米国の脱退で環太平洋経済パートナーシップ協定(TPP)が危機に陥った状況で、韓国がこれまでに結んだアジア・太平洋地域国家との2国間自由貿易協定(FTA)を大幅に拡大する東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の公式交渉が開かれている。韓国政府が「妥結直前レベルのかなりの進展」を目標に掲げる中、各国市民社会団体は「農業や医薬品、環境など、国民に大きな影響を及ぼす各分野にわたり、市民社会の意見が交渉に反映されるべき」と主張している。
ベトナムなどASEAN10カ国と韓国や中国、日本、インド、オーストラリア、ニュージーランドなど、合わせて16カ国が参加するRCEP第20回交渉が、今月24~28日、仁川(インチョン)松島(ソンド)コンベンシアで開かれる。一部の交渉分科はすでに17日から実務級の交渉に入った。同協定は多国が参加する「メガ自由貿易協定」で、2013年5月に初交渉が始まって以来、19回にわたる公式交渉が行われた。16カ国はこれまで2回にわたり商品やサービス品目別の関税撤廃・削減日程を盛り込んだ譲許案を提出するなど、実質的な市場アプローチのための交渉を進めてきた。韓国は16カ国の中で日本を除いた15カ国と2国間自由貿易協定を既に締結している。RCEPは、韓国がすでにFTAを締結した国に対し、商品やサービス・投資など各分野においてさらに大幅の追加開放や貿易自由化を図る効果を持つ。
今回の交渉の主催国である韓国政府の通商当局者は「今回、商品やサービス、投資、原産地、知識財産権など協定全般にわたり『かなりの成果を導き出す』ことを目標に推進している」としたうえで、「各国がすでに提示した譲許案のレベルをさらに高め、市場開放の範囲・基準についての核心争点の妥結を模索する」と明らかにした。16カ国すべてに適用される共通譲許案の折衝に乗り出すなど、「積極的な調整者の役割を務め」、速やかな妥結を推進するということだ。特に、今月11月に行われる「ASEAN+3カ国首脳会談」の前に、かなりの進展を見るのが韓国政府の目標だ。市場開放をめぐる各国別争点の妥結が一定のレベルに達すれば、直ちに16カ国全体の合意案を作り、細部内容は後でアップグレードしていくことで、協定妥結の加速化に総力を傾ける方針だ。
協定は合わせて18のチャプターで構成される見通しだが、知識財産権や衛生検疫、政府調達など、貿易の規範分野ではすでに2つのチャプターが妥結された。商品市場の追加開放はすべての参加国に適用される「共通譲許」を原則とする。政府当局者は「商品は全品目の90%以上を関税譲許する高い水準の開放を、サービス市場にはポジティブ開放方式を採択することで、従来に結んだ2国間FTAに比べて追加開放の効果が予想されており、100以上の品目のサービス開放の妥結を目標としている」と話した。しかし、現在韓国は農産物、中国は工業製品が「敏感品目」の一つであり、日本は大幅な開放を要請している一方、インドは低いレベルの開放を要求している。
同協定は、米国の脱退で推進力が大きく低下したTPPと同じく、アジア・太平洋地域を対象とする多国間自由貿易協定だ。妥結速度をめぐり両協定が競争関係にあったが、米国が脱退したことで、RCEPが相対的に加速化している。通商当局の関係者は「トランプ大統領が通商貿易秩序で2国間主義に転じたことで、これに対抗する巨大な多国間協定としてRCEPの意味が大きくなっている」としたうえで、「今回妥結を主導すれば、世界通商体制で韓国の地位が一層高まるだろう」と話した。
しかし、市民社会の声は反映されていないという批判の声もあがっている。民主社会のための弁護士会など、アジア・太平洋域の55の国際市民社会団体は最近、声明を発表し、「16カ国の国民に影響を及ぼす医薬品や農業、環境など各作業分科に市民社会の主張が反映されるよう、意見交換の場を設けるべきだ」と求めた。同団体に参加するナム・ヒソプ弁理士は「韓国が米国にかなり譲歩した過去の韓米自由貿易協定をモデルにし、韓国通商当局が今回の交渉で米国に奪われていた譲歩案をそのまま提示し、相手国の開放を引き出す戦略を取っているものとみられる」と話した。政府が「韓米自由貿易協定」よりも拡張された開放戦略で交渉に臨んでいるという批判だ。