独自の配送システム「ロケット配送」で急速に成長してきた韓国ネット通販最大手のクーパンが、消費者の不買運動にさらされている。相次ぐ配送労働者の過労死や否定的な評判に、創業者の責任回避を狙ったと見られる登記役員の辞任決定や物流センターでの大規模火災が重なり、消費者の不信は限界を超えているとの評価を受けている。クーパン側は、火災の遺族に対する補償案を提示し、不買運動の鎮火に乗り出した。専門家は、クーパンの最も強力な意思決定者であるキム・ボムソク氏の韓国国内法人の登記役員の辞任は、権限は行使して責任は負わないという規制回避戦略だと口をそろえる。
クーパン不買運動の拡大
「企業が変われないのなら、消費者が変わって問題のある企業を消費しないことが正しい」。火災発生から3日目の19日、SNSで始まった「クーパン不買・脱退」の動きが、2日連続で急速に広がっている。「#クーパン脱退」「#クーパン不買」などのハッシュタグとともに、クーパン会員脱退画面をキャプチャーした「証明写真」をアップする消費者が増えている。パソコンやモバイルなどのプラットフォームごとの会員脱退方法を解説した書き込みも、ネット上に次々と登場している。前日にはツイッターで「クーパン脱退」が「大韓民国リアルタイムトレンド」で1位となり、ネイバーなどの検索ポータルでは「クーパン会員」という検索語に「脱退」がオートコンプリート検索語として登場した。「検索ワード・オートコンプリート機能」は、類似キーワードの入力が増えれば人工知能(AI)が検索ワードを自動で推薦するサービスだ。それだけ「クーパン会員脱退」をキーワードにした検索が急増していることを意味する。
クーパン側は、創業者のキム・ボムソク氏とカン・ハンスン代表取締役らが前日の物流工場火災で殉職した京畿道広州消防署所属のキム・ドンシク救助隊長(52)の葬儀を訪れたのに続き、20日には「故キム・ドンシク消防領(消防官の階級)のご遺族が一生心配なく生活できるよう、可能なあらゆる支援を行う」という説明とともに、遺族支援策と奨学基金造成案を示し、不買・脱退運動拡大の鎮火に苦心している。
反発の火に油を注いだキム・ボムソクの動き
不買・脱退の動きの広がりには、創業者キム・ボムソク氏の最近の動きが影響を及ぼしている。火災発生当日の17日、クーパンはキム・ボムソク氏がグローバル経営に専念するため、登記役員から退くことを明らかにしている。キム氏は、クーパンの親会社で米国に所在するクーパンIncの代表取締役と取締役会議長のみを務めることにし、韓国のクーパン経営陣からは退いた。
決定が下されたのは今月11日だとクーパン側は説明するが、キム・ボムソク氏のこのような動きは、国内の事業所で問われているか、または今後に問われ得る法的責任を回避するためのものと解釈されている。キム氏は昨年も、クーパン配送労働者の相次ぐ過労死問題を扱うための国会国政監査で証人を要請されたが出席せず、同年末に国内法人の代表取締役を辞めた前歴がある。
一部からは、来年1月に施行される重大災害処罰法を念頭に置いた動きではないかとの見方も出ている。同法には、一定規模以上の事業所で死亡事故などの重大災害が発生した場合は、その企業の最高経営陣に責任を問うとする内容が含まれている。来年も配送労働者の過労死事件などが再発した場合、刑事処罰を受ける余地をキム・ボムソク氏が事前に遮断したのではないかということだ。クーパンでは昨年だけで9人の配送労働者が過労死の疑われる死を遂げている。実際に、クーパンは今年初頭、米国証券取引委員会(SEC)に提出した証券届出書にも、重大災害企業処罰法の施行を企業経営の主要リスクの一つにあげている。
「積極的な規制回避」
専門家たちは、キム・ボムソク氏のこのような動きはよくある行為だとみている。漢陽大学のイ・チャンミン教授(経営学)は「キム・ボムソク氏の国内法人の職責辞任は、権限行使と責任を分離する積極的な規制回避と判断される」とし「国内の財閥企業によくみられる逸脱行為」と指摘した。
実際に国内では、経営に強力な影響力を行使しつつも、経営上の法的責任を免れるため登記役員を担わないオーナー一家が少なくない。もちろん現行の商法は、未登記役員であっても「業務執行指示者」(事実上の取締役)とみなして責任を問える条項があるが、現実においては積極的に用いられて処罰が行われることはまれだ。今年5月に企業分析専門機関の韓国CXOが64の企業集団を含む国内の200大グループを調査した結果によると、オーナークラスの支配的株主200人のうち、上場企業の登記役員でないケースは54人にのぼる。
一方、公正取引委員会は今年4月、キム・ボムソク氏が米国国籍者であるため、公正取引法上の刑事制裁が難しいなどの理由をあげて、クーパンの総帥(同一人)に指定していない。