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[レビュー]「人種」は「平坦な地球」と同じくらい荒唐無稽な考え

登録:2022-11-08 03:11 修正:2022-11-08 09:21
『人種という神話』ロバート・サスマン著、キム・スンジン訳、チワサラン刊
//ハンギョレ新聞社

 1950年7月、ユネスコ(UNESCO)は「人種は生物学的実在ではなく社会的神話」であり、「生物学は人類の普遍的同質性を証明した」と宣言した。人類学、遺伝学、生物学、社会学、心理学などの関連分野の専門家たちが膨大な研究結果にもとづいて発表した声明だった。それから70年あまりが過ぎた今も、「人種(主義)」は依然として似非科学の外皮をまとい、偏見と嫌悪、排除と差別を伝染させる。

 人種主義とは、人類は肌の色、血統、文化、宗教などによって差別的序列で区別されるという信念だ。非キリスト教徒の迫害、黒人奴隷制、ユダヤ人やジプシーの虐殺の「科学的」根拠だった。人種とは実体なのか。結論から言えば、政治的正しさや倫理的態度以前に、科学的に何の根拠もない。生物学的にホモサピエンス(現生人類)は亜種(下位種)さえない単一種だ。人間の遺伝子の差は集団間より集団内の個人間の方が大きい。

 米国の人類学者ロバート・ウォルド・サスマンの『人種という神話』(キム・スンジン訳、チワサラン刊)は、15世紀から現在まで欧州とアメリカ大陸の植民地で跋扈(ばっこ)する人種主義の系譜を追跡し、「無知、感情、憎悪、偏見にもとづいた(…)不寛容はなぜ『平らな地球』と同様に根拠がないのか」を、様々な史料と各時代の言説、科学的データで示している。

 15世紀のスペインでは、もともとはキリスト教徒と改宗ユダヤ人キリスト教徒を生物学的に区別しようとした。宗教裁判は「純粋でない血統」を判別する手段だった。その後500年近くにわたって、欧州において「他者」を説明する理論には2大軸があった。「多元発生説」は、西欧キリスト教徒ではない人間は神がアダムを作る前から地球にいた原始人種だというもの。「一元発生説」は、すべての人間は神の創造物ではあるが、一部が理想的でない環境条件のせいで衰退したというもの。いずれにせよ、西欧人が優れているという確信は同じだった。

 近代の扉を開いた啓蒙主義者も人種主義に閉じ込められていた。18世紀の哲学者カントは、人間を白人種、黄色人種、黒人種、赤食人種の順に区分し、白人種を最も完全な人間だと考えた。ダーウィンの『種の起源』(1859)が出版されて以降は、適者生存の概念とメンデルの遺伝法則を組み合わせた優生学が20世紀前半まで猛威を振るった。選択的育種、「不適合者」の強制断種と生体実験、知能検査、移民制限、「劣等種」の大虐殺が考案され、執行された。ナチスの優生学と米国企業が密に交流したことはよく知られている。その時代は体質人類学と文化人類学も人種主義に加担した。

 20世紀以降、米国では現代版「科学的人種主義」が反移民団体や極右政治勢力のプロパガンダと反移民政策に資金と論理を提供している。人種主義が生物学的実在ではなく、政治・経済・社会的意図から考案された発明品だという主張は、米国建国初期に欧州から渡ってきた白人の間にさえ人種の区別があったということからも如実に証明される。

 例えば、19世紀後半の時点でも米国においては、イタリアなどの南欧系「新移民」は「白人」に含まれず「白い黒人(White Nigger)」と呼ばれた。「旧移民」であるドイツ、アイルランド、北欧系の入植者が米国で「白人性」を認められたのも、19世紀半ばになってからだった。以前は、「真の白人」は建国の主流集団である英国系(アングロサクソン)市民だけだった。「米国の人種鑑別残酷史」は在米韓人社会学者でマクファーソン大学教授のチン・グソプが書いた『白人とは誰か?』(プルンヨクサ版、2020)でよく説明されている。

 サスマンは「第2次世界大戦が終わり、科学的人種主義もナチズムの極端主義と共に終わったと考えるかもしれないが、そうではない」とし、「人間の尊厳、自由、正義を信じるすべての人は、人種的偏見と人間同士の違いにもとづいて嫌悪を広めようとする人々と戦い続けなければならない」と強調する。これは現在だけでなく未来のためでもある。「私たちは子どもたちに人間の多様性の驚異を伝えなければならず、世界に存在する驚くべき人種的多様性を享受せよと教えなければならない。偏見と嫌悪ではなく、寛容と愛を教えなければならない」

チョ・イルチュン先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://h21.hani.co.kr/arti/culture/culture_general/52826.html韓国語原文入力:2022-11-05 02:52
訳D.K

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