韓国政府が先端産業の世界工場誘致および素材・部品・装備(素部装)の強国跳躍のための「素部装2.0戦略」を発表した。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的な大流行)による各国の隔離・封鎖や米中貿易紛争、日本の輸出規制などで、既存のグローバルサプライチェーン(GVC・バリューチェーン)構造が解体される中、日本や中国など既存のサプライチェーンへの依存度を減らし、外部の衝撃に動揺しない素部装の国内生産網を構築するという意味が込められている。
■どのような内容か
9日、産業通商資源部、企画財政部、中小ベンチャー企業部などが発表した「素部装2.0戦略」によると、サプライチェーンに重点を置く政策管理対象が、従来の対日本100品目から次世代技術を含む対世界「338+α」品目に拡大される。半導体など先端型158品目と自動車、電子電気など汎用型180品目以外に、ディスプレイ、二次電池、ロボットなどが対象だ。グローバルレベルの供給安定性と産業安保などに及ぼす影響を考慮して追加で選定した238品目のサプライチェーン管理地域を見ると、中国が90品目、米国・欧州が91品目、インド・台湾・ASEANが57品目。
政府は2022年までに次世代戦略技術の開発と確保に5兆ウォン(約4500億円)以上を優先的に集中投資し、未来自動車、半導体、バイオなどビッグ3産業に2兆ウォン(約1800億円)規模の追加投資に乗り出すことにした。また、今年下半期に素部装ベンチャーファンドを1100億ウォン(約98億5千万円)規模で造成し、素部装先導企業に重点投資し、800億ウォン(約72億円)規模の次世代産業技術政策ファンドも造成する。政府は先端産業の誘致と企業のUターンに必要な補助金やインフラ構築にも、今後5年間で1兆5千億ウォン(約1344億円)の財政を投入することにした。
今回選定された338品目の国内の生産基盤および生態系強化のため、政府は投資税額控除を改編する際、次世代の主要な戦略技術に「新成長・源泉技術研究開発(R&D)」税額控除項目を追加し、先端分野の投資に対する法人税税額控除率を大企業・中堅企業(現行20%)および中小企業(30%)に最大10%まで増やすことにした。また、海外に進出している先端企業を復帰させるためにUターン補助金を新設し、立地・設備だけでなく移転費用も含め、非首都圏のUターン企業に対する支援比率と限度を100億ウォンから300億ウォンに引き上げることにした。Uターン補助金の場合、最小常時雇用要件(20人以上)を廃止し、Uターン企業の申請期限も国外事業所の縮小完了日から2年(現行1年)に、国内工場の新増設期限も選定日から5年(現行3年)に緩和する。
文在寅(ムン・ジェイン)大統領はこの日、京畿道利川(イチョン)のSKハイニックス半導体工場で開かれた素部装2.0戦略と関連した「連帯と協力協約式」で「日本の不当な輸出規制措置が1年間続いているが、生産には1件の支障もなく危機をうまく克服した」とし、「大韓民国はグローバル先端素材・部品・装備大国に跳躍していき、グローバルサプライチェーンの安定に貢献し、国際社会と協力していく」と述べた。
■なぜ出たのか
グローバルサプライチェーンとは、最終材の生産に必要な部品・素材などの中間材が1つ以上の国境を越えて供給されるバリューチェーンをいう。貿易規模から見て、昨年基準の韓国のグローバルサプライチェーンの依存度は55%(貿易協会資料)。日本(45%)や米国(44%)はもとより、フランス(53%)やドイツ(51%)に比べても、グローバルサプライチェーン体制により深く組み込まれていることになる。韓国の総輸出額のうち、素材・部品・装備などの中間財の輸出が占める割合も2001年の646億ドルから2018年には3409億ドル(71.4%)に急増した。
しかし、貿易紛争の深刻化と保護貿易主義の威勢のほかにも、COVID-19事態は、既存のグローバルサプライチェーンの構造に隠れていた脆弱性と危険性をあらわにさせた。特定国家と地域に部品の供給を依存してきた限界が明らかになり、各国が先端製造業の生産拠点を自国に誘致し、復帰(リショアリング)させる流れが強まっているのはこのような背景からだ。低賃金・効率性に重点が置かれていた従来のグローバル分業生産体制は、多少費用が増えてもサプライチェーンの多角化と安定的生産を可能にするローカル拠点のバリューチェーン(RVC)に衣替えしつつある。
■どれくらいの期待効果を生むか
カギは、どれだけの成果を出すかだ。政府は「素部装2.0戦略」が現実化すれば、2030年に「フォーブス」が選ぶ2000大企業のうち、韓国の素部装代表企業が30社(現在11社)に増え、先進国比技術水準が90%(現在80.6%)に強化され、韓国の素部装企業がグローバルサプライチェーンをリードすることができるようになると見通した。また、2030年には製造業の自給率が80%(現在72.3%)に高まり、主要新産業分野(半導体・ディスプレイ・二次電池)の自給率も60%(現在46.9%)に高まり、揺るぎないサプライチェーンを構築できるという展望を示した。素部装製品の輸出(現在年間3409億ドル)も2030年には6202億ドルと大幅に増え、生産(付加価値額)も現在の819兆ウォン(約73兆円)から1112兆ウォン(約100兆円・2030年)に増えるというのが政府の判断だ。産業部のソン・ユンモ長官は「過去1年間、素部装1.0戦略を通じて日本製品に依存した『鵜飼い経済』を素部装の『ペリカン経済』に十分変えていける可能性と潜在力を確認した」とし、「今回の素部装2.0戦略で、韓国が先端産業の世界工場としての出発点になるようにしたい」と述べた。
補完しなければならない部分もある。チョン・ウンミ産業研究院成長動力産業研究本部長は「主力産業の競争力だけでなく、素部装産業自体の競争力を高め、グローバル市場に参入させようとする方向は正しい」としながらも「国産化だけに重点を置くよりは、技術力を高めて作った素部装製品を海外の需要企業の生産基地と連携して販売する戦略も必要だ」と述べた。