ジュハイル・カピエさんはベイルートで創業120年のパン屋を営んでいる。レバノンの金融危機や新型コロナウイルス禍にも生き残ったが、今回のロシア-ウクライナ戦争で危機に瀕している。
普段はパンやパイなどが陳列されている売場にはほとんど商品がない。先月24日のロシアによるウクライナ侵攻後、小麦粉の価格が1000%上昇したためだ。カピエさんは「パンの値段を50%上げたが、それでは足りない。これまで注文を受けたパンだけを作ってきたが、もう限界だ」と話した。
ロシアとウクライナの戦争が、深刻な供給不足や物価上昇などの大きな苦痛を貧しい国にもたらしている。「ウォール・ストリート・ジャーナル」が22日(現地時間)に報じた。グローバル時代においては、戦争が招く石油や食料などの供給網の混乱を免れうる場所など世界のどこにもないが、何よりそれに耐える余力のあまりない開発途上国は、より大きな衝撃を受けている。
ロシアとウクライナは全世界の小麦輸出の3分の1を占めており、ヒマワリ種子油の輸出市場の52%を占めている。世界銀行のインダーミット・ギル副総裁は「戦争が続けば、その衝撃は恐らくコロナよりも大きいだろう」と述べた。
先進国の経済は、今年末にはコロナ以前の水準を回復するものとみられる。しかし開発途上国は、来年末になっても依然4%を下回ると予測されている。ギル副総裁は「開発途上国の負債水準はここ50年で最悪」とし「戦争で物価が上昇すれば、開発途上国に対する投資はより萎縮するだろう」と述べた。
ロシアは原油の世界輸出市場でのシェアが12%で世界2位、天然ガスと肥料のシェアは世界1位だ。原油価格は今回の戦争で、今年末までに2012年の2倍の1バレル当たり130ドルにまで高騰するとみられる。肥料の供給不足と価格の上昇は食糧生産に否定的な影響を及ぼし、食糧価格の急騰につながるとみられる。戦争の直撃を受けたウクライナの穀倉地帯では、すでにトウモロコシと小麦の栽培面積が減っている。
開発途上国の大半は、これによる負担を丸ごと抱え込まざるを得ないのが現状だ。特に中東や北アフリカ諸国は、小麦の輸入をウクライナやロシアに大きく依存してきたため、衝撃はより大きい。2011年にこれらの地域を席巻した民主化デモ、いわゆる「アラブの春」の火種がパン価格の高騰だったという事実は、これらの地域の当局を緊張させている。
エジプトはウクライナ戦争勃発以降、パン価格の補助金に充てる財源を10億ドル(1兆2138億ウォン)増やすとともに、補助を受けていないパン価格の引き上げを規制している。レバノンの食料備蓄は6カ月分のみ。レバノンのアミン・サラーム経済相は「より多くの小麦を良い条件で購入するため、友好的な国と接触している」と述べた。ソマリアでは干ばつ、政情不安、武力衝突などによる既存の困難にウクライナ戦争までもが重なり、多くの人々が飢餓に近い状態に陥っている。ソマリア南部キスマヨの総合病院には今年2月、昨年同期の2倍に当たる207人の5歳未満の乳幼児が栄養失調で入院した。
インド、トルコ、タイ、チリのように、原油などのエネルギーの海外依存度が高い国も大きな打撃を受けている。国際格付け企業「スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)」は、ウクライナ戦争による原油価格の高騰は、これらの発展途上国の年間成長率を1ポイント低下させるだろうと予測した。
パキスタンでは、庶民生活を圧迫するインフレが政治争点化している。政府はガソリン価格を安定させるために15億ドル(1兆8199億ウォン)規模の補助金支給計画を発表したものの、野党はイムラン・カーン政権がこのところ物価安定に失敗しているとして猛攻を開始している。
タンザニアは今月、エネルギー輸入税を撤廃したが、原油価格の上昇に歯止めはかかっていない。サミア・スルフ・ハッサン大統領は「すべての商品価格が上がる。ウクライナ戦争のせいだ。政府のせいではない。世界中がそういう状況だ」と述べた。