新型コロナウイルス感染症の存在や危険性を初めて外部に伝えたものの、デマ流布の容疑で中国政府の弾圧を受けた医師・李文亮(リ・ウォンリャン)が7日未明、息を引き取った。患者の診療中に感染し、病院で入院治療を受けていたという。医師として堂々と真実を語り、最後まで職分を全うし、命を失った彼の勇気と責任感に敬意を表する。
医師・李文亮は義を重んずる内部告発者だった。彼は感染症の発生初期の昨年12月30日、同僚の医師たちとのオンライン・グループチャットルームに「華南水産物卸売市場でSARSが疑われる患者が発生した」とし、「診療の際には保護装備を着用すること」を勧告した。チャットルームの文章はインターネットを通じて急速に広がり、新型コロナの危険性が世間に知られるようになった。同僚の医師らもマスクなどの保護装具を着用し始めた。
しかし中国政府は、社会的混乱が憂慮されることなどを理由に、感染症の発生と拡散の事実を隠し、矮小化することのみに汲々とした。公安当局は同氏をデマ流布者として目をつけ、出頭させて「虚偽の情報を流布し、社会秩序を乱した」という内容の反省文を書かせるなど沈黙を強いた。
李文亮の警告が現実となるまでに、それほど長くはかからなかった。中国政府が「人から人への感染の可能性は低い」として事態の矮小化にのみ力を注いでいる間にも、感染症は人を通じて急速に広がっていった。李文亮も、当時の政府の指針どおり保護装備なしで診療し、感染した。結局、中国政府は1月21日、新型コロナの「人から人への伝染」を認め、2日後には武漢地域の封鎖を命じた。ウイルスが中国全域に止まらず、すでに全世界に広がった後だった。発生初期に情報を全面的に公開せず、矮小化・隠蔽に汲々としたため、感染症抑制の「ゴールデンタイム」を逸してしまったのだ。
中国は2002~2003年のSARS(重症急性呼吸器症候群)の大流行時にも、関連情報を矮小化・隠ぺいして対応にもたつき、事態を拡大させた前例がある。当時の痛恨の失敗経験から教訓を得ることができなかったのは残念なことだ。
李文亮は入院中にメディアとのインタビューで、「健康な社会では意見が一つだけというのはあってはならない」と述べたという。「社会的混乱の防止」を理由に正確な情報を提供せず、人為的に統制しようとする行動こそ、感染症の蔓延に最適な環境を提供する。中国政府は二度と同じ過ちを繰り返さないでほしい。