「まさかと思っていたのに…本物の関税マン(Tariff Man)の本性を現しましたね」
貿易・通商政策を担当する韓国政府高官は2日、カナダやメキシコ、中国などに一斉に高率関税を賦課すると宣言したドナルド・トランプ米大統領の発表を見て、このように述べた。米国が関税の武器化政策の「牙」をむき出したことで、韓国政府と企業も非常事態になった。メキシコなどに進出した国内企業の生産に支障をきたすのはもちろん、グローバル貿易戦争に広がった場合、輸出依存度の高い韓国経済は直撃を受けかねないという懸念の声があがってる。
政府はこの日、トランプ大統領が署名した大統領令の内容と国内企業に及ぼす影響などに関する分析に着手した。産業通商資源部の関係者はハンギョレに「米国がカナダとメキシコに関税を賦課すれば、現地に投資をした韓国企業も全て影響を受けることになる」とし、「今回の措置がどれだけ続くか、そして米国の関税目標が他の国と品目まで拡大するかを緊張感を持って注視している」と語った。
直ちに足元に火がついたのは、メキシコを対米輸出迂回路として現地工場を大きく拡大した企業だ。第1次トランプ政権当時、米国の対中貿易制裁を避けるため、メキシコへの投資を大幅に増やしたが、再び関税の壁が立ちはだかることになったからだ。産業部の資料によると、メキシコに進出した韓国企業は製造業の大手企業を中心に525社(昨年上半期の投資実績基準)にのぼる。サムスン電子とLG電子の家電・テレビ工場、起亜の完成車工場などを中心に部品メーカーも現地に進出している。
各企業は独自の対応策作りに追われている。ある大型家電メーカーの関係者は「一度工場を移すことになると、生産ラインの構築、量産などまで1年以上かかる」とし、「生産地移転が有利なのか、それとも関税を課せられても従来の工場を引き続き稼動した方が良いのか、そろばんをはじいている」と話した。
サムスン電子は、メキシコ(ケレタロ)工場で生産する乾燥機の生産量を、米ニューベリー郡の洗濯機工場などに移す案を検討している。LG電子も米テネシー州にある洗濯機工場の遊休敷地を活用し、現地生産を拡大する案を模索しており、起亜はメキシコの工場で生産して米国に輸出する準中型乗用車K4などの一部をカナダに回す案などを考慮している。
カナダの場合、メキシコに比べて現地に進出した韓国企業は少ないが、バッテリーメーカーを中心に主な鉱物・材料のサプライチェーンを確保するための投資が行われた状態だ。一例として、LGエナジーソリューションはカナダ政府の大々的な支援を受け、北米地域攻略のためのバッテリー合弁工場を建設した。
問題は、米国の超強硬関税政策が全方位に拡散し、主要国が報復に乗り出すなど、グローバル貿易戦争に火がつく恐れもあることだ。カナダなどは米国の関税賦課に対抗して報復関税の賦課など対抗に乗り出した。さらに、米国の関税攻撃がこれで終わりではない点も懸念を高めている。米政府は過去に結んだ貿易協定や輸出統制制度、各国の為替政策などを4月1日までに総合的に検討し、追加措置を取ると予告した。この日の発表は、トランプ大統領の貿易戦略の序曲に過ぎないという意味だ。このような脈絡から、韓米自由貿易協定(FTA)の効果を十分に享受してきた「韓国製」の対米輸出品の運命は2カ月後に判明するものとみられる。
むろん、米国の最終措置が、先の大統領選挙の過程で提示した公約より弱まる可能性もある。米国が高率の関税を押し付けた場合、米国の消費者から背を向けられる可能性が高いからだ。一例としてテレビ、メモリー半導体などは米国現地の生産施設が事実上ないため、関税を賦課すれば輸入品の価格も跳ね上がることになる。また、鋭く交錯する米国産業間の利害関係も米政府が考慮しなければならない事案だ。鉄鋼輸入品に対する高率関税は米国の鉄鋼業には役立つが、鉄鋼を活用する自動車・造船・建設業にとっては不利になる。
韓国の1月の輸出は前年に比べて10.3%減少した。輸出が減少傾向に転じたのは1年4カ月ぶり。関税戦争が本格化する前に、すでに輸出が不安なスタートを切っている。