韓国のある中小企業が、130兆ウォン(約13兆7000億円)の価値があるボリビアのリチウム租鉱権(他人の鉱区で鉱物を採掘できる権利)を取得したと発表した。リチウムは二次電池の製造に用いられる重要な鉱物で、電気自動車(EV)の生産増加によって、ここ2~3年間で価格が急騰している。一部メディアが先を争ってこの内容を報道し、会社の株価は急騰した。
ボリビア側はこれに対しすぐに強く否定した。事件はハプニングで終わると思われた。ところが、同企業は租鉱権の獲得は事実だと述べ、釈明を公示した。ボリビアのリチウム採堀権を保有し、この中小企業と租鉱権の取引を行ったという米国のエネルギー企業の会長の韓国メディアのインタビューまで加えた。投資家の間では、真実をめぐる攻防が繰り広げられた。その渦中に、同中小企業の大株主である代表は、資本市場法(資本市場および金融投資業に関する法律)違反の疑いで拘束された。
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租鉱権めぐる攻防にも、企業側は「だんまり」
130兆ウォンのリチウムの真実を最もよく知っている当事者が拘束され、この企業の電話はすべてつながらない状況だ。ボリビアの立場は現時点でも確固としている。安易に租鉱権獲得を報道したメディアは気まずい思いをしている。この1カ月ほどの間に市場で広がった「130兆ウォンのボリビアのリチウムミステリー」の真実は、一体何なのだろうか。
K-OTC(金融投資協会が開設した非上場株式取引プラットホーム)の上場企業であるインドン・アドバンスト・マテリアルズ(グラファイト放熱シート製造企業。以下、インドン)がリチウム租鉱権を取得したという資料を配布したのは、昨年11月末のことだ。ボリビアのウユニ塩砂漠地域のリチウム鉱業権(900万トン)を保有する米国企業グリーン・エネルギー・グローバル(以下、グリーンエネルギー)から121万5000トン(130兆ウォン相当)に対する租鉱権を取得したという内容だった。リチウム採掘のために両社は、現地に合弁会社を設立(グリーンエネルギー55%、インドン45%)したと明らかにした。当時、グリーンエネルギーのムハンマド・ガザンフェール・カーン会長は、二つの韓国メディアと行ったインタビューで、「来年(2023年)3月までに私たちが特許を保有するリチウム直接抽出装備を米国で完成し、輸送機で移送する」と述べ、「5月から実際の採掘に入るだろう」と自信を示した。
これについて、ボリビアリチウム公社と駐韓ボリビア大使館は、非常に速かに反応した。公社は「いかなる外国企業ともウユニ塩砂漠内のリチウム採堀権の譲渡契約を行ったことはない」とし、「韓米企業間のコンソーシアムが900万トンの採堀権を得たというのは虚偽」だとする立場を示した。
130兆ウォンのリチウム事件は終わるかのようにみえた。ところが、インドン側が分かるような分からないような釈明を公示し、疑問は膨らんでいった。会社の説明を引用し要約してみると、次のようになる。
「現行のボリビアの法律上では、リチウム採堀権は自国民の企業だけにある。ボリビアはこの法案を改正しようとしているところだ。米国のグリーン・エネルギー・グローバルは、ボリビアリチウム公社とウユニ地域の塩湖から『ミネラル』(蒸発性資源)を抽出することを契約した。塩水に含まれるミネラルは、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、リチウムなどがあるが、我が社の不注意により、リチウムという単語だけが浮上し、報道されてしまった。今後はリチウムという単語を使わず、ウユニ塩湖内の鉱物を通称する『ミネラル』を採掘すると用語を変更することにした」
読者がこの説明を理解できるかどうかは分からない。商業性のあるリチウムは、鉱山や塩湖から採掘する。鉱山の場合、花崗岩質のリシア輝石精鉱のリチウム含有量が高い。オーストラリア地域ではすべて鉱山採掘だという。一方、チリやアルゼンチンなどの南米地域では、塩湖からの採掘だ。巨大な池の施設のようなところで塩水を太陽光で蒸発させ、濃縮されたリチウムを得る。これを加工することで、EV用バッテリー素材に使用可能な炭酸リチウムや水酸化リチウムを得る手法だ。インドンの説明によると、米国のグリーンエネルギーは、ボリビアの塩砂漠地域の塩水から「ミネラル」を抽出する契約を締結し、そのミネラルにはリチウムが含まれているということだ。
アルゼンチンやチリの塩湖リチウムの採堀権を持っているグローバル企業も、塩水からリチウムを抽出する。違いはない。インドンの説明は、ボリビアの現行法では海外企業がリチウム採堀権を有することができないにも関わらず、グリーンエネルギーはリチウムを採掘する権利を確保したという話になる。つじつまが合わない。
ボリビアが現行法を改正するのであれば、改正後にグローバル企業を対象に採堀権を競争入札すればよい。その方がボリビアにとってはるかに有利だ。ところが、どのようにして大して知られてもいないグリーンエネルギーという企業に、900万トン級のリチウム採堀権が渡ったのだろうか。これは事実なのだろうか。
ボリビアは昨年、6社のグローバル企業を対象に、リチウム抽出技術の評価作業を実施したことが分かった。グリーンエネルギーは、直接抽出技術の特許を保有していると主張している。ところが、ボリビアに技術を提供するために競合中であるこの6社の企業リストには見当たらない。韓国の電子公示に相当する米国のEDGAR公示システムに登録されたグリーンエネルギーの資料を見てみると、一つの興味深い事実を発見できる。2人の名義の株主が株式を100%近く(それぞれ49.98%ずつ)保有している。そのうちの1人の姓が「Choi」であることから、韓国系または韓国人と推定される。残りの少数株主16人のうち7人が、やはり韓国人または韓国系とみられる。
ポスコホールディングスは、2018年にアルゼンチンのリチウム塩湖投資を開始し、5年後に生産施設工事を本格化した。工場だけで約1兆ウォン(約1100億円)が投資され、来年から2万5000トンの生産体制に入る予定だ。グリーンエネルギーとインドンの合弁会社であるインドン・ミネラル・ボリビアの出資金は、韓国ウォンに換算すると1億ウォン(約1100万円)にも満たないことがわかった。初期出資金が重要なのではない。採掘に投入する資金は能力が備わっていれば借りればいい。可能なのだろうか。
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真実は何か
インドンは、過去5年間に営業赤字と当期純損失を出した。10億ウォン(約1億1000万円)未満だった売上額は、2021年に42億ウォン(約4億4000万円)になった。昨年は第3四半期までの累積で、売上額は124億ウォン(約13億1000万円)、営業赤字は117億ウォン(約12億3000万円)だ。販管費が167億ウォン(約17億6000万円)に急激にはね上がったことからみて、管理費に特殊な要因があったものと推定される。昨年第3四半期末時点での流動資産は69億ウォン(約7億3000万円)であるにもかかわらず、流動負債が1611億ウォン(約170億円)にまで大幅に増加した。1年以内に返済が必要な負債が、現金化可能な資産より23倍も多い。非流動資産では無形資産が1337億ウォン(約141億円)に急増したことからみて、租鉱権のような事業権利を取得して負うことになった未支給金を、今年返済しなければないとみられる。資産の現金化は長期にわたり行われるものであるにもかかわらず、この資産のために返済しなければならない負債は短期だ。流動性に問題が生ずる余地があるということだ。インドンやFIC新素材、ユーロセルなど3つの系列会社の大株主であり、代表を務めるユ・ソンウン会長は、昨年末に拘束された。資本市場法上の不正取引に関する疑惑であることが分かった。ボリビアの130兆ウォンのリチウム事件は、現時点ではミステリーだ。しかし、真実が分かるまでには時間はそれほど長くかからないとみられる。