国際秩序における米国の覇権は軍事力とドルで支えられている。ドルは国際貿易における支払い手段であり、各国の外貨準備高の主軸となっている。ドルのない国は、現在の国際経済秩序では何もできない。最近、このようなドル覇権に大きな亀裂が生じている。
先月29日、ブラジルと中国が両国の貿易からドルを排除し、自国通貨の人民元‐レアルで取引するという合意を発表した。今回の合意は、中国が人民元の国際化を通じてドル覇権に挑戦した最大の成果といえる。米国の裏庭である南米最大の国であり、米国の友好国であるブラジルが、中国のそのような試みに呼応したのだ。
国際社会での脱ドルの動きは、2014年にクリミア半島を併合したロシアに対する米国主導の制裁に触発され、2022年のロシアのウクライナ戦争で加速した。米国はロシアの為替および金融取引を妨げる制裁を行なったが、これはドル取引網から排除したものだ。米国の「ドルの武器化」を見た各国は、ドル依存を弱める必要性を痛感し、貿易と外貨準備高からドルの割合を減らそうとしたのだ。
「ドル覇権」を支えるサウジの離脱
制裁を受ける当事者のロシア、米国に挑戦する中国の主導で始まったこのような動きは、ドル覇権を支える主要軸の石油取引でドル決済を担保してきたサウジアラビアが加勢したことで、脱ドルのすう勢へと拡大した。ロシアは2012年に保有していた約1500億ドル相当の米財務省証券(米国債)を、2018年に入ってからは全て売却した。中国は2013年に約1兆3千億ドルの米財務省証券を保有していたが、ウクライナ戦争が勃発する直前の2022年1月には1兆1千億ドルに減らした。サウジは2020年2月の1850億ドルから2022年1月には1190億ドルへと大幅に減らした。
特にサウジは、ウクライナ戦争勃発直後の2022年3月、石油代金の人民元決済を中国と活発に議論していた。当時「ウォール・ストリート・ジャーナル」が報道した。サウジのこのような動きは、中国-ブラジルの人民元‐レアル貿易合意が発表された当日、中国海洋石油総公司が上海天然ガス取引所でアラブ首長国連邦(UAE)から買い入れた液化天然ガス6万5千トンを人民元で決済したことで、さらに具体化した。液化天然ガス取引が人民元で決済されたのは初めてだ。中国の輸出入銀行は先月14日、サウジ国営銀行と人民元の融資協力を終えたと発表した。この人民元が両国の交易で使われるという意味だ。
サウジの脱ドルの動きは、ドル覇権体制における大きな亀裂になりうる。米ドルは、1960年代に米国の貿易赤字が累積し、1971年8月にブレトン・ウッズ体制(ドルを金と交換する制度)を停止したことで、大きな危機に直面した。これは1973年のオイルショックでさらに強まった。しかし米国は1974年、オイルショックを導いたアラブ産油国の盟主サウジと「ペトロダラー」体制を確立することで、ドル覇権を固めることができた。石油取引をドルだけで決済し、サウジは石油で得たドルを米国債に投資する一方、米国の兵器を購入するという合意だった。米国はサウジに確固とした安保公約を提供することにした。これで産油国のオイルダラーが再び米国に戻り、米国の国際収支を大きく改善する一方で、ドルの価値と力を支えた。
ペトロダラー体制の主軸であるサウジのこのような動きは、中ロ陣営が主導する脱ドルの試みと結合したものだ。中国の習近平国家主席とロシアのプーチン大統領は、ウクライナ危機が高まった2021年11月、オンラインでの首脳会談で「第3者(米国)の影響を受けない独立的な金融ネットワークを作る努力に拍車をかける」とし、ドル取引から脱するという意志を明確にした。ウクライナ戦争を起こしたロシアを国際金融網から完全に追い出す制裁が米国主導で発動されると、中国とロシアは両国の交易で人民元‐ルーブル決済を全面化した。
「ドルに代わるシステムが出てくるだろう」米国に警告
中ロの人民元-ルーブル決済額は、戦争前の2021年1月の22億人民元から、今年1月には2010億人民元へと約90倍に増えた。ロシア財務省は2022年12月30日、約1865億ドル相当の国富ファンド(NWF)で、人民元の割合を従来に比べ2倍の60%、金は40%まで保有できるよう改正した。ドルとユーロ、円資産を事実上ゼロにするという意味だ。ロシア中央銀行と国富ファンドは、3月現在で1400億ドル相当の人民元資産を保有している。ウクライナ戦争後、ロシアは中国に石油などの原材料を渡し、中国はロシアに工業製品を渡すというかたちで交換を行い、西側の制裁を無力化する一方、中国は人民元の国際化を促進した。
ブラジルのルーラ大統領とアルゼンチンのフェルナンデス大統領は1月20日、アルゼンチンのある新聞に共同寄稿し「我々は取引費用と対外的脆弱性を減らし、両国の金融、商業の流れに使われる共同の南米通貨についての議論を進めることにした」と明らかにした。ウクライナ戦争後、安価なロシア石油の主要輸入国であるインドは、両国の交易でルーブル‐ルピー決済を拡大したことから、さらにUAEとも非石油製品取引でのルピー決済を議論している。
今年1月10日、シンガポールで開かれたユソフ・イサーク研究所の国際カンファレンスで、シンガポールのジョージ・ヨー元外交および通商産業長官は「米ドルは我々に呪いをかけている」とし「国際金融システムを武器化すれば、これに代わるオルタナティブが出てくるだろう」と警告した。また、東南アジア諸国はドルに代わる通貨システムを議論しているとも述べた。
ドルは現在、各国の中央銀行の外貨準備高で60%を占め、依然として最も信頼できる通貨として残っている。国際通貨の専門家であるカルフォルニア大学バークレー校のバリー・アイケングリーン教授は先月26日、「プロジェクトシンジケート」への寄稿で、最近の脱ドルの動きはデジタル決済システムの拡散が重なった現象だと分析した。ドルがなくても可能なデジタル決済システムの拡散が、過去とは異なる背景だと指摘した。また、最近の脱ドルの動きにおいて、反米あるいは中国の挑戦という要因を強調する必要はないとしながらも、結果的にはドルの支配力と覇権が徐々に浸食されるだろうと見通した。