米国のジョー・バイデン大統領はウクライナ戦争に関連して、現地への兵器支援を強化するとしながらも「北大西洋条約機構(NATO)とロシアの直接衝突」や「ロシアの政権交代」などは望まないとの考えを明らかにした。今回の戦争とについて一時掲げていた「原則論」をおろし、「現実論」への方向転換を試みていると解釈できる。
バイデン大統領は先月31日付の「ニューヨーク・タイムズ」への寄稿「ウクライナにおいて米国がすべきこととすべきでないこと」で、今回の戦争で「米国の目的を明確にすることを望んでいる」としつつ、上のように表明した。米国はこれまで、「(ウラジーミル・プーチン大統領は)権力の座にとどまってはならない」(バイデン大統領、3月26日)、今回のような侵攻が「できないほど(ロシアが)弱体化することを望む」(ロイド・オースティン国防長官、4月25日)と述べるなど、ロシアに対する「強硬発言」を続けてきた。
同紙は先月19日の社説などで、ロシアとの全面戦争に突入することが「米国の国益」ではないとし、政府は今回の戦争の明確な目的を明らかにすべきだと主張してきた。バイデン大統領の今回の寄稿は、同社説の要求などを受け入れ、これまで表明してきた強硬な原則論に一線を引いたものと考えられる。
バイデン大統領はその一方で「ウクライナの戦場で最重要の諸目標物をより精密に打撃できるよう、先端のロケットシステムを援助する決定を下した」と明らかにした。バイデン大統領はその理由について、「戦争は外交(交渉)を通じて明確に終わるだろう」とのウォロディミル・ゼレンスキー大統領の発言を引用しつつ、ウクライナに「かなりの兵器と弾薬を迅速に送るのは、彼らを戦場で戦えるようにするとともに、交渉のテーブルで最も強力な立場に立たせるため」と説明した。また、「ウクライナが国境を越えて攻撃することは煽っておらず、そのような能力も提供していない」とし、「我々はこの戦争を長期化させてロシアを苦しめることは望んでいない」と述べた。
ロシアに対しては「NATOとロシアとの戦争は追求しない」とし「プーチンに同意してはおらず、彼の行動に怒ってはいるが、米国はモスクワから彼を追い出そうとはしないだろう」と述べた。そして「米国や同盟諸国が攻撃を受けない限り、ウクライナに米軍を派兵、あるいはロシア軍を攻撃などの形でこの戦争に直接介入することはないだろう」との立場を明確にした。ウクライナ戦争についてのこれまでの強硬発言を事実上撤回したうえで、ウクライナを支援する目的は「拡大」や「ロシアの弱体化」ではなく、外交を支援するためのものであることを明確にしたのだ。これを示すようにバイデン大統領は寄稿の冒頭で、「(ウクライナ戦争についての)我々の目的は明確だ。抑圧から自らを守る手段を持ったウクライナが、民主的で独立を保ち、主権を守りつつ繁栄することを望んでいる」と述べるにとどまった。
バイデン大統領はそれとともに、米国はウクライナ国民の意思を重視するとの原則も再確認した。バイデン大統領は「この危機の間じゅう、常に我々の原則は『ウクライナが排除された状態では、ウクライナについてのいかなる決定も下されない』ということ」だったとしつつ、「個人的にも公開の場においても、ウクライナ政府にどこかの領土を割譲せよと迫ったりはしていない。それは誤りであり、きちんと確立された原則に逆行する」と述べた。
戦争の拡大は望まないというバイデン政権の方針は、最近の新たな兵器システムの供給についての決定にもよく表れている。バイデン大統領は先月30日、記者団に対し、「我々は、ロシア領内を打撃しうるロケットシステムはウクライナに送らない」と述べている。射程距離が最長300キロの長距離多連装ロケット(MLRS)は提供しないとの考えを明確にしたのだ。
英「フィナンシャル・タイムズ」は、米国政府がこの日、その代わりとして射程距離が最長80キロの高機動ロケット砲システム(HIMARS)の発射台や精密砲弾などを含む7億ドルの追加支援策を1日に発表すると伝えた。同ロケット砲発射台に使われるロケットは誘導型多連装ロケットシステム(GMLRS)で、射程距離は米国がすでにウクライナに提供しているM777りゅう弾砲の2倍以上だが、MLRSに比べればはるかに短い。米国の高位当局者は、今回のロケットシステム支援によって「ウクライナは領内の戦場において、より遠くにある目標を正確に打撃できるようになるため、ロシアの進撃を撃退するだろう」と評価した。