中国を牽制する「多国間安保同盟」の可能性は
ソ連に対応して創設されたNATOのように
クアッドも中国の脅威を共有するが
日本、「普通の国」追求に中国の助けが必要
インド、非同盟外交と兵器変更が障害に
オーストラリア、クアッドを通じた地位強化望む
中国はソ連と異なり世界経済の核心
国際社会との関係改善に乗り出すなら
米国主導の多国間同盟の現実化は困難に
中国と世界の軋轢が深まっている。南シナ海と台湾海峡、ヒマラヤの高山地帯とメコン川流域に至るまで、紛争地帯は広大だ。中国が「切り離せない中国の一部」とし、内政干渉と規定した香港やチベット、新疆地域の人権問題は、軋轢の根底に理念的な違いがあることを示している。「全方位的な多発性軋轢」ともいえる。
経済力をもとに、外交・安保分野でも中国は積極的な態度を示している。主権と国益を掲げて周辺国との衝突も辞さない中国のいわゆる「戦狼外交」を、相手国は“強圧”と捉えている。「これ以上遅くなる前に中国を制御すべきだ」という声が高まっているのもそのためだ。
米国が中国を牽制して日本、インド、オーストラリアが参加する非公式戦略フォーラム「クアッド」(QUAD)を北大西洋条約機構(NATO)のような多国間安保同盟に格上げすべきだと主張しているのも、こうした脈絡からだ。クアッドは果たして「アジア版NATO」になり得るだろうか。
「冷戦的な思考と対決をあおり、各国を地政学的な競争に追い込んでいる」
中国の王毅外交部長は13日、マレーシアの首都クアラルンプールで開かれた記者会見で、クアッドを「巨大な安保脅威」とし、このように述べた。彼は「新しい冷戦をあおるのは時代とかけ離れた認識」だとし、「いわゆる『アジア版NATO』が推進されるなら、歴史の時計を巻き戻すことになるだろう」と強調した。
王外交部長のこのような発言は、クアッドに対する中国の認識がわずか2年で大きく変わったことを示している。 2018年3月、中国最大の政治行事である両会(全国人民代表大会と全国人民政治協商会議)期間中に開かれた記者会見で、クアッドについて「マスコミの関心を引くような誇張した主張だ」とし、「海上の泡は目を引くことはあっても、しばらくすると跡形もなく消える」と述べた。当時は米中貿易戦争が本格化していなかった時期だ。中国に対する世界の見方も、世界に対する中国の見方も、この2年間で大きく変わった。
クアッドは2007年、当時の安倍晋三首相の提案で第一歩を踏み出した。しかし、同年末に政権に就いたオーストラリアのケビン・ラッド首相が中国との摩擦を懸念して翌年に不参加を宣言し、長い冬眠期に入った。クアッドは10年後の2017年、ドナルド・トランプ政権発足後のASEAN首脳会議をきっかけに、再び稼動を開始した。
米国は同年末に出した「国家安全保障戦略報告書」で、クアッドに象徴されるインド太平洋地域を「自由陣営と圧制勢力の世界観が地政学的な対決を繰り広げる場所」と規定した。中国に向けていることを明らかにしたわけだ。クアッドをNATOのような多国間安保同盟に格上げするという構想が最近になって公式化したが、クアッド再開の時点からすでに予見されていた手順だった。
軍事・安保同盟は脅威に対する共通の認識と共有する戦略的利害を前提とする。第二次世界大戦後、ソ連の脅威に対抗するために、1949年4月に北米と西欧12カ国が締結した北大西洋条約によって創設されたNATOも同じだ。NATOは外部勢力が加盟国を攻撃すれば相互防衛する集団防衛体制を軸としている。
NATOの出発は「ソ連」という共通の脅威に対する集団対応だった。「アジア版NATO」に対する議論もまた、「中国」という共通の脅威に対する認識の共有から始まる。NATOの設立は冷戦の出発でもあった。アジア版NATOの登場も、新たな冷戦の始まりになる可能性があるという意味だ。
脅威に対する認識の共有が直ちに一致した行動につながるわけではない。米国の国防・安全保障専門シンクタンク「ランド研究所」は、7月末に発表した報告書で、「これまでクアッド参加国が合意したのは、中国に対する牽制が必要だという点だけ」だと指摘した。こうした現実を端的に示したのが、6日に東京で開かれたクアッド外相会合だった。
当時、マイク・ポンペオ米国務長官は中国を「脅威」と規定し、「クアッド参加国が中国共産党の搾取や腐敗、強圧に対抗して協力することがいつにも増して重要になった」と強調した。しかし、主催国である日本を含む残り3カ国の外相はそれぞれ声明を出し、中国に対する直接的な言及を避けて「規則に基づいた秩序、航行の自由、地域における対立の平和的解決」だけを強調した。今回の会合では共同声明も出せなかった。依然として道のりは遠いということだ。
コロナ問題から外交・安保・人権問題に至るまで、米国と最も近いた行動を見せているのはオーストラリアだ。国内政治に対する中国の影響力が強まり、外交政策に対する露骨な報復も相次ぎ、中国に対するオーストラリアの懸念はますます高まっている。一方では中国の経済的報復を懸念しながらも、他方ではクアッドの格上げを通じた国際的地位の強化を望んでいるのがオーストラリアの現状だ。
日本はいわゆる「普通の国」を追求する。揺らいでいる強大国の地位を維持しなければならないという戦略的目標もある。問題は、いずれも中国の助けなしには実現が難しいことにある。しかもクアッドのNATO化は「戦争できる国」日本を前提とする。韓国をはじめとする周辺国家の理解を得るのは極めて難しい。韓国と同様に、安保は米国、経済は中国に依存しているという点も足を引っ張る恐れがある。
インドは伝統的に非同盟外交を追求してきた。13億の人口を保有するインドも強力な民族主義感情を土台に自力で「超大国」になることを望んでいる。最近、中国との国境紛争で流血事態まで起こり、米国の方に傾いているが、米国の望みどおりには動かないという意味だ。インドの兵器システムがロシア産を中心に構成されているため、アジア版NATOに参加するためには兵器システムを全般的に変えなければならないという点も悩みの種に挙げられる。
米国の意志と能力の乖離も問題だ。そのうえ、トランプ政権は「米国優先主義」を掲げ、NATOを含む同盟国を冷遇してきた。トランプ大統領は、NATO加盟国は相互防衛公約を順守するというNATO憲章第5条を拒否し続けてきた。 クアッドのアジア版NATO拡張論が説得力に欠けるのもそのためだ。
NATOとクアッドの間には、一つ明らかな違いもある。ソ連と東欧圏の経済は、いわゆるNATOと西欧の経済圏と分離されていたが、中国とクアッド加盟国の経済は、世界的な産業サプライチェーンの中で緊密に結びついている。クアッドのNATO化を推進する米国が露骨に「デカップリング」を取り上げ、中国を除いた産業サプライチェーンの再構築を強調しているのも、こうした脈絡からだ。
インド太平洋地域における集団安保体制の構築の試みがなかったわけではない。冷戦初期の1954年、フィリピンやタイをはじめ、米国、英国、フランス、オーストラリアなど8カ国が参加し、「反共」を掲げて設立された東南アジア条約機構(SEATO)もそのような試みだった。米国の外交官でありソ連の専門家でもあるジョージ・ケナンの「封鎖戦略」に基づいて作られた同機構は、これといった活動もなく1977年に公式解散した。
クアッドがアジア版NATOになるためには、長期的に東南アジア諸国連合(ASEAN)の参加も必要だ。これらの国家が中国に対抗する多国間安保機構に参加する可能性は、現在のところ高くない。ただし、中国の脅威が「差し迫って顕著になれば」事情が変わってくる。米国の大統領選挙の結果も大きな影響を及ぼすものとみられる。現在のところクアッドがアジア版NATOになる可能性だけでも中国に対する一定の“抑止力”として作用するというのが大方の分析だ。
結局、中国が国際社会との軋轢をどのように管理するかがカギとなる。国際社会が中国に対して感じる脅威の度合いが大きいほど、アジア版NATOの必要性は高まるからだ。張家棟・復旦大学教授は11日、官営「グローバルタイムズ」への寄稿文で、「覇権国家である米国と新興発展国である中国の戦略的競争は避けられず、したがって中国もこれに合わせて影響力を適切に行使しなければならない」とし、「地域秩序の力学関係をよく考え、特に(自由や人権など)理念的な側面で世界各国との関係をもっと精密にアプローチする必要がある」と指摘した。さらに「こうしたアプローチだけが『価値と文化の違い』を掲げて中国を排除する同盟体制を作ろうとする米国の意図を遮断できる」と強調した。言い換えれば、クアッドのアジア版NATO化が可能かどうかは、中国の今後の歩みにかかっているという意味だ。