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「乳酸菌の力と文化の味」…キムチ、「発酵の韓流」を率いる

登録:2025-10-25 16:06 修正:2025-10-26 08:07
キムジャンの季節に探るキムチの過去・現在・未来 
 
「薬材」として初めて登場した白菜、「発酵食品」に発展 
白菜キムチだけで33種…カラシナ・ヒメニラなど材料は様々 
「塩漬け→調味料で2次発酵」世界で唯一 
 
1gあたりに10億個の乳酸菌…腸の健康などに効果 
フランス、米国、ブラジルなど「キムチの日」制定 
韓国内では消費減少、「ソウルフード」の地位揺らぐ
昨年11月に開かれた平昌高冷地キムジャン祭りで、自分で作ったキムチを手にした子どもたち。忘れられない思い出づくりとともにキムチに親しむきっかけとなる=平昌高冷地キムジャン祭り委員会提供//ハンギョレ新聞社

 「もしもキムチがなかったら、何でご飯を食べるのか…キムチがなきゃ生きていけない、私は生きていけない…」

 毎年キムジャン(冬に備えてキムチを大量に漬けこむ風習)の季節が近づくと、ラジオから流れてくるチョン・グァンテさんの「キムチ主題歌」の一節。この歌は1985年に発表された。家庭ごとに100株以上の白菜でキムジャンをした1970~1980年代が終わりゆく頃に誕生した歌だ。当時はキムジャンは3~4カ月に及ぶ長い冬の食を保存する最も重要な行事だった。キムチはキムチそのものだけでなく、チゲ(鍋もの)やスープ、蒸しものなど多様な料理に使われ、冬の食卓を豊かにした。

 キムチは味だけでなく豊富な栄養素と発酵の過程で発生する多くの乳酸菌で、健康の維持にも良い食品だ。「キムチがなきゃ生きていけない」という歌詞はうわべだけの言葉ではない。では、韓国ではいつからキムチを食べるようになったのだろうか。

 食べ物は地形や自然環境、文化、経済状況など様々な要素が長い間結びついて発展する。キムチも同様だ。韓国のキムチの種類は187種ほどだという。白菜だけでなく、大根をはじめ若大根、ヒメニラ、セリ、からし菜、キュウリ、ナスなど材料も数十種類。キムチの代名詞になった白菜キムチだけでも33種類もある。

 キムチの主材料である白菜は、地中海沿岸の雑草性アブラナを起源とする。このアブラナが2000年前に中国に伝播された後、7世紀頃に中国北部で栽培されていたカブと自然に異種交配し、原始型の白菜ができた。韓国の歴史で白菜が初めて登場したのは、高麗の高宗の時代に編纂された医学書である「郷薬救急方」だ。白菜はビタミンC、ビタミンK、カリウム、カルシウムなどの栄養素が豊富で、食用よりはかぜや咳の緩和に使われる薬剤として先に活用されていた。

 白菜がキムチの材料として記録されたのは、朝鮮時代の御医(王付きの医師)全循義(チョン・スニ)が1450年頃に書いた「山家要録」に登場する「白菜水キムチ」が最初だ。民族固有の発酵法と多様な調味料を活用したキムチの作り方が本格的に登場したのは、1882年の壬午軍乱当時、中国人が白菜の種子を持ち込んでからだ。白菜は品種が改良され、開城(ケソン)とソウル地域で本格的に栽培され始め、全国に広がった。しかし、キムチの主材料はその頃はまだ大根だった。胡白菜(中国由来の白菜)は生育期間が長く、災害や病虫に弱かったためだ。

 現在のキムチは、ウ・ジャンチュン博士が白菜とキャベツを異種交配させ、中身までしっかり詰まった結球白菜である「園芸1号」と「2号」を開発してからの形だ。改良した結球白菜の種子は民間の種苗会社に普及した。生育期間が短く中身が詰まっていておいしい結球白菜は商業性が高かった。種苗会社の競争は多様な品種の結球白菜の改良につながり、生産量が増え、キムチの主材料として使われるようになった。

 キムチは、あらゆる野菜を夏には腐らないように保管し、野菜が採れない冬にも食べられるように長い間漬け込んだ野菜の漬物を経て誕生した、民族固有の食品だ。漬物の作り方は、塩だけを使う「原始漬け」、意図的に発酵を発生させる「発酵漬け」、そして世界で唯一、動物性調味料を添加して塩味と酸味の他に「うまみ」を追求する「加味発酵漬け」、加味発酵に唐辛子やニンニク、大根、生姜などいろいろな調味料を追加して複合発酵を発生させる「加味複合発酵漬け」などに区分される(パク・チェリン、「韓国式生活文化学会誌」、2021)。

 世界の野菜漬けの発酵食品のうち、キムチだけが加味複合発酵漬けの過程を経る食品だ。野菜を塩漬けにしてすぐに食べたり、煮て2次発酵を経て食べる中国のパオチャイや、塩漬けした白菜に乳酸菌を混ぜて食べるドイツのザワークラウトなどとのキムチの差別性は、発酵過程の違いから出てくる。

 キムチは塩に漬けて1次発酵を経た白菜に唐辛子の粉、ニンニク、ショウガ、ネギなどの薬味(ヤンニョム)を入れて2次発酵する、世界で唯一の食品だ。エビ、カタクチイワシの魚醤をはじめ、さまざまな動物性原料を薬味に加える点も、世界の発酵野菜料理とは異なるキムチならではの特徴だ。

 キムチの発酵は酵母ではなく乳酸菌によるものだという点でも違いがある。最適な発酵状態のキムチ1グラムには1億~10億個の乳酸菌が発見されるという研究結果(朝鮮大食品栄養学科キムチ研究センターのチャン・ヘチュン教授)があるほど、キムチは乳酸菌の宝庫だ。約30種にのぼる乳酸菌は、キムチの味を決め、体に良い菌も生成するのだが、発行する過程でその数が増え、酸っぱくなる過程でその数は減る。よく漬けこまれたキムチは、文字通り乳酸菌の宝庫である健康食品であるわけだ。

 キムチの発酵に関与する主な乳酸菌は、ロイコノストック、ラクトバチルス、ワイセラなどに属する乳酸菌だ。ロイコノストックは白菜や大根のブドウ糖を便秘予防に役立つ食物繊維であるデキストリンに変える。腸内の酸度を調節し、有害菌の成長を抑制するラクトバチルスは、障壁強化と炎症減少の機能があり、消化器疾患や免疫力強化に役立つと知られている。

 キムチの味を決め保管性を高めるのにも乳酸菌が作用する。乳酸菌は発酵の過程でキムチ特有のさっぱりした味を出す成分と共に、抗菌物質である有機酸・バクテリオシンのような抗菌物質を生成し、キムチを長期間保存できるようにする。

 キムチの乳酸菌と薬味は栄養の宝庫であり、健康を守る番人の役割を十分に果たす。世界キムチ研究所が2023年に発行した報告書「私たちのキムチを正しく」によると、キムチにはさまざまな健康機能性があるという。

 キムチの健康機能性は、感染症に対する抵抗性とも関連がある。以前SARSやMERSが流行した時、特に韓国が感染症に強い理由は、毎度の食事ごとに食べるキムチの機能性のためだという噂が流れたりもした。フランスのモンペリエ大学のジャン・ブスケチームが世界キムチ研究所と共に行なった研究で、この噂が事実だという点を明らかにし、話題になった。研究チームは、キムチの原料の抗酸化成分が人体の活性酸素を除去して炎症反応を緩和しうるという点を挙げ、新型コロナウイルス感染症の重症化と死亡率を下げうるという結果を発表した。

 韓流の成長とともにキムチも羽ばたき、韓国の発酵食品から世界の発酵食品へと成長している。10日、フランスのパリの15区庁は11月22日を「キムチの日」と制定した。すでに韓国内では2020年に11月22日を法定記念日として「キムチの日」に制定している。キムチの材料一つ一つ(11月)が集まって、22種類の効能(22日)を作るという意味でこの日に制定された。食品としては初めてだ。

 その後、「キムチの日」の制定は多くの国に拡大した。2021年の米国カリフォルニア州を皮切りに、ニューヨーク、ワシントンD.C.をはじめとする12州と米国連邦まで「キムチの日」を制定した。ブラジルのサンパウロと英国のロンドンのキングストン区でも2023年に「キムチの日」を制定し、キムチの魅力にはまっている。アルゼンチンは国家単位では初めて「キムチの日」を制定した国として2023年に名を連ねた。

韓国のキムチが世界の人々の味覚を魅了している。写真は昨年11月に開かれた平昌高冷地キムジャン祭りで、外国人参加者がキムチを試食している様子=平昌高冷地キムジャン祭り委員会提供//ハンギョレ新聞社

 キムチの輸出も急速に増えている。輸出国は2011年の60カ国から2023年には93カ国に増えた。2016年に7900万ドルだった輸出額は、2021年に1億6千万ドルに増え、2024年には1億6360万ドルの過去最大値を記録した。今年も輸出額の増加傾向は続き、上半期だけで2024年の総輸出額の半分を超えた8317万ドルを記録した。「KPOPガールズ!デーモンハンターズ」の人気に支えられ、今年のキムチの輸出額は最高記録を達成するという見通しだ。キムチだけでなく、キムチ入りの加工食品も人気を集めている。

 ドイツのアマゾンでは2025年、農心が1986年に発売した「キムチどんぶり麺」がキムチ食品分野で1位を占めた。2位にはビビゴの「きざみ白菜キムチ」がランクインし、辛ラーメンのキムチ入りのカップ麺と袋麺も共に3位に名を連ねた。

 世界的にキムチに対する需要が増えているが、韓国の国内事情はこれとは異なる。世界キムチ研究所が2010~2021年の国民健康資料調査を根拠に調査した結果、1日のキムチ(その他のキムチを含む)の消費量は、2010年の109.9gから2021年には87gに減った。毎年2.1%ずつ減少しているということだ。

 キムチの消費の減少は男性よりは女性の方が大きく、年齢が幼いほど顕著にあらわれた。居住地域では邑・面地域よりは洞地域でさらに減少が大きい。田舎よりも都市でキムチの消費がもっと減っているということだ。一方、野菜全体の摂取量は1日平均318.4グラムから315.6グラムと小幅な減少だ。食生活の変化で、発酵食品であるキムチよりは生野菜の摂取の割合が高くなったのだ。食生活の西欧化と嗜好の変化などが発酵食品であるキムチより生野菜の摂取を増やしたと理解できるが、キムチの健康機能性と栄養は生野菜のそれとはどんな違いがあるのかも研究してみなければならない部分だ。食べものはただ食べるという事物を越えて一国の文化を象徴する。長い時間を共にして韓国人の「ソウルフード」に位置づけられたキムチの地位が揺らぐということは、韓国文化の変化を予告することになる。その方向が正しいのかも考察しなければならない問題だ。

キム・ボグン先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/hanihealth/healthlife/1224946.html韓国語原文入力:2025-10-23 09:02
訳C.M

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