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[寄稿]鍋たたく音の消えたヤンゴンの夜、「選択」迫られる市民たち

登録:2021-05-08 03:00 修正:2021-05-08 11:15
[ミャンマーから届いた手紙9] 
軍部、「暴力中止」合意からわずか2日後 
「国益」などの条件を掲げ約束を反故に 
地方や国境地域では依然として街頭デモ 
 
経済制裁で工場閉鎖、20万人失業 
市民の間で、軍警の内部で対立が広がる 
「懐柔」に応じれば「敵」に 
6日、ミャンマーのマンダレーで行われた軍部クーデター反対デモに参加したある女性が、抵抗を意味する3本指の敬礼をしている=マンダレー/EPA・聯合ニュース

 先月中旬に8通目となる手紙を送った後、期待と失望が交差する日々を送っています。先月16日、ミャンマー暫定政府を自任する連邦議会代表委員会(CRPH)は、15人の長官と5人の次官からなる国民統一政府(NUG)を組織しました。従来の組織をより体系的に発展させたものですが、消えかけていた市民の心の中の希望のロウソクに再び火を灯しました。24日には東南アジア諸国連合(ASEAN)がミャンマー軍部の首長と会談し、事態解決のために5つの条項からなる合意文を採択しました。特に、直ちに暴力を停止するとの合意は高く評価され、国連や国際社会、韓国メディアの大きな注目を集めました。

 しかし、ミャンマー軍部は合意からわずか2日で、暴力停止に対して「状況の安定」と「国益との一致」なる前提条件をつけてASEANを蔑ろにし、国連と国際社会の期待を裏切りました。今も軍部は毎晩、国営放送を通じてデモ指導者の指名手配を発表し、御用新聞社を通じて市民不服従運動(CDM)に参加した公務員を懐柔、脅迫しています。最大の都市ヤンゴンのあちこちに配置された軍警は、昼夜を問わずデモ参加者を逮捕していますが、今や私服を着て乗用車に乗った逮捕班まで登場しています。

 私の住んでいるヤンゴンの住宅街では2月から、毎晩8時に抵抗の意味を込めて鍋の音を打ち鳴らしていたのですが、もはやその音は聞こえません。鍋の音がすると、軍警が家の窓に向かって発砲したり鉄球や割れたレンガを投げつけたりするからです。軍部は家庭にも消灯を強要し、従わなければ軍靴でドアを蹴破って押し入り、容赦なく殴ったり連行したりします。市民が安らかに呼吸できていた家は過去の思い出となり、軍に反対して自由を叫んでいた声は命を脅かす声となってしまいました。

 地方と国境地域の市民は、依然として軍部クーデター反対を叫びながら街を闊歩しています。少数民族の武装諸団体は以前よりも組織的な武装活動を行っています。武装集団が軍警の拠点や駐屯地を襲撃すれば、軍警は翌日に善良な市民に対して報復する、ということが繰り返されています。一部の地域では市民軍が組織され、対峙する地域も登場したといいます。

 ヤンゴンの都心には車が大変多く、通勤時間ともなるとあちこちで渋滞が発生します。朝から銀行入口のATMの前に、現金を引き出そうとする人が数百人並ぶ光景が見られます。このような様子を見ると、ヤンゴンはほとんど日常を取り戻したように思えます。しかしその内部は膿みつつあります。ヤンゴン大都市産業団地では、経済制裁により工場が閉鎖され、20万人の失業者が発生したといいます。失業者の家族も考えると、極貧の状況に追い込まれた人は80万人以上と推定されます。ミャンマー全土では、今回の事態により100万人以上の国民の生計が脅かされています。

 内部対立はより深まりつつあります。軍部は国営放送を通じて政局は安定したと宣伝しており、独立メディアは武装団体の勝利と国民統一政府の活動を報道します。国民統一政府はSNSを通じて自分たちの旺盛な活動を伝えるとともに、近く国際社会が自分たちを認めるだろうと主張しています。このような対立は市民の間でも現れており、軍警の間でも現れています。都市のいたるところで誰が仕掛けたのか分からない手製爆弾が爆発し、地方では一部の軍警が内部対立によって銃撃を加えるという事件もありました。地方都市では軍の側に立った人々が「裏切り者」として追い込まれ、正体不明の者によって殺されたりもしてます。

 軍部は「学校を再開する」と言い、国民統一政府は「登校は軍部の奴隷になること」と批判しています。軍部は市民不服従運動(CDM)に参加した公務員を懐柔したり脅迫したりし、国民統一政府は軍部の懐柔に応じた公務員を敵と規定しています。軍部は反政府系の医師を逮捕し、国民統一政府は軍部に反対しない医師を「軍部の犬」と表現しています。軍部と国民統一政府が共に国民を崖の縁に立たせ、背を押しているのです。

 軍部と国民統一政府は共に民主政府を自任しています。この2つの政権の民主主義は果たしてどちらの側に立っているのでしょうか。「民主主義は国民の基本権を尊重するとともに、権力の専制化を抑制しうる数々の重要な政治制度の確立が満たされなければならない。この2つの条件が満たされていない国家は、いかなる意味においても民主主義国家ではない」。事典に載っている民主主義国家の定義です。今、ミャンマーの国民が支持しているのがどちらなのかは、誰が見ても明白です。「愛する国民のみなさま。主権者であるあなたが進む、その自由な選択の岐路において、民主化勝利のために心の底から支持してください」。こう訴える真の民主政権の姿を期待するのは難しいことなのでしょうか。

ヤンゴン/チョン・ギホン|ヤンゴン大学世宗学堂教授(釜山外国語大学ミャンマー語科特任教授) (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/international/international_general/994221.html?_fr=mt2韓国語原文入力:2021-05-07 05:00
訳D.K

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