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トランプ大統領、暗号資産の「貨幣化」…ドル帝国の新たな武器に

登録:2025-09-02 20:40 修正:2025-09-03 07:46
「反米」から「親米」に反転した暗号資産 
ステーブルコイン、ドル覇権の維持に役立つ
BE IN CRYPTO LTD//ハンギョレ新聞社

 ブロックチェーン・暗号資産(仮想通貨)分野でドナルド・トランプ大統領の異例な政策ドライブが全世界的に関連産業と市場の注目を集めている。究極的にはドルの覇権を維持し強化しようとする意図が背景にあり、国際金融秩序にも波紋が予想される。

 トランプ政権発足後に数多く打ち出された関連政策は、1年前の選挙期間に発表した公約とリンクしている。トランプ大統領は昨年7月27日、米国テネシー州ナッシュビルで開かれた「ビットコイン2024カンファレンス」に参加し、基調演説を行った。

 当時の発言をまとめると以下の通りだ。第一に、中央銀行デジタル通貨(CBDC)開発計画を廃棄する。第二に、暗号資産に敵対的だったゲーリー・ゲンスラー証券取引委員長を解任し、親和的な規制を作る。第三に、米国政府が保有しているビットコインを戦略備蓄し、すぐには売らずに保有する。第四に、すべてのビットコインが米国で採掘されるようにし、米国を暗号資産の首都にするという内容だ。

 政権獲得後のトランプ大統領の約束はおおむね守られている。トランプ政権で行われたホワイトハウスAI・暗号資産ツァーリ(総括諮問)および暗号資産委員会の新設、ステーブルコイン関連法の議会通過、退職年金の暗号資産投資許容などは「暗号資産に親和的な規制」、「暗号資産首都」実現のための具体的な方策だ。

 トランプ大統領の「親仮想通貨」路線は実のところ、政権1期と比べると非常になじみのないものだ。彼は2019年にビットコインに対して「貨幣でもなく、変動性が深刻で基盤が薄っぺらな虚空」だと述べ、反対の意思を明らかにしている。退任後の2021年、エルサルバドルがビットコインを法定貨幣として導入した時も、ビットコインは「詐欺」だと批判した。フェイスブック(現Meta)のステーブルコインプロジェクト「リブラ」が米国政府と議会の反対で座礁したのも、政権1期のときのことだ。

 このようなトランプ大統領が2期目に入って180度変わった政策を打ち出すことになったのは、ビットコインと暗号資産に対する考えを丸ごと修正するのに成功したためだと言える。例えばトランプ大統領はビットコインを「反米の象徴」から「親米の象徴」に変えた。ビットコインは2008年のグローバル金融危機当時、米ウォール街の金融圏に対する不信と危機に消極的に対応した米政府に対する批判の中から誕生した。すなわち、国家と資本から独立した、代案となる貨幣を構想しようとする試みであり、本質的に米国とドルに対抗する性格を持っている。

 これに対しトランプ大統領は、米政府の金庫にビットコインを積み上げておくという宣言で版図を変えた。米政府とビットコインの利害関係を一致させたのだ。その上、共和党の積極的な支援の中で昨年導入されたビットコイン現物を組み入れる上場投資信託(ETF)は、ウォール街の大手がビットコインを積極的に買い取るようにした。

 ステーブルコインも同様だ。Metaは2019年、ステーブルコインプロジェクト「リブラ」を発表し、ドル、ユーロ、円、ポンド、シンガポールドルからなる5つの通貨で構成されたバスケットにより価値が決定されるシステムを準備した。もし実現していたら、フェイスブック・インスタグラム・ワッツアップを通じて世界各地で活発に使われ、ドルと競争しただろう。しかし、トランプ1期目はこれを容認しなかった。

 2期目のトランプ政権では、ドル現金や米国債を1対1で確保した条件でのみステーブルコインを発行できるよう制限する手を打った。その結果、ステーブルコインはもはやドルと競争したり、一部または全体を代替する代案通貨ではなく、むしろドルを全世界に広げる道具に変貌した。

 トランプ大統領が中央銀行デジタル通貨であるCBDCに反対した理由も同じ脈絡で理解できる。CBDCの代表格である国がまさに中国だからだ。表面的な反対の名目として個人情報流出を前面に掲げたが、米国がCBDCを自主的に開発すれば、中国のCBDC発展を事実上認めなければならない現実的問題が伴う。ところが、中国のCBDCは、中国の念願である人民元を国際化するための手段の一つだ。つまり、トランプ大統領のCBDC反対は、ドルの有力なライバルを徹底的に排除しようとする意図であるわけだ。

 もちろん、トランプ大統領の個人的利害関係が絡まっているという点も排除できない。大統領選挙キャンペーンの後援金のうち、少なくとも2600万ドルが暗号資産業界から出た。大統領就任を控えて発足したトランプ大統領の家族企業は、トランプ氏夫妻など家族を素材にしたミームコインから莫大な金を稼いだ。この企業がビットコイン採掘企業に投資して独自のステーブルコインを発売し、利害衝突に対する指摘も絶えない。

 しかし、トランプ政権の暗号資産政策がドルのグローバル支配力を強固にしようとする意図である以上、次期に民主党が政権に就くとしても方向性は変わらない可能性が高い。さらに、米国としてはステーブルコインが国家債務問題解決の出口を作ってくれている。ステーブルコイン発行企業の準備金で米国債の需要を増やせば、債券金利の下落と政府の利子負担の軽減効果が発生するためだ。

 韓国を含む多くの国々は、通貨主権を守り金融競争力を確保するための悩みに陥っている。ドルステーブルコインの国内拡散を防ぐべきか、それとも自国通貨のデジタル化を通じて相手にするかなど、さまざまな解決策が提示されている。トランプ政権の暗号資産政策がグローバル金融秩序再編の触媒剤として作用する中で、各国がどのように対応するかによって未来の金融の方向性が再編される見通しだ。

キム・ウェヒョン|ビーインクリプト東アジア編集長 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/economy/it/1216432.html韓国語原文入力:2025-09-02 11:48
訳J.S

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