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サムスン電子がHBMの好況に備えられない理由

登録:2024-07-06 04:55 修正:2024-07-06 09:29
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米国の半導体企業エヌビディアの年次開発者カンファレンス「GTC 2024」が開催された3月18日、米国カリフォルニア州サンノゼ・コンベンション・センターに設けられた展示館で、サムスン電子が業界で初めて開発した「HBM3E 12H」の実物を公開した。現時点ではSKハイニックスがエヌビディアに独占的にHBMを納品している/聯合ニュース

 1993年6月7日、サムスングループのイ・ゴンヒ会長は、中心的な役員200人あまりをドイツのフランクフルトに集めた。フランクフルトのケンピンスキー・ホテルに役員陣を集めたイ・ゴンヒ会長は、「妻と子ども以外はすべて変えろ」と言い、「新経営」を宣言した。イ・ゴンヒ会長はそれから68日間、200人あまりの役員たちと欧州、米国、日本の世界一流の現場を訪ね歩いた。世界最高の自動車を作るドイツのフォルクスワーゲンの工場、世界最高の飛行機を作るフランスのエアバスの工場、世界一のデパートなど、一流と評価される場所であれば、業種を選ばなかった。

 一流企業になろうとするのであれば、量ではなく質を中心に変わらなければならないというその日の宣言は、「フランクフルト宣言」と呼ばれ、サムスングループが一流企業に成長するきっかけとなった。そのころ、すでにサムスンはDRAM市場で世界1位になっており、好況を享受していた。しかし、相変わらず先進市場では、サムスン製品はライバル企業に比べると格下の取り扱いを受けていた。適当にうまくこなしていくだけでは一流になれないという危機意識が、イ・ゴンヒ会長を焦らせた。不良品が出れば即座に生産ラインの稼動を中断させるラインストップ制度、携帯電話製品の不良率が高まると、不良品15万台を積み上げて火を付けた「不良製品火刑式」もこの時に行われた。

■容易ではない現実

 イ・ゴンヒ会長の新経営宣言31周年を迎え、サムスン電子のイ・ジェヨン現会長も米国出張に出かけた。イ・ゴンヒ会長が全世界を回ったように、2週間かけて米国全域で30件あまりの公式日程を随行員なしで進めた。新経営宣言の当時に比べると、サムスングループははるかに大きく立派な企業になったが、イ・ジェヨン会長の目前にある現実は容易なものではない。ユジン投資証券によると、サムスン電子の売上額は、2012年に200兆ウォン(約23兆3000億円)を突破した後、2023年までの11年間の年平均成長率は2.3%だった。ドルベースで換算すると1%に過ぎない惨憺たる成績表だ。

 もっと細かく見れば、問題はさらに深刻だ。サムスン電子のモバイル部門の売上額は、2013年のアップルの売上額の73%の水準だった。ところが2023年には22%の水準まで落ちた。アップルが100点ならサムスンは73点の水準だったが、22点の水準に落ちたというわけだ。

 非メモリー部門の売上額は、2011年は台湾のTSMCの88%の水準だったが、2023年には26%にまで落ちた。2019年にイ・ジェヨン会長は「非メモリー半導体ビジョン2030」を宣言した。2030年までに133兆ウォン(約15兆5000億円)を投資し、設計(ファブレス)や委託生産(ファウンドリ)などを総合した非メモリー半導体分野で1位になるという内容だった。しかし、4年が過ぎた現在、TSMCとの格差は狭まるどころかさらに広がった。台湾の市場調査業者「トレンドフォース」によると、2023年第4四半期の世界でのファウンドリ市場におけるTSMCのシェアは61.2%を記録した。サムスン電子のシェアは11.3%で、両者の格差は49.9ポイントだ。非メモリー半導体ビジョンを宣言した2019年時点のTSMCのシェアは51.8%、サムスン電子は18.5%で、格差は33.3ポイントだった。

 さらに深刻な問題は、サムスン電子の「本陣」と言えるメモリー半導体だ。サムスン電子はDRAM、NANDフラッシュなどのメモリー分野では不動の1位だ。1993年に初めて世界のDRAM市場で1位になって以来、一寸の疑いもなく1位だった。しかし、サムスン電子は人工知能(AI)半導体に用いられる高帯域幅メモリー(HBM)の生産で苦戦している。HBMは、DRAMを8~12枚を積み、中間に4000個ほどの移動通路(TSV=シリコン貫通電極)をあけて作った高性能メモリーだ。

 AI演算は大規模なデータを高速で処理しなければならない。データ処理速度の足を引っ張るのはメモリーだ。データを演算するグラフィック処理装置(GPU)は十分に速い。ところが、メモリーから演算装置にデータを伝達する速度が遅い。例えるならば、工場設備の組み立ての速度は速いが、部品供給が遅いため、生産速度が上がらないということだ。HBMはDRAMを積み上げ大容量を確保し、移動通路をいくつもあけて伝送速度を上げている。

 全世界のAI半導体市場で90%以上のシェアを持つエヌビディア(NVIDIA)のAI半導体には、SKハイニックスのHBMが用いられている。エヌビディアのGPUを買うために並ばなければならないように、HBMも供給不足状態だ。SKハイニックスのHBMは、すでに2025年度の生産分まで完売した。エヌビディアはSKハイニックス以外のHBMプロバイダを物色しており、候補は当然1位企業であるサムスン電子だ。

■サムスン電子、2019年にHBM組織を縮小

 しかし、サムスン電子は準備ができていない。サムスン電子は2019年にHBMの開発組織を縮小した。HBMは性能が優れているが高価だ。そのため、特にHBM市場が大きくなるとは考えなかった。後発走者であるSKハイニックスは、それでもHBMは頑張って売ろうと生産していたが、1位のサムスン電子は小さい市場に関心を持たなかった。ところが、AI半導体市場が突然拡大してHBMの需要が急増すると、SKハイニックスは文字通り大当たりとなった。HBM開発に投資しなかったサムスン電子は当惑するしかなかった。

 問題は時代の変化を読めなかった5年前の判断ではない。市場が確認されてから1年以上たっても、他でもないサムスン電子が一番得意とするDRAM分野で品質を完成させられなかったことが最大の問題だ。サムスン電子はすべてのライバルが恐れる動きの速い追撃者だった。アップルがiPhoneを世に出したとき、最初はOMNIAのように不十分な製品であってもすぐに発売して対応し、最終的にはギャラクシーシリーズで世界出荷数1位を勝ち取った企業がサムスン電子だ。

エヌビディアのジェンスン・フアンCEOは2024年6月4日、台北で「サムスン電子のHBM半導体が搭載されるだろう」と述べたが、これは「頑張って品質テストを通過しろ」という屈辱的な意味が込められている/REUTERS

 動きの速い追撃者は偶然になれるものではない。どうなるのか分からない未来に備えるために、様々な先行技術を事前に十分に深く研究し、方向が決まれば誰よりも速く走っていかなければならない。HBMについては、サムスン電子にはそのような姿はみられない。

 先日、エヌビディアのジェンスン・フアン最高経営責任者(CEO)は、台北のグランドハイライホテルで開かれた記者懇談会で「サムスン電子はいかなる認証テストにも失敗したことがなく、HBM半導体が搭載されるだろう」と述べた。これに先立ちロイターは、サムスン電子のHBMがエヌビディアの品質テストで脱落したと報じた。サムスン電子は「順調に」進んでいると反論したが、市場はサムスン電子の能力を疑っている。そうしたなか、エヌビディアのCEOがテスト失敗説を否定したのだ。

 発言後、サムスン電子の株価は3%以上急騰した。ジェンスン・フアン氏の発言を冷静に聞いてみると、協力業者への「空世辞」に近い。フアン氏は「サムスン電子、SKハイニックス、マイクロンの3社すべてが、HBMをわれわれに提供するだろう」とし、「サムスンとの作業はうまく進んでいるが、忍耐心を持たなければならない」と付け加えた。

 エヌビディアの立場としては、SKハイニックスが独占的にHBMを納品する現在の構図は望ましくない。複数の企業からHBMを供給されてこそ、供給量を増やし価格も下げられる。フアン氏の発言は、サムスン電子のHBMの品質が納品可能なくらいに上がったということではなく、頑張って品質テストを通過しろという意味だ。屈辱的だ。

■パッケージングの問題なのか、DRAM設計問題なのか

 サムスン電子の半導体を総括するDS(デバイスソリューション)部門のトップが交替させられた。DRAM事業を総括して2017年にサムソンSDIに異動し、その後は実質的には経営の第一線から退いた“オールドボーイ”のチョン・ヨンヒョン副会長が復帰した。サムスン電子のHBMのどのような部分がエヌビディアの要求を満たせていないのかについては、はっきりとは分からない。DRAMを積み上げるパッケージングに問題があるという説があり、一部からは、HBMを構成するサムスン電子のDRAM自体の問題だという見方も出ている。

 半導体業界の関係者は「一部のパッケージングの問題であれば、改善にこれほどまで長くはかからない」として、「DRAMの設計そのものの問題であれば、思ったより改善が難しい可能性もある」と述べた。サムスン電子がDRAMをうまく作れないとはあまり信じられない。チョン・ヨンヒョン副会長は内部的に「DRAM設計の技術力を引き上げなければならない」と強調しているという。雰囲気は尋常ではない。

 サムスン電子の危機は、最も根幹となる技術力を蓄積するプロセスとエネルギーが消えたという事実に起因する。完璧ではないということをこっそり伏せていた安易さが積もり積もって、文化になってしまったのが問題だ。2024年第1四半期にサムスン電子は6兆6000億ウォン(約7700億円)の営業利益を計上し、完全にメモリーの春を迎えた。2024年のサムスン電子の実績は非常に良好だろう。しかし2、3年後には、狭められたり逆転されるかもしれない技術力の差が、サムスン電子を根幹から揺さぶるだろう。イ・ゴンヒ会長の新経営宣言の31年後、息子のイ・ジェヨン会長は父親と同じような動きをしている。表面的な行動をまねるのではなく、サムスン電子の現在に関する危機意識を明確に認知した動きになることを期待する。そうしなければならない。

クォン・スンウ|3PROTV取材チーム長 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/economy/economy_general/1147832.html韓国語原文入力:2024-07-05 12:02
訳M.S

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