北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長のロシア訪問によって、世界の地政学の3大軸である米国‐中国‐ロシアの三角関係がふたたび揺れ動いている。
北朝鮮とロシアの戦略関係に驚いた米国が中国に近づき、中国との対決の度合いを調整し、中国はロシアとの連帯をちらつかせて米国を揺さぶっている。ロシアは北朝鮮との関係で米国を刺激する一方、中国も引き入れようとしている。
この三国関係は、金委員長が10日に平壌(ピョンヤン)からロシア行きの専用列車に乗り、19日に帰国する日程をこなすなかで揺れ動いた。米国は、北朝鮮がウクライナを侵攻したロシアに兵器を提供しようとしているとして、両国を非難している。だが、米軍のマーク・ミリー統合参謀本部議長が16日に「北朝鮮の兵器提供がウクライナで大きな動きを生じさせるだろうか。私は懐疑的だ」と述べたように、米国にとっては、朝ロ関係自体により大きな意味がある。
金委員長は13日、ロシアのアムール州ボストーチヌイ宇宙基地で、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領との会談をはじめ、ロシア訪問の日程の大半をロシアの宇宙、航空、艦隊基地への訪問などに費やした。朝ロ両国の戦略兵器協力が表面化した。
プーチン大統領は13日の金委員長との会談前に「ロシアは北朝鮮の宇宙衛星建設を支援するのか」という記者団の質問に「それが私たちがここに来た理由だ」と答えた。偵察衛星など朝ロの戦略兵器協力が進めば、すでに米国にとって最も頭が痛い事案である北朝鮮の核問題はさらに深刻化し、東アジアの勢力均衡も変化が避けられない。
金委員長がロシアを訪問中の12日、クレムリン(ロシア大統領府)がプーチン大統領と中国の習近平国家主席の首脳会談の年内開催を明らかにしたことで、米中ロの関係も揺れ動き始めた。ロシアが金委員長の訪問中に中ロ首脳会談の開催を明らかにしたのはかなり意図的なものと思われ、朝中ロの連帯を示唆したものだ。さらに19日、ロシアのニコライ・パトルシェフ国家安全保障会議書記は、プーチン大統領が中国で来月開かれる「一帯一路フォーラム」に参加する予定だと明らかにした。
米国と中国の間でも、金委員長がロシアを訪問中の16~17日、ジェイク・サリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)と王毅共産党政治局委員兼外相の会談が地中海の島国マルタで開かれた。両者は2日間にわたり12時間かけて会談し、「率直に、実質的かつ建設的な議論をした」と、ホワイトハウスが明らかにした。両者は、11月のアジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議におけるジョー・バイデン大統領と習主席の首脳会談を調整した可能性がある。
王毅外相は当初、18日から26日までニューヨークの国連本部で開かれる国連総会に参加し、米国側と接触する予定だった。だが、王毅外相は予定を急変してモスクワを訪問することになり、これに対して、米国がモスクワに向かう王毅外相をとどめた格好だ。
マルタ会談は電撃的かつ象徴的だった。マルタは、ベルリンの壁が崩壊した1989年12月初め、米国のロナルド・レーガン大統領(当時)とソ連のミハイル・ゴルバチョフ共産党書記長が会談し、冷戦終息を公式に宣言したところだ。米国がマルタに王毅外相を呼び、2日間向かい合ったのは、米国が中国との関係を調整するというシグナルだ。
米国は、モスクワに向かう王毅外相にけん制と見返りを同時に伝えた。サリバン補佐官は、ウクライナ戦争に関する中国のロシア支援と王毅外相のモスクワ訪問に対する懸念を伝えたことを明らかにしたと、米国メディアが報じた。その代わり米国は、5月のアントニー・ブリンケン国務長官の中国訪問後に再開された両国の高官級の接触範囲と頻度を増やし、両国の懸案を調整するという意向を示している。
ニューヨークでも米中は駆け引きを繰り広げた。ブリンケン国務長官は、王毅外相の代わりに国連総会に参加した中国の韓正国家副主席と18日に面会し、「数週間以内によりハイレベルの対話を実施することを含む対話チャンネルの維持を改めて確認した」として、北朝鮮と台湾についても意見を交換したと、米国務省が明らかにした。韓正副主席は「安定した中米関係は、両国だけでなく世界にとっても利益になる」とし、「中米関係を安定した軌道に戻すことを希望する」と述べた。
日本経済新聞は「マルタの協議では滞ってきた軍同士の対話再開について『(中国側が)関心を示す僅かな兆し』があった」とする米国当局者の話を引用して報じた。中国は、米国が2018年9月に李尚福国防相を制裁リストに加えたという理由で、これまで両国の軍同士の対話を拒否していた。だが最近、李国防相の失脚説が広がり、自然に両国の軍同士の対話を再開する余地ができた。米国防総省も22日、サイバー攻撃をテーマに実務者グループによる議論を開催したと発表した。
モスクワを訪問した王毅外相は、中ロ両国の戦略友好関係を再確認しながらも、米国とロシアの両方に対してけん制する動きを示した。
王毅外相18日、ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相と会談し、「反ロ、反中を含む米国の国際舞台での行動に対して、両国は同じ立場にある」と述べた。特に王毅外相は20日のプーチン大統領との面談では、米国に念頭に置き、「世界は多極化しており、経済的なグローバル化は逆行する。中ロは多国間の戦略的調整を強化する」と述べた。
この日夜遅く、中国外交部は、プーチン大統領が「ロシアは今年に入り、米国と西側の一方的な制裁の衝撃を克服し、経済が成長している」とし「中国との計画を強化し、実質的な協力を深めることを期待する」と述べたと公開した。ロシアが中国に協力強化を要請したという事実を、米国に向けて強調したのだ。
ただし中国外交部は、王毅外相がプーチン大統領に「中国とロシアは、世界の発展と進歩を追求する重要な責任を負う国連安保理の常任理事国」だと述べた事実も公開した。中国とロシアが安保理常任理事国という事実を強調したのは、ロシアが朝ロ軍事協力について責任をもって行動するよう求めたものだ。ロシアを自制させる一方、米国にもリップサービスをしたということだ。
王毅外相のロシア訪問の間、ロシアのセルゲイ・ショイグ国防相はイランを訪問し、両国の軍事協力案を議論した。ショイグ国防相は7月27日、北朝鮮が「戦勝節」と呼ぶ朝鮮戦争停戦協定締結日の記念行事に参加し、両国の戦略関係の再開に着手した。北朝鮮に続きイランとの関係を改めて強調することによって、米国と中国の両側にふたたびシグナルを送ったのだ。北朝鮮とイランは、米国から最も厳しい制裁を受けているが、地政学的にも軍事的にも米国に影響を与えることが可能な国だ。
中国はロシアとの関係で米国をけん制し、米国は中国に両国関係の安定をエサに中ロ関係をけん制している。ロシアは北朝鮮やイランなどとの関係を通じて中国を引き込み、米国を刺激している。
米中対決、中ロ連帯、米ロ衝突のような関係は、来月中国で開かれるプーチン大統領と習主席の会談、そして現在調整中の11月のバイデン大統領と習主席の会談が大きな山場になるとみられる。
米ロの間で中国がどのような立場を取るのかが、まずは第一のカギだ。習主席は二つの首脳会談を通して、中ロ連帯を確認しながらも、ウクライナ戦争の政治的解決案を仲裁し、米中関係の安定を進めるものとみられる。だが米国は、基本的には中国に対する戦略対決を追求しており、現在のウクライナ戦争ではロシアとの妥協を拒否している。
第2次大戦後の3カ国の関係は、反米・中ソブロック→反ソ・米中協力→対米・中ロ協力を経て、反米・中ロ連帯に移りつつある。問題は、中国が反米・中ロ連帯という構図を好んでいないにも関わらず、引きずり込まれていることだ。ユーラシア大陸で歴史的なライバル勢力にあるロシアとの連帯が、反米対決においてどれほど有効なのか疑問だからだ。米国の立場としては、中国との対決のためにはロシアとの関係改善が必要だが、対ロシア関係は悪化の一途をたどっている。ロシアは米国との関係悪化によって中国の下位パートナーになる恐れに直面している。そして北朝鮮が、こうした3カ国のジレンマを激化させた。