アラスカ最北端のノーススロープは、永久凍土で覆われたツンドラ地帯だ。1968年に膨大な量の石油と天然ガスの埋蔵が確認され、1974年4月~1977年6月にかけて、アラスカ南部の港湾都市バルディーズまで内陸を貫通する全長1287キロメートルの「トランス・アラスカ・パイプライン」が建設された。建設当時、80億ドルが投じられた世界最大規模の民間資金による建設プロジェクトだった。パイプラインは、氷点下62度まで下がる地域を通過する。地盤沈下に備えるため、全区間の半分以上を7万8000本の垂直支柱で空中に浮かせるかたちで建設し、地震や極端な温度変化によるパイプの損傷(膨張・収縮)を防ぐため、直線ではなくジグザグ状に敷設した。直径48インチ(1.22メートル)のパイプラインを通じて、今年1~8月に1億1143万2603バレルの石油を輸送した。
■アラスカを貫通する直径1メートル・全長1300キロメートルのガスパイプラインを建設
米国のトランプ大統領が1日未明(米現地時間30日午後)、韓国の対米投資の対象として既成事実化する動きをみせたアラスカの液化天然ガス(LNG)プロジェクトも、ノーススロープ産のガスを生産→輸送→液化→輸出する全過程を網羅している。ノーススロープ油田地帯にあるプルドーベイのガス処理工場で生産された天然ガスを、南部の港湾都市ニキスキまで全長1300キロメートルのパイプラインで輸送し、これをLNG輸出ターミナルで液化して韓国など東アジアへ送ることになる。生産規模は年間2000万トンだ。建設区間はトランス・アラスカ・パイプラインと半分ほど重なっている。これまでアラスカ州は、直径42インチ(1.07メートル)の高圧ガスパイプラインの大部分を地上ではなく地下に埋設する計画を推進してきた。
トランプ大統領の発表後、商務省が公開した資料によると、2029年までにプルドーベイから南部のアンカレッジまでガスパイプラインを建設し、年間230万トン規模のガスを現地に供給する。続いて2031年までに、アンカレッジ近郊のニキスキに液化プラントなどのLNGターミナルを建設し、2032年から輸出を開始することを目標としている。
これに先立ち、韓国政府は22日、国会に対し、「プロジェクト・ノース(North)」と命名されたアラスカLNGプロジェクトを米国と検討していると報告していた。政府は「商業的な合理性の要件と国内法上の条件が満たされた場合、アラスカ・プロジェクト推進の是非を判断する」とし、現時点では保留する立場をとっているが、経済的利益がかかる事案では嘘もいとわず取引の主導権を握ろうとするトランプ大統領特有の攻撃的な物言いが、今回も「韓国が投資することにした」という一方的な発表につながった。米国のラトニック商務長官は、アラスカLNGプロジェクトに対する韓国の投資額が「500億ドル(約7兆9000億円)を超える」と述べた。
米国内の政治的な思惑が強く働いている。アラスカは伝統的に共和党の支持基盤が強い地域だ。11月3日の米中間選挙を控え、共和党の現職上院議員が民主党候補と接戦を繰り広げている状況を受け、トランプ大統領が選挙支援のために、確定していない経済的成果を実績であるかのように装い、急いで発表したという分析が出ている。トランプ大統領はこれまで、韓国と日本がアラスカLNGプロジェクトに資金を提供することに合意したと、たびたび主張してきた。この日のホワイトハウスでの発表の場には、アラスカを選挙区とするダン・サリバン上院議員(共和党)、ニック・ベギッチ下院議員(共和党)、マイク・ダンリービー・アラスカ州知事(共和党)が出席した。
■「リスクが高い」という否定的な評価から立場を変えた韓国政府
米国による一方的な発表の背景には、韓国政府とある程度協議が行われていたという事情もある。アラスカLNGプロジェクトは、現時点では商業的合理性の検討段階にあるため、韓米戦略投資特別法に基づく国会報告の対象ではない。にもかかわらず、政府は「プロジェクト・ノース」という事業名まで決定し、米国との間で進めてきた協議の具体的な内容を国会に報告した。トランプ大統領が強く求めてきた事業に、韓国が参加する可能性があるというシグナルを送ったことになる。
特に、昨年11月の国会報告の際には「ハイリスク事業」として否定的に評価していたキム・ジョングァン産業通商部長官は、22日の報道陣向けの事前説明会では、「商業的合理性がなければ行わない」としながらも、米国政府が韓国製鉄鋼などプロジェクト関連の資材の関税引き下げの優遇措置▽長期LNG購入契約の保証▽アラスカ産LNGに対する韓国の優先アクセス権などを約束したことを明らかにし、前向きに検討する可能性を示唆した。キム長官は「アラスカLNGプロジェクトが推進されたとしても、対米投資額はいかなる場合でも当初米国と合意した2000億ドル(年200億ドルを上限)を超えない。このプロジェクトが成功裏に推進されれば、LNGの需給多様化を通じたエネルギー安全保障の強化に大きく寄与すると期待している」と述べ、投資の安全策や資源安全保障上の効果を強調した。
■LNG供給元の多様化など戦略的な意義も
アラスカはテキサスに次いで、米国内の天然ガス埋蔵量第2位の地域だ。過酷な気候と地形のため、テキサス州よりも投資・運営コストは高いが、太平洋に面しているため、韓国や日本などの主要輸入国までの輸送期間が9日程度と短いという利点がある。大西洋側の輸出ターミナルを経由する場合、輸送期間は20日以上かかる。
事業性は依然として不透明だ。昨年までは、政府内外で推計されたアラスカLNGプロジェクトの事業費は440億ドル(前処理設備の建設100億ドル、ガスパイプラインの建設140億ドル、液化プラントの建設200億ドル)程度だった。1年ほどで事業費が「500億ドル以上」(米国発表)に増加した。ロイター通信は、総事業費を445億~545億ドルと推計した。天候問題などによる工事の遅延、大規模な化石燃料開発やパイプライン建設にともなう環境問題も避けられない。これに先立ち、2016年にはエクソンモービルやブリティッシュ・ペトロリアム(BP)などのグローバルエネルギー企業も、採算性が見込めないことを理由に撤退したことがある。
ただし当時は、米国のシェール革命によるガス価格の暴落なども事業撤退の一因だった。現在では、人工知能(AI)データセンターの電力需要などに対応するためのLNGの長期的な調達量の確保や、中東の地政学的リスクの恒常化を踏まえ、供給ルートを多様化する必要性を事業性と同じくらい重視して検討すべきだとする指摘も出ている。キム長官は事前説明会で、「韓国のガス需給は特定の海上輸送ルートへの依存度が高い。ホルムズ海峡だけでなく、マラッカ海峡、台湾海峡で問題が発生した場合に備える必要がある。米国西海岸、カナダ、アラスカ方面の供給ルートを検討することは、LNGの調達先の多様化やエネルギー安全保障など、戦略的な意味がある」と述べた。
■米民間企業がすでに事業を推進中…韓国の参加はどうなる
政府は「米国側が韓国の資機材メーカーや供給業者に対し、友好的な参加環境を整えることにした」と明言したが、具体的な参加範囲は現時点では決まっていない。
現在、アラスカLNGプロジェクトは、米国のエネルギー開発企業グレンファーン・グループが主導している。同社は昨年、アラスカ州傘下のアラスカ・ガスライン開発公社から事業持ち分の75%を取得した。アラスカ州政府が残る25%の持ち分を保有している。産業通商部はこの日未明、米国の発表を受け、グレンファーン・グループが参加するものと「推定している」と明らかにしたが、同日に行われたトランプ大統領のホワイトハウスでの発表イベントには、グレンファーン・グループのブレンダン・デュバル最高経営責任者(CEO)が出席した。デュバルCEOは「パイプラインの建設には3年かかり、資金調達が完了次第、着工できる」と述べた。
グレンファーン・グループは今年1月、20社が参加した入札を経て、パイプラインの建設および供給に関する条件付き契約を締結したとするプレスリリースを発表していた。その大半は、アラスカ、テキサス、ウィスコンシンなどに本社を置く米国企業か、ギリシャやドイツなどの欧州企業だ。「韓国企業の参加」という韓米両国の合意が、すでに民間企業が推進してきた事業内容と衝突することになる。
これに関連し、グレンファーン・グループは1月のプレスリリースで、「ポスコ・インターナショナルがパイプラインの製造に必要な鉄鋼の一部を供給することにした」と伝えた。韓国のエネルギー用鋼管製造企業である世亜製鋼も関心を示していることが分かった。これについて、ポスコの関係者は「世亜製鋼や海外の鋼管企業がプロジェクトに参加することになれば、鉄鋼を供給する可能性はあるが、参加の可否についてはまだ決まっていない」と述べた。ガスパイプラインのほか、液化プラントの建設やLNG運搬船の受注に韓国企業が参加する可能性も残されている。