。北朝鮮は体制維持のために絶対に核を放棄できないという見方も同じである。
米国のジョー・バイデン大統領が16日(現地時間)、ウィスコンシン州ミルウォキーでCNN放送が行ったタウンホールミーティングで発言している=ミルウォキー/AFP・聯合ニュース

ムン・ジョンイン|世宗研究所理事長

 まだ検討は終わっていないようだが、バイデン政権の対北朝鮮政策が徐々に輪郭を表しはじめたようだ。2月12日、米国のネッド・プライス国務省報道官は「北朝鮮核問題は喫緊の優先順位の事案であり、同盟国と緊密に協力している」と述べた。北朝鮮核問題がバイデン政権になって後回しにされかねないというこれまでの不安を下げる発言という点で肯定的だ。一方、アントニー・ブリンケン国務長官は、北朝鮮の核能力について懸念を示し、北朝鮮に対する制裁の追加の可能性と北朝鮮核問題の解決のための韓国・米国・日本の3国の協力を強調した。北朝鮮に対する抑制と制裁、「戦略的忍耐」という過去の政策の延長線かもしれないという点で、懸念が先立つ大きな課題だ。

 過去30年あまりの間、糸の絡み合いのようにもつれていた北朝鮮核問題を解決するためには、より独創的な発想が必要だ。まず、北朝鮮の意図に対する議論から始めてみよう。ワシントンのいわゆる朝鮮半島専門家は、金正恩(キム・ジョンウン)委員長に非核化の意志がないという結論を出し、北朝鮮に対する圧力カードを切る。しかし、平壌(ピョンヤン)がどのような場合にも核を放棄するはずはないと断定すれば、外交の空間は消えてしまう。むしろ、北朝鮮側が何度も明らかにした「条件さえ合えば、核を放棄できる」という最高指導者の発言を糸口にして、そのような方向に状況を導いていくことこそ、外交の本質ではないか。平壌としては受け入れられない「先に核を解体した後で補償」という過度の前提条件は、その可能性を遮断する悪手でしかない。

 「同じ話を二度しない」という話もしばしば聞こえる。トランプ前大統領の朝米首脳外交をリアリティ番組のようにみなすバイデン政権としては、そのような認識が当然ともいえる。しかし、当時の首脳会談が声だけ騒々しいリアリティ番組だったとすれば、その理由は逆に言えば、具体的かつ実質的な合意がなかったからだった。「朝米関係を正常化し、恒久的な平和体制を構築すると同時に、完全な非核化のために努力する」というシンガポール宣言は履行されず、ハノイでの首脳会談でトランプ前大統領は、平壌が提示した寧辺(ヨンビョン)カードを拒否し、結局、取引は成功しなかった。バイデン政権がトランプ政権の外交を他山の石として、“真の合意”に乗りださなければならない理由だ。

 北朝鮮と“真の合意”をしようとするならば、交渉のパラダイムを変えなければならない。“罪と罰”という認識フレームでは、進展はみえにくい。元はと言えば、トランプ政権の対北朝鮮政策が失敗した理由も、そのような認識と無関係ではない。ようやく作られた事実上の双中断(北朝鮮の核・ミサイル開発と韓米の大規模軍事演習の同時中断)の状況を、次の段階につなげるには、交渉に乗りだした平壌の“良い行ない”が一定の成果を上げられることを示す必要があった。しかし、2018年と2019年に両国が接触と交渉を続けた間、米国は北朝鮮に対する200回あまりの追加制裁を加えた。北朝鮮の完全な非核化という目標のためには、機械的な官僚主義の代わりに柔軟かつ戦略的な手法で制裁カードを活用しなければならない理由だ。

 より根本的には、核と人権の優先順位の問題がある。前政権とは違い、バイデン政権は人権という普遍的な価値を重視する。問題は、非核化の要求と人権問題の圧迫が、同時に効果を上げることができるのかという点だ。米国の人権問題の提起は、平壌には敵視政策の一環として、核保有をより知らしめるようにする引き金と同じであり、結果的には人権状況についても何の改善も上げることができなくなる。むしろ、核問題で大きな進展がなされ、制裁が緩和された場合、北朝鮮の住民の生活の質を実質的に改善できる可能性が生じる。米国の人権提起も、非核化の進展の過程で双方が信頼を構築した時、より効果的に平壌を動かせるはずだ。さらに、北朝鮮の非核化と経済好転が一定水準以上の改革・開放に繋がり、長期的には北朝鮮においても制限された範囲だとしても市民社会が形成されれば、時間はかかっても人権状況が今と同じとはなり得ないだろう。

 振り返ってみれば、北朝鮮核問題の30年の歴史における惜しまれる瞬間には、間違いなく情報の失敗と判断ミスがあった。もう少し圧力を加えれば北朝鮮の体制がすぐに崩壊するはずだという認識、北朝鮮の脅威は外部ではなく内部から来るという恣意的な評価が代表的だ。北朝鮮は体制維持のために絶対に核を放棄できないという見方も同じだ。むしろ、政権を長期安定化させるには必須である経済成果のためにも、核交渉は平壌では捨てられないカードかもしれないからだ。ハーバード大学のジョセフ・ナイ教授の表現を借りるならば、今は北朝鮮に対しても「文脈的情報(contextual intelligence)」が必要だ。そのためにバイデン政権に最も必要なパートナーが韓国政府だという事実は、説明する必要はないだろう。

//ハンギョレ新聞社

ムン・ジョンイン|世宗研究所理事長 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/983809.html韓国語原文入力:2021-02-22 02:39
訳M.S

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