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[寄稿]米大統領選とバイデンの経済学

登録:2020-11-17 02:46 修正:2020-11-17 09:26
米国のバイデン次期大統領が5日(現地時間)、デラウェア州ウィルミントンで副大統領候補のカマラ・ハリス上院議員と共に演壇に立って演説を行っている=資料写真//ハンギョレ新聞社

 結局、米大統領選で勝ったのはバイデンだったが、内容的にはかなり不都合な勝利だった。今回も多くの人々がバイデンの楽勝を予想したが、7300万人もの有権者がドナルド・トランプを支持し、接戦が予想された州でもトランプの敗退はギリギリだった。ブルーウェーブ(民主党に対する追い風、民主党の大勝)が期待された議会選挙も、民主党にとってはがっかりの結果だった。トランプの支持基盤だった低学歴白人と高齢者層の支持は以前より減ったものの、ヒスパニックと低学歴有色人種のトランプ支持はむしろ増加した。

 2016年のトランプの登場は、グローバル化による不平等の深化とその敗者たちの不満を原動力にしたものだった。経済の両極化は政治の両極化を生む。実証研究は、中国からの輸入にさらされた選挙区ほど製造業の雇用が減り、不平等が深まり、その地域における政治的支持は左右へと、より極端に変化したと報告する。

 もはや米国は、地域的にも明確に分断されている。今回の選挙では、民主党と共和党の一方に偏った選挙区が過去に比べてはるかに多くなった。バイデンを支持した地域は主に大都市の中心地であったが、これらの地域は国内総生産(GDP)の約70%を占め、2016年の選挙時の64%よりも高まっている。学歴と所得が高く、オートメーション化によって失われる危険性の高い雇用が少ない地域において、前の選挙よりも多くの支持がバイデンに集まった。

 このように見ると、今回もトランプの善戦は、不平等の時代においてエリートたちが無視する疎外された人たちによるものだった。彼が退場したとしても、トランプ主義が消え去ることはないだろう。パンデミックがもたらした深い不況によって、すでに雇用と所得の格差は拡大しつつある。今後は、トランプ流の国粋主義的ポピュリズムと金権政治の結合が共和党のイデオロギーになる可能性が高い。一方、高学歴者や高所得者の党となった民主党の主流は、不平等に正面から立ち向かわなかった。今回の議会選挙においても、躍進したのは急進的な政策を主張する、アレクサンドリア・オカシオ=コルテス(AOC)に代表される民主党の左派陣営だった。

 バイデンの経済学は、このような分裂を克服できるだろうか。彼の主な経済政策は財政支出の拡大と富裕層の増税だ。バイデン陣営は、クリーンエネルギーなどのインフラ投資への約2兆ドル、教育と育児への約2兆ドル、そして医療保険、米国製品の購入、研究開発、社会福祉、住宅などを含む計7.3兆ドルの財政支出を公約に掲げた。国内総生産の約35%にもなる金額だ。

 一方、所得40万ドル以上に対する最高税率を37%から39.6%へと引き上げるなどの増税、トランプが21%へと大幅に引き下げた法人税の28%への引き上げによって、財政支出計画の半分以上を充てる計画だ。また、15ドルへの最低賃金の引き上げ、労組活動の権利など、労働者の権益を強化する措置も提示した。これは時代の流れを反映して「左傾化」した計画と評価されるが、全国民単一医療保険のような進歩的な政策は含まれていない。

 バイデンの経済政策は、不況と不平等に苦しむ資本主義を健全に動かすために政府の役割を強化するという、正しい方向へと向かうものだと言える。しかし、財政支出は10年にわたる計画であり、議会で削減される可能性が高い。特に、民主党が上院で多数派になれておらず、大規模な財政拡張が不可能なら、オバマ政権と同様、経済回復は遅れるだろうという見通しが提起されている。

 バイデンの政策によって、トランプ大統領の時代にいっそう悪化した不平等の趨勢を取り戻すことができるかも疑問だ。米国のジニ係数は、2015年の0.479から2019年には0.484へと高まり、所得不平等は第2次世界大戦後の最高を記録している。一部からは、今回の大統領選挙の隠れた勝者は、市場を支配し、莫大な利益を上げる巨大技術企業だという評価も出されている。議会と政府が分裂すれば、これらの企業に対し反独占規制を強化することは容易ではないと見られる。副大統領当選者のカマラ・ハリスはシリコンバレーと近い間柄だ。

 新型コロナの克服、経済回復と不平等の改善、そして気候変動への対応という数々の重い課題を背負ったバイデンの政策スローガンは、「より良い再建」だ。バイドノミクスが分裂した社会を統合し、米国をよりよい場所へと再建できるかどうか注視したい。しかし、その成功のために必要なのは、やはり市民の政治的支持と圧力だろう。ハリスは当選決定後の演説で、民主主義は行動であり、私たちが闘っただけ強くなると強調した。不平等が生んだトランプ主義を克服し、より良い再建を生み出す力も、民主主義から見出さねばならないだろう。

//ハンギョレ新聞社

イ・ガングク|立命館大学経済学部教授 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/970171.html?_fr=mt2韓国語原文入力:2020-11-16 17:24
訳D.K

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