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「中国製造2025」10年、ボールペンの芯から始め、先端産業内在化の成果へ

登録:2025-06-08 20:52 修正:2025-06-09 05:54
エコノミーインサイト_ Economy insight 
世界は今
「中国製造2025」を宣言してから10年で中国は先端産業分野で目覚ましい跳躍を遂げた。2025年4月、中国上海で開かれたモーターショーで、観客が中国の電気自動車メーカー「比亜迪」(BYD)の展示空間を見て回っている。/REUTERS

 2025年は「中国製造2025」の最終年であり、中国の5カ年経済発展戦略である第14次5カ年規画(2021~2025)が終わる年だ。中国国務院は2015年5月、「中国製造2025」を公に宣言した。中国製造業アップグレードの青写真であるこの戦略は「製造大国」中国を「製造強国」に変貌させることが骨子だ。

 製造強国に跳躍するというこの野心に充ちた国家戦略は、実は「ボールペンの芯事件」をきっかけに火がついた。「空母も作り宇宙船も打ち上げる中国が、なぜボールペンの芯一つ作れないのか」。当時の首相である李克強は2016年1月、石炭・鉄鋼産業座談会で、世界鉄鋼大国である中国がボールペンの芯に使われる0.5ミリのステンレス鋼ボールすら自主生産できないと嘆いた。

 鉄鋼は供給過剰であるにもかかわらず、中国はボールペンの芯自体の生産技術がなく、毎年ボールペンの芯用のステンレス鋼線を輸入しなければならなかった。李首相が投げかけたこの質問は、中国全域に大きな衝撃を与え、「ボールペン芯の屈辱」とまで言われた。

■大きいが強くなかった中国の製造業

 当時、中国は3千のボールペン製造企業が毎年400億本のボールペンを生産し、全世界の供給量の80%を占めていた。しかし、重要技術であるボールペンの芯の90%は輸入した。ボールペン1本の平均輸出単価は0.03ドルだったが、米国の有名メーカーはこのボールペンを10ドル以上の価格で販売した。「メイド・イン・チャイナ」(Made in China)製品を生産すればするほど、儲かるのは中国企業ではなく技術と知的財産権を持つ外国企業だった。

 李首相の叱責後、中国鉄鋼業界は総力体制でボールペン芯の開発に取り組み、ついに100%中国製のボールペンの発売に成功した。この象徴的な事例は「大きいが強くない」(大而不強)という中国製造業の現実、すなわち脆弱な基礎技術力を露呈させ、「技術自立」という国家次元の危機意識を呼び起こした。

 中国政府は製造強国になるため、3段階の戦略を打ち出した。第1段階は2025年までに重要素材・部品の70%を自給自足し、第2段階は2035年にドイツ・日本を追い抜き、第3段階は新中国建国100周年の2049年に合わせて米国を追い抜き、世界最強国になるという青写真だ。「中国製造2025」は第1段階に当たる。

 これは単なる産業振興策ではなく、製造強国を越えて先端技術強国に進むための戦略だ。ドイツの「インダストリー4.0」戦略をベンチマーキングした戦略で、技術自立と産業構造転換を目指す。このため、海洋工程装備およびハイテク船舶、航空宇宙、半導体・情報通信、エコカー、電力装備、先端鉄道、新素材、医療バイオおよびハイテク医療機器、農業機械、ロボットを10大戦略育成産業に選定し、重要技術の国産化率を2025年までに70%以上に引き上げる目標を立てた。

 10年が経った今、米・中の技術覇権構図の中で「中国製造2025」の成果は明確だ。造船業は中国が世界的な競争力を備えた分野に成長した。2024年に中国企業の船舶受注量は史上最大の記録を打ち立て、全世界の受注量の70%を占めた。

 電気自動車(EV)メーカーの比亜迪(BYD)は、2023年基準で世界での販売台数が300万台を超え、世界最大の自動車企業に跳躍した。エネルギー専門市場調査業者であるSNEリサーチによると、2023年基準で寧徳時代新能源科技(CATL)はグローバルバッテリー市場でシェア37%を占め、1位となった。

 スマートフォン分野では通信設備企業の華為技術(ファーウェイ)のOS「鴻蒙」(Harmony OS)が中国市場ですでに米国アップルの「iOS」を越えた。2025年1月、世界を驚かせたディープシークのコストパフォーマンス人工知能(AI)モデルは、中国新興テック企業の底力を見せつけた。このほか、ディスプレイ(BOE)、ドローン(DJI)をはじめ、高速鉄道、宇宙開発などの分野でも世界的な競争力を確保した。

 半導体分野も外せない。国際半導体装備材料協会(SEMI)によると、中国の半導体自給率は2014年の14%から2023年には23%に上昇し、2027年には27%に迫ると予想される。中芯国際集成電路製造(SMIC)、長江メモリーテクノロジー(YMTC)などが躍進しており、特にYMTCの製造設備の65%と半導体材料の85%は全て中国製だ。中国政府は2024年から3年間、3千億人民元(約6兆円)規模の半導体産業支援ファンドを造成し、強力な政策支援に乗り出した。

 「中国製造2025」は華麗な成果ばかりではない。半導体、高精度装備など重要部品の国外依存度は依然として高い。また、政府主導の投資で一部の産業では供給過剰と不良企業が出るなどの影響もある。それでも中国が国家主導の自立型技術エコシステム構築に速度を上げる点は明らかだ。巨大な内需市場と研究・開発投資、人材誘致戦略は今後中国がグローバル技術秩序により一層深く介入することを予告する。

 「中国製造2025」の推進に対する米国の懸念が急激に高まり、中国の技術崛起は米国が本格的に中国を牽制する導火線となった。ドナルド・トランプ大統領の第1期時代、米国はファーウェイ、中興通信(ZTE)など中国の技術企業を制裁し、半導体装備とソフトウェアの輸出を制限した。2018年から本格化した米中貿易戦争は、中国製の輸入品に高率関税を課すことで激化した。2025年現在、第2次トランプ政権は一層強化された対中国抑制政策を打ち出している。米国は先端技術の中国向け輸出を事実上遮断している。

■スマート製造2025

 2025年3月、中国の両会(全国人民代表大会と中国人民政治協商会議)で議論された内容を見ると、中国政府は米中デカップリング(脱同調化)の準備のために輸入品を自国製に代替し、産業内在化にさらに力を入れている。特に今回の両会のキーワードは「科学技術革新」だ。政府の業務報告資料によると、バイオ、量子技術、AI、第6世代移動通信(6G)などの投資を拡大し、製造業のスマートデジタル転換を推進している。中国の国家戦略によって、スマートロボットも家庭や工場でますます普遍化している。

「中国製造2025」の推進に対する米国の懸念が急激に高まり、中国の技術力に向けた米国の牽制が本格化した。米中貿易戦争真っ最中だった2019年6月、ドナルド・トランプ米国大統領と習近平中国国家主席が日本で行われた「大阪G20サミット」を機に会って握手している/REUTERS

 このように中国は革新に重点を置いて「米国なき中国経済」の産業構造へと急速に転換している。米中関税戦争を契機に製造業も急速に国外に移転している。中国の立場としては、産業構造の転換は生存と直結した戦略だ。

 さらに中国は、「中国製造2025」の限界を克服し、2035年に世界最高水準のスマート製造強国に跳躍するための「スマート製造2025」戦略を推進している。 中国の製造強国建設戦略(2021~2035)の一環として技術自立とグローバル標準主導を強調する。

 特にAI、ビッグデータ、第5世代移動通信(5G)基盤の全面的なデジタル転換を図っている。すなわち、伝統的な製造業を自動化・デジタル化し知能化する段階的発展を推進することだ。AIとモノのインターネット(IoT)基盤のスマート工場の構築、デジタル産業団地の拡散、内需と輸出を合わせた複合製造エコシステムの造成が主な骨子だ。これは米国中心の技術ブロック化に対応する「内循環経済」との結合でさらに強化される見通しだ。

 「中国製造2025」は単純な産業政策ではなく、産業と技術の国家戦略化がどんな変化を呼び起こすことができるのかを示す事例だ。ボールペンの芯一つから始まった国家戦略が10年で全世界のサプライチェーンを再編し、技術覇権競争を触発し、中国主導の自主サプライチェーンと製造パラダイムを作っている。

 中国経済が急変する状況で、韓国の対中国事業も転換期に直面した。中国の輸出基地の役割はもはや有効ではなく、中国内需市場の開拓が重要なカギとなっている。相互補完的だった韓中経済関係は、今や競争要素がさらに大きくなっているのが現実だ。このような状況で、韓国企業は中国との協力と競争を並行しなければならない。巨大な中国内需市場に進出するための現地化戦略がますます重要になった。

 最近発表された日本の自動車企業と中国の情報技術(IT)企業の協力の事例は、これを克明に示している。トヨタは中国専用EVを生産するため、ファーウェイOSを搭載することにした。中国で自動車電動化の競争が激しい状況で、日本企業は中国の先端技術を吸収し、中国市場での生存を模索している。

■韓国の危機と機会

 脅威には機会が一緒に隠されているものだ。今後、中国は科学技術が急速に発展し、関連市場が爆発的に成長すると予想される。これに伴い、部品装備、素材など韓国製品の需要が発生するだろう。中国内のスマート製造装備、素材の需要が増加するだろうし、中国との協力を通じた第3国市場への共同進出も期待できる。例えば、東南アジアスマート工場の構築が一つの例になりうる。

 新しい秩序が形成される世界の情勢の中で、韓国企業が生存するためには、短期的な生存より中長期的な技術のリーダーシップ確保に集中しなければならない。中国と米国の交渉を綿密に点検し、新たに形成される市場の機会を鷹の目で探さなければならない。

 これからは韓国も質問しなければならない。「私たちは何を作り、誰と作り、どのように作るのか」。技術競争の問題を越え、私たちの生存と直結した問題に対して政府と企業が一つのチームになって長期ビジョンと戦略的リーダーシップを用意しなければならない絶体絶命の瞬間だ。

キム・ユンヒ|KOTRA青島貿易館館長 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/economy/economy_general/1201546.html韓国語原文入力:2025-06-07 10:53
訳J.S

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