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[寄稿]参議院選挙と日本の民主主義

 日本では7月10日の投票に向けて参議院選挙の選挙戦が続いている。この選挙は戦後日本の政治体制を変えるきっかけとなるかもしれない、重大な選挙である。安倍晋三首相は、今年に入ってから憲法改正、特に平和主義を宣言した第9条の改正への意欲を示してきた。そして、この参議院選挙で改憲に必要な3分の2以上の議席を獲得したいとも述べた。衆議院ではすでに与党が3分の2以上の議席を持っているので、参院選で与党が大勝すれば、戦後初めて憲法改正が現実の可能性を帯びることとなる。

 選挙戦が近づくと、安倍首相は憲法改正に言及しなくなった。世論調査で、国民は憲法改正の必要性を感じておらず、圧倒的多数は9条の改正にも反対であることが明らかである。朝日新聞5月3日掲載の調査では、憲法改正に「賛成」25%、「反対」58%、9条については「変えない方がよい」が昨年の63%から68%に増え、「変える方がよい」の27%(昨年は29%)を大きく上回った。憲法改正を正面から争点にすれば、選挙に不利になることを安倍首相は恐れていると思われる。

 選挙で国民に訴えなくても、自民党が勝利すれば安倍首相は憲法改正についても国民の支持を得たと主張するに違いない。2014年の衆議院選挙の際には、集団的自衛権の行使容認や安全保障法制の推進はまったく争点にしていなかったが、安倍政権は閣議決定により憲法9条の解釈を変更し、昨年夏、安全保障法制を実現した。同じことを繰り返すことは確実である。

 昨年の安全保障法制に対する多様な反対運動を繰り広げた市民運動は、今回の選挙に当たって、野党と協力し、32の1人区において統一候補の擁立を実現した。これによって全国で自民党・安倍政権対野党という二者択一の構図を作ることができた。しかし、この運動を進めた私たちの目論見に反し、選挙戦は盛り上がっていない。世論調査の専門家からは、投票率が50%を下回るのではないかという予想も聞こえてくる。また、事前の世論調査では与党が勝利することが予想されている。安倍首相の争点隠しが今のところ奏功している。

山口二郎・法政大学法学科教授 //ハンギョレ新聞社

 経済政策や原発再稼働など、具体的な政策に関する世論調査では、安倍政権の進める政策を支持しない人の方が支持する人よりも多い。そのような政策への評価が選挙での反自民という投票行動につながらないところに、現在の民意の特徴がある。日本国民は政治の現状にそれほど不満を持っておらず、安倍首相による憲法改正にも恐れを持っていないようである。長年日本の民主主義の深化を唱えてきた私は、人々のまどろみをどう評してよいかわからない。

 圧政は一夜にして生まれるのではない。昨日までと同じような日々が明日も続くだろうという人々の楽観や満足が思考停止をもたらし、巨大な権力の暴走を許す。そして、圧政の害を認識するようになっても、もはや止めるには遅すぎる。自民党憲法草案に沿って憲法改正が実現したら、政治を論じる自由は公の秩序の名の下に大きく制約されることとなる。抑圧的な憲法を再改正する運動は、秩序破壊の名目で弾圧されるかもしれないのである。憲法改正は自由と民主主義の不可逆的に破壊する。投票率が50%を下回るような選挙で与党に圧倒的多数を与え、憲法改正の引き金を引くということになれば、それこそ日本の民主主義の自殺である。この参議院選挙は、日本の戦後民主主義の崩壊過程におけるポイント・オブ・ノー・リターンとなるかもしれない。日本人の覚悟と見識が問われている。

山口二郎・法政大学法学科教授(お問い合わせ japan@hani.co.kr )

韓国語原文入力:2016-07-03 17:47

https://www.hani.co.kr/arti/international/japan/750695.html

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