トランプ米大統領は昨年4月2日、世界を対象に高率の関税を課し、「今日は解放の日だ」と宣言した。その2日後、中国がこれに反発してレアアース(希土類)の輸出規制に乗り出したことで、米中間の緊張は急激に高まった。両国は報復関税の応酬で対立を深め、米国の対中関税率は一時145%、中国の対米関税率は125%まで急騰した。数週間が経つと、状況はトランプ大統領が予想しなかった方向へと進んだ。フォード自動車をはじめとする米国の主要企業が希土類の確保に支障を来し、減産に踏み切るなどサプライチェーンの混乱が現実のものとなるにつれ、大手企業の最高経営責任者たちからの圧力が続き、トランプ大統領はついに関税を大幅に引き下げざるを得なくなった。
中国はそれにとどまらず、昨年10月中旬、米中首脳会談を約半月後に控え、希土類を含む重要鉱物に対する輸出管理の拡大措置を電撃的に発表した。製品に中国産の希土類が0.1%以上含まれた場合、第三国間の取引であっても中国当局の許可を受けるようにしたのだ。例えば、サムスン電子が欧州にスマートフォンを輸出する場合でも、同様の規制が適用される可能性がある。米国の「セカンダリー・ボイコット」を連想させるこの措置は、首脳会談を控えて明らかに交渉力の引き上げを狙ったものだった。結局、両国首脳は関税戦争を1年間休戦することで合意したが、希土類の輸出規制は1回限りの報復ではなく、その後各国の政策と投資を再編させる「転換点」となった。
■「21世紀の石油」となった重要鉱物
今回の対立は、重要鉱物の持つ地政学的な地位を端的に示している。20世紀に石油資源の支配が大国の外交と軍事戦略の要だったように、今や重要鉱物をめぐり激突が繰り広げられている。石油が輸送、発電、化学産業の基盤であり、戦争遂行の必須資源だったように、重要鉱物は電子、自動車、バッテリーといった伝統産業だけでなく、半導体、人工知能(AI)、再生可能エネルギー、F-35戦闘機や長距離ミサイルのような先端兵器システムに至るまで不可欠な要素だ。特に希土類に基づいた永久磁石は、レーダー、精密誘導兵器、電気自動車のモーター、風力タービンなど、先端装備の性能を左右する重要部品だ。
もちろん、重要鉱物が石油を完全に代替するわけではない。国際エネルギー機関(IEA)は2050年になっても石油消費が緩やかに増加すると見込んでいるが、技術の高度化と脱炭素化の潮流を考えると、重要鉱物の戦略的価値はますます高まっていくだろう。IEAは、2040年までにエネルギー転換に関連する鉱物の需要が対2010年比で最大30倍になる可能性があるとみている。電気自動車(EV)の普及や再生可能エネルギー、送配電網の拡充が加速するにつれ、「新たな石油」は炭素ではなく重要鉱物になる見通しだ。
重要鉱物の地政学は石油とは構造的に異なる。石油が中東・ロシア・米国・南米など比較的多様な地域に分布しているのに対し、重要鉱物は中国と一部の国に集中している。特に採掘よりも重要と評価される精製・加工段階において高い産業能力が求められるが、中国はこの分野において圧倒的な優位を占めている。IEAは「グローバル重要鉱物見通し2025」報告書で、「エネルギー安全保障の核心的な課題はサプライチェーンの多様化だが、最近、重要鉱物の精製・加工段階ではむしろ集中度が深まった」と指摘した。実際、重要鉱物の精製分野で上位3カ国の市場シェアは、2020年の82%から2024年には86%へと上昇した。中国は20種類のエネルギー関連重要鉱物のうち19種類で最大の生産国であり、これらの鉱物の全世界の精製能力の平均70%を占めている。石油輸出国機構(OPEC)の世界原油生産シェアが現在約35%、石油危機当時でも50%水準にとどまっていたことを考えると、前例のない一極集中だ。20世紀にOPECが「石油供給の縮小」で影響力を行使したのに対し、21世紀の中国は「重要鉱物のボトルネック」を武器化し、新たな資源カルテルを形成しており、こうした構造的な優位性が米国の対応の余地を狭めた。
■対抗策に苦心の米国
米国は、重要鉱物の自給自足に向け、大胆な産業政策と国際協力を同時に推進している。国防総省や商務省、エネルギー省、国際開発金融公社(DFC)、輸出入銀行(EXIM)などがサプライチェーン全般にわたり資金を投入し、国務省は鉱山保有国や精製・加工能力を持つ国々と一連の重要鉱物協定を締結してきた。特に希土類分野では、「鉱山から磁石まで」の統合サプライチェーンの構築が主な目標だ。
国防総省は米国内の希土類の生産企業に対し、株式投資と長期購入契約を提供し、購入量に対して価格の下限まで設定して収益性を保証している。この恩恵を受けた代表的な企業が「MPマテリアルズ」だ。国防総省は同社に対し、4億ドル規模の出資を敢行した。また、1キログラムあたり最低110ドルの価格で10年間の購入を保証し、中国産による低価格攻勢の中でも米国国内で生産を続けられるようにした。さらに、年間約1万トン規模の磁石製造工場「10Xファシリティ」を建設する契約を結び、2028年の稼働を目指している。この取引は、特定の企業を選定し、鉱山から精製、磁石に至るまで垂直統合を図るという点で、米国がこれまで批判してきた「国家主導の産業政策」の典型といえる。バイデン政権時代にもMPマテリアルズへの支援はあったが、中国企業による低価格攻勢と技術格差により、米国国内での精製および磁石生産は大きく進展しなかった。第2次トランプ政権発足後の支援は、従来の政策をさらに攻撃的にアップグレードした形だ。
米国政府の投資機関である国際開発金融公社(DFC)も中心的な役割を担っている。当初は世界最貧国の貧困緩和とインフラ開発を支援する機関だったが、最近では重要鉱物やエネルギー、先端技術などの戦略分野に対する株式投資と融資を前面に打ち出している。理事会にはルビオ国務長官とラトニック商務長官が参加している。同機関の総融資枠は600億ドルから2050億ドルへと拡大し、世界銀行の融資規模に迫った。肝心の米国のインフラ建設には韓国と日本から数千億ドルの投資資金を「強奪」して充てているにもかかわらず、米国は海外投資を拡大しているという皮肉な状況が生じている。ブラジルの希土類鉱山、ウズベキスタンの重要鉱物プロジェクト、カザフスタンのタングステン、オーストラリアの黒鉛・希土類、コンゴ民主共和国の銅・コバルト鉱山などが主な投資事例だ。また、アンゴラとコンゴの鉄道に資金を提供し、アフリカ内陸部の資源を港湾と結ぶ輸出ルートを整備している。これは、開発途上国の鉄道、港湾、エネルギーのインフラ開発を支援し、中国とアジアとアフリカ、欧州を結ぶ中国の「一帯一路」構想に対抗する面が強い。かつて米国や欧州が掌握していたアフリカの資源開発の多くが、この20年間で中国国有企業の手に渡った現実を覆そうとする試みでもある。
■トランプ大統領の「2年以内に希土類を自給」は実現可能か
トランプ大統領は米中首脳会談直後のインタビューで、「2年以内に希土類問題を解決できる」と断言した。しかし、現実は異なる。昨年、米国はカリフォルニア州のマウンテンパスで8900トンの希土類を生産し、数十年ぶりの最大生産量を記録したが、これは全消費量の約3分の1に過ぎない。残りの1万8100トンは中国(71%)、マレーシア(13%)、日本(5%)などから輸入した。特に防衛産業用の高性能磁石に不可欠な重希土類については、採掘の約90%と抽出・精製技術の多くを中国が掌握している。米国はブラジルなどで重希土類鉱山への出資を拡大し、原料確保には進展を見せているが、抽出・精製技術はようやく初期段階に入ったところだ。戦略国際問題研究所(CSIS)は、「いくつかの抽出と精製の新技術はパイロット段階では成果を上げたものの、産業規模で安定的かつ費用対効果の高い運営が可能かどうかは、まだ実証されていない」と分析した。
IEAは永久磁石の生産能力について、2030年には中国が年間30万トンで依然として圧倒的な地位を占める一方、米国は中国の7%水準の年間2万トンに達すると予測した。ただし、米国は大規模な投資に支えられ、2030年代には世界第2位の磁石製造国として台頭する可能性が高いとみられている。トランプ大統領の期待とは裏腹に、多くの専門家は、防衛分野における中国への依存度を十分に低減するだけでも2020年代末まで時間がかかり、産業エコシステム全体の自立には10年以上かかると予想している。
重要鉱物は産出国に富と影響力をもたらす一方で、新たな形の「資源の呪い」のリスクも伴う。希土類やニッケル、コバルトなどの重要鉱物の需要急増は、産出国のガバナンスや環境、債務構造を歪める恐れがある。資源需要と資金が一気に集中するが、制度が脆弱な国では、腐敗や環境破壊、社会的な対立を助長しやすいからだ。今後、重要鉱物の埋蔵国を対象に、自国の勢力圏に取り込もうとする米中競争はますます激化するだろう。両超大国間の重要鉱物をめぐる激突は、関税報復合戦を超え、「誰を信頼し、どのサプライチェーンと手を組むか」という選択を全世界に強いる、新たな資源地政学の出発点となるだろう。