太陽系で最も小さな惑星である水星が、これまで知られていたよりもはるかに大幅に縮小していたという研究結果が発表された。これまで、水星表面に残る地殻変動の痕跡が実際よりも少なく確認されていたため、水星がどれほど縮小したかが過小評価されていた。現在、水星の平均直径は4880キロメートルで、地球の3分の1ほどにあたる。
日本の北海道大学と東京大学、ドイツ航空宇宙センター(DLR)からなる共同研究チームは、水星表面の「粗さ」を新たに分析した結果、水星の半径の収縮量が従来の推定値より最大30%大きいことが分かったと、国際学術誌『地球物理学研究レターズ(Geophysical Research Letters)』に発表した。
約45億年前の太陽系形成当時、水星は表面温度が数千度に達する非常に高温の惑星だった。しかし、金属核が冷えるにつれて、体積が縮小し始めた。ブドウが水分を失ってレーズンになるように、内部が冷却されるにつれて、表面には切り立った崖や尾根のようなしわ状の地形が生じた。これを収縮構造と呼ぶ。この収縮構造を把握すれば、水星がこれまでにどれほど縮小したかが分かる。これまでに出された推定値は少ないもので1~2キロメートル、多いもので7キロメートルとばらつきが大きい。
研究チームは、水星の内部は比較的均一に冷却されているにもかかわらず、表面のしわの分布にばらつきがあることを発見した。ある地域では長く輪郭のはっきりした崖状の地形が密集している一方、別の地域では地殻変動の痕跡がほとんどみられなかった。研究チームは、小惑星の衝突によって生じたクレーターや破片が地殻変動の痕跡を覆い隠してしまったためだとする仮説を立てた。
■「金属核がより大きかったか、初期温度がより高かった可能性がある」
研究チームは、この仮説を検証するため、水星の表面全体の粗さ(凹凸の程度)の地図と既存の地質地図を比較した。その結果、表面が粗い地域ほど収縮構造が少ないことを確認した。
比較的最近形成された大型の衝突クレーターでは、この特徴がより顕著にみられた。衝突後、地表の物質が周囲に飛び散り、噴出物が古い地表を覆い隠してしまったためだ。また、衝突クレーターに近いほど収縮構造が少なくみられる現象も目立った。研究チームは、これも衝突後に噴出した物質に埋もれたためだと考えた。
研究チームがこうした点を考慮して計算した結果、水星の半径は当初より最小で6.9キロメートル、最大で11.6キロメートル縮小したと推定された。直径では14~23キロメートル縮小したことになる。分析対象とする地形によって、収縮量は10~30%過小評価されていたと推定された。
研究チームは「水星の収縮幅が従来の推定よりも大きいことは、水星の金属核が予想よりも大きいか、金属核に軽い元素があまり混ざっていないか、あるいは初期温度が高かった可能性を示している」と明らかにした。
■11月、ベピコロンボが水星に到着…精密観測を予定
研究チームは、修正後の数値も過小評価されている可能性があると考えている。今回の推定値は、2015年に任務を終えた米航空宇宙局(NASA)の探査機「メッセンジャー」が収集したデータに基づいているが、メッセンジャーは解像度が低く、5キロメートル以上の大きな地形しか識別できなかったためだ。解像度が低いほど、収縮構造の高さが実際よりも低く測定される傾向がある。
研究チームは、欧州宇宙機関(ESA)と宇宙航空研究開発機構(JAXA)による共同水星探査機「ベピコロンボ」が水星軌道に到達すれば、搭載されたレーザー高度計(BELA)を用いて、100メートル程度というはるかに高い解像度で表面の粗さを測定できると期待している。2018年に地球を出発したベピコロンボは、地球、金星、水星の重力を利用した軌道を飛行し、11月21日に水星軌道に投入される。
研究チームは、今回適用した分析手法が、月の収縮速度をより精密に測定するのにも役立つと見込んでいる。月の高地における表面の粗さは水星よりも約40%高いため、月の収縮構造もまた、表面の粗さに隠れて過小評価されていた可能性があるという。
*論文情報
Underestimation of Planetary Contraction Due To Obscuration by Surface Roughness: The Case of Mercury.
doi.org/10.1029/2026GL124067