世界の食糧危機を深刻化させるロシア軍のウクライナ黒海沿岸封鎖の解除を求め、西側の要求が高まる中、デンマークはウクライナに対艦ミサイルを提供すると明らかにした。
デンマークは23日に開かれた「ウクライナ防衛接触グループ」のオンライン会議で、米国製の先端対艦ミサイル「ハープーン」をウクライナに提供するとの意思を明かした。「ワシントン・ポスト」などが報じた。
ロイド・オースティン米国防長官はこの会議後の記者会見で、「今日、ウクライナの沿岸防衛に役立つハープーンと発射台を提供すると発表したデンマークに、特別な感謝を伝える」と述べた。オースティン長官はまた、チェコが攻撃用ヘリコプターと戦車、ロケットシステムを提供すると明らかにした。
これに先立ち、ロイター通信は19日、米国がロシア軍による黒海沿岸のウクライナの港の封鎖を突破するために、ウクライナ軍にハープーンや海軍打撃ミサイル(NSM)の提供を考慮していると報道した。米国は、これらのミサイルを直接提供するか、あるいはこれらのミサイルを保有する同盟国が渡す対策を講じていたものとみられる。ハープーンを提供する国としてはノルウェーの名があがっていたが、デンマークが名乗り出た。
米ボーイングが製作したハープーンは、射程距離が最大300キロで、艦艇や潜水艦、陸上からも発射できる。ハープーンは、これまでにウクライナに提供された兵器の中で最も破壊力が高い。西側が提供した携帯型対戦車ミサイル「ジャベリン」がウクライナ戦争でロシア陸軍を苦しめたように、ハープーンは海上でロシア海軍に脅威を与える「ゲームチェンジャー」と評価される。
ハドソン研究所の海軍専門家であるブリヤン・クラーク研究員は、射程100キロを超えるハープーンのような対艦ミサイルが12~24発ほどあればロシア海軍を脅かすのに十分であり、海岸封鎖を解除させられるだろうと評価した。ロシアはすでに4月14日、黒海艦隊の旗艦である「モスクワ」沈没という大きな損失を被っている。米国は当時、ウクライナに情報を提供したとされ、ウクライナ軍は自国製の対艦ミサイル「ネプチューン」でモスクワ艦を撃沈させたと明らかにした。
ハープーンの提供のことを、ロシアは北大西洋条約機構(NATO)のウクライナ戦争介入の強化と受け止めるだろうという指摘もある。ロシアはこれを軍事・経済において死活問題である黒海の制海権を脅かす措置として受け入れ、対応に乗り出すと予想される。オーストラリアのカーティン大学のロシア軍事専門家であるアレクセイ・ムラビエフ氏は、ロシアが封鎖中のオデーサ港を陥落させるための攻勢を強化するかたちで対応するだろうと警告した。また、ロシアがハープーンでは狙いにくい潜水艦を利用した作戦を強化するとも予想した。
ウクライナがハープーンを実戦配備するには数カ月の時間がかかる。ミサイルを運用する兵力を訓練しなければならないうえ、ウクライナ軍の防衛システムに統合させるのに時間が必要だからだ。ワシントン・ポストによると、ウクライナの沿岸防衛システムはソ連時代の技術で構築されており、米国製ミサイルを統合するには数カ月の時間が必要だと専門家たちは指摘している。
西側は黒海沿岸封鎖を解除するその他の案も検討している。ニューヨーク・タイムズは、複数の国の艦艇を派遣し、ウクライナのオデーサ港から穀物を輸送する貨物船を護衛する案を西側の官僚たちが話し合っていると報じた。しかし、ロシア戦艦との衝突の懸念があり、特にNATO加盟国の戦艦が派遣された場合、危険性は倍増すると同紙は指摘した。
NATOのイェンス・ストルテンベルグ事務総長は、黒海沿岸の封鎖を解除するのは「難しい課題であり、今後も道は容易ではない」とし、慎重な態度を示したと同紙は伝えた。