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[コラム]トランプの3万の嘘と「怪物」の真実

登録:2021-01-28 03:56 修正:2021-01-28 10:11

 「(フェイスブックは)真実の決定権者となってはならない」

 昨年6月のフェイスブックのマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者の言葉だ。当時、ドナルド・トランプは、人種差別反対のデモ隊に対する暴力を助長するかのように「略奪が始まれば銃撃が始まる」というメッセージを載せていた。この書き込みを表示しないようにしたツイッターとは異なり、フェイスブックは放置し、ザッカーバーグはこれを「表現の自由」で覆ったというわけだ。

 フェイスブックに代表されるソーシャルメディアは、トランプの嘘の扇動が世の中を思う存分かき回せるようにした。米紙「ワシントン・ポスト」が24日に報じたファクトチェックを見ると、トランプは在任中、嘘または事実と誤導させる主張を3万573回も行った。昨年11月3日の大統領選挙後には、根拠のない「選挙操作」との主張も76回行った。その多くは、ソーシャルメディアを通じてろ過されることなく伝播された。6日(現地時間)にトランプ支持者が米連邦議事堂に乱入した事態は、その結果の「一部」に過ぎない。ただ、民主主義において米議会が象徴するものが大きく、生中継されたスペクタクルが圧倒的だったため、ソーシャルメディアが引き起こした「最悪の惨事」と錯覚したのだ。

 2016年6月にも英国、欧州連合(EU)、世界は、ブレグジットという予想外の結果に、とてつもない衝撃に包まれた。英国の国民投票の開票直後、英紙「オブザーバー」の調査報道記者キャロル・カドウォールーダーがウェールズ南部のエブ・ベールへと急きょ派遣された。左派の拠点都市が最も高い「離脱」投票率(62%)を示した理由を探し求めていたところ、同氏はフェイスブックに行きついた。

 同氏のTEDでの講演を見ると、荒涼とした鉱山地帯だったこの地にはピカピカの大学の建物が建ち、スポーツセンター、新しい道路や鉄道が作られた。各施設には「EUファンド」の巨大広告が設置されていたが、人々は「EUは何もしてくれない」と不満を言っていた。外国人といえばポーランド人女性が1人いるだけのこの町の住民たちは、移民や難民はこりごりだとして「(EUから)再び統制を取り戻そう」という離脱陣営のスローガンを口ずさんだ。

 「人々はどこでそんな誤った情報を得たのか」。この問いは取材へとつながり、同氏は「怪物のしっぽ」を捕らえた。同氏は、投票前にフェイスブックにまき散らされ、跡形もなく消えた移民への恐怖を助長する広告についての情報提供を受けた。これを追跡した結果、同氏は内部告発者クリストファー・ワイリーとともに「怪物の胴体」を暴くスクープ報道を行った。政治コンサルティング会社ケンブリッジ・アナリティカは、フェイスブックのユーザー8700万人の個人情報を違法に収集しており、離脱陣営はこの情報と国籍不明の金でフェイスブックに浮動層をターゲットとした偽広告を出した。同社は2016年の米大統領選挙でも、トランプ陣営に違法収集情報を提供した。少なくとも2018年からは、この巨大な黒いコネクションが世間に知られるようになった。ザッカーバーグは米国とEUの議会に呼ばれ、再発防止措置を約束したものの、その後、改善策の相当数が「死蔵」されていたとの事実も昨年5月に確認された。

 2017年8月にも、世界はミャンマーのロヒンギャの「民族浄化」に驚愕した。仏教国ミャンマーの軍部が2019年までにムスリムであるロヒンギャの200あまりの定住地を破壊し、殺人、性的暴行、放火を行ったのだ。1万人以上が死亡したと推定され、75万人は今も難民だ。

 この血に染まった歴史の真ん中にもフェイスブックがあった。ミャンマーは2013年から、アウン・サン・スー・チー氏の釈放と新政権樹立を経て、インターネットの門戸を開いた。人口5000万人中、フェイスブックの利用者は1800万人にものぼる。ロヒンギャを犬、豚、強姦犯と描写する嫌悪と憎悪の掲示物が拡散し、2018年3月には国連も「フェイスブックの決定的役割」を認めた。しかしフェイスブックは傍観し、国連ミャンマー特別報告者が1年後に再びフェイスブックの憎悪掲示物を批判するほどだった。

 米議事堂乱入の余波がトランプを襲っている。ツイッターはトランプのアカウントを永久に閉鎖し、フェイスブックは外部の監督委員会に永久閉鎖するかどうかを任せることを決めた。しかしソーシャルメディアは今回の事態の前に、すでに取り返しのつかない2つの世界史的事件を通じて市民、議会、政府、国際社会の審判を受けるべき被告であることを自ら立証している。まさに今こそ、ジョー・バイデン政権と国際社会はソーシャルメディアという「怪物」を捕らえ、トランプの「想定外の遺産」とする時だ。自分たちは「真実の決定権者」にはなれないというザッカーバーグの言葉は、反語的に真実だ。

//ハンギョレ新聞社

チョン・ジョンユン|国際部長 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/980669.html韓国語原文入力:2021-01-27 18:03
訳D.K

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