9・11テロ事件の後、アメリカの調査は三通りに進められた。連邦捜査局(FBI)は特別捜査要員1万1000人余のうちの半数を越える7000人余を動員して、アメリカ犯罪捜査史上最大で最も複雑な捜査に着手した。中央情報局(CIA)は事件を事前に感知できなかった原因が何なのかを知るための綿密な自己分析に入った。‘アメリカに対するテロリスト攻撃に関する国家委員会’という名の超党派的特別委員会も構成された。この委員会は20ヶ月の間、事件に関連するすべての事実関係や原因、対策をつぶさに調べて600ページに達する膨大な総合報告書を作った。アメリカ政府が整えた各種の事後対策もこの委員会が提出した41種の勧告事項に基づくものであった。
私たちも今やセウォル号沈没事故の調査と事後処理をどのようにするのかを真剣に考えるべき時にきた。多くの人が今回の悲劇を契機に社会の膿を取り出して、徹底した対策を立て、国全体を新たに脱皮させねばならないと話している。しかしそのことは口で言うほど容易なことではない。従来通りのやり方で捜査して、関係者を処罰して、新しい組織を作って、いくつかの法律を整備するという付け焼刃的なやり方で国家改造計画がなされるものではない。事故の調査と収拾方法でも以前とは明確に異なるものにすべきだ。慣行からの脱皮、それがまさにセウォル号事件が投げかける教訓の一つでもある。
現在、捜査は検察と警察による合同捜査本部が事故原因を、仁川地検がユ・ビョンオン前セモグループ会長一家の不正を捜査するなど、いくつかに分散して進められている。監査院も安全行政部など4部署に対する特別監査に入った。政府は国家安全処設立計画を発表したのに続き、海事安全監督官制度の導入などを急いで進めている。しかし正確な診断もなされる前に処方を下すのはかえって病気をぶり返すヤブ医療にすぎない。セウォル号犠牲者の家族たちが特別検事制の導入と国会聴聞会の開催を要求しているのもこのような政府の対応だけでは不十分だという認識から出発している。
セウォル号事件の調査と今後の対策用意の過程は、最小限次のような条件を満たすべきと見る。まず悲劇が起きた理由と根本原因、対応の問題点などをもれなく調べ、歴史的記録として残さなければならない。 セウォル号の直接的な沈没原因、運航過程の違法行為、構造的な不正だけでなく、初動対応のお粗末さ、時間帯別の措置の問題点、コントロールタワーの不在と部署間混線問題など、事件に関連した問題点が全て網羅されるべきだ。調査にはいかなる聖域もあってはならない。もちろん大統領府も例外にはできない。
次に、調査の目的は単に処罰するだけでなく総合的な対処法を作ることに傾注すべきだ。国がこのような状況になったのは、単に関係者の義務放棄とサボりだけが理由ではないだろう。これまでに積もりに積もった構造的な問題や、各機関が解決できないままでいるジレンマも少なくないだろう。そういうものを一つ一つ明らかにして、もつれた糸の絡み合いを解いていく過程なしには正しい解決法は導き出されない。犯罪疑惑を明らかにして起訴することに主眼点を置く検察捜査では限界に突き当たるほかない。
第三に、セウォル号事故の調査と事後の収拾はそれ自体が国民的治癒の手段でなければならない。セウォル号沈没以後、国民が体験している集団的トラウマは深刻な状況だ。恨みと不信、突発事故に対する恐れなどを国家が立ち上がって何とか癒さねばならない。このような点で我々の社会が今回の事件の問題点を共に捜し出し、再発防止の知恵を組んでいく過程は、国民のつらい記憶を積極的に克服する方法でありうる。そのためには社会構成員自らが調査と対策準備に参加するという意識を持つことが必須条件だ。国民的信頼を失った政府が完全な収拾の主体になるには限界があるためだ。
このような流れから、私たちはセウォル号惨事国家特別委員会の構成を提案する。委員会は単に国会に所属するのではなく、大統領直属の機構はさらにおかしい。‘大統領と国会の共同発議’により構成される、まさに‘特別な’委員会にすべきだ。そのような型破りな委員会の編成は、それ自体が国家的総力を集結する象徴的行為であり、国民の心を一つにまとめる重要な契機となるだろう。委員長をはじめとして参加する委員は、党派を越えて社会の信望を受ける人と専門家により構成することはもちろんだ。
政党を越えた各界専門家の参加は、委員会が聴聞会開催などの次元を超えて、今回の事故収拾の全過程を捜査を含めて総括する機構になることが、その核心になる。現在の検察捜査も委員会の統制を受けるようにし、必要な場合には委員長が指名する特別検事が捜査に参加できるようにしなければならない。また、公開・非公開の聴聞会等を通して事件関係者にもれなく会って証言を聞くべきだ。このために必要ならば、政府と国会が力を合わせて‘セウォル号惨事国家特別委員会法’のような法律を作っても良いだろう。
政府と政界は、セウォル号事件のきちんとした収拾策を整えるために一日も早く知恵を出し合うべきだ。そして悲劇の真の昇華を通じてわれわれの幼き子供たちの犠牲を無駄にしない対策が何なのかを虚心坦壊に議論しなければならない。そのことに最も先頭に立つべき人が朴槿恵大統領であることは言うまでも無い。