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「労働搾取のないK-POP」…想像できない世界を想像する

登録:2025-05-24 09:53 修正:2025-05-24 14:32
[K-POP、愛と脱出の間]ー「発言するアイドル」を夢見て
NewJeans(NJZ)のキャラクターのウサギを活用して労働組合闘争を可視化したイラスト。各種のSNSで一種の「ミーム」のように使われた//ハンギョレ新聞社

 K-POPアイドルの労働組合を結成することはできるだろうか。いや、質問を少し変えよう。アイドルの労働組合があるK-POPシーンは、一体どのような姿だろうか。これにはどうしても想像力が必要だ。私たちもいつの間にか慣れて当然だと考えていたK-POPのシステムに、「突拍子もない」質問を投げかけなければならないからだ。

 たとえば、アイドルが最初に結ぶ専属契約の期間は、なぜあえて「7年」でなければならないのか(もちろんこれは、訴訟の結果として明確な期限が設定されたという点で、過去に比べると一歩前進したが、制度変更から時間がかなり経過している点を考慮しよう)。7年であればすべての芸能事務所がアイドルに投資した費用を回収できるのか。いや、そもそも芸能事務所が未成年のころから練習生に投じる費用も、それを返済しなければならないアイドルの負担規模も、減らしてはどうだろうか。

 「若ければ若いほど美しい」という前提が通用する場だから、1歳でも若いときにデビューしなければならず、前途有望な人材を抜擢してトレーニングするのも芸能事務所の競争力だから、それは不可能なことなのだろうか。ならば「10代でデビューしなければならない」「若いからこそ競争力がある」という私たちの通念が維持されるのは正しいことなのか。

 質問がここまで続けば、K-POPのトレーニングシステムが輸出可能な「誇らしい」商品になる一方で、「アイドルは企画された商品にすぎない」という批判はなぜもっと深い議論に進められなかったのか、改めて考えてみることになる。もし、アイドルの労働組合があったとすれば、少しは違う姿を期待できるのではないかという一抹の未練を込めての話だ。

 このような話もある。ハリウッドの俳優組合と脚本家組合は2023年、ネットフリックスやディズニーと全米映画テレビ制作者協会(AMPTP)の交渉が決裂すると、最大規模のストライキに踏み切った。当時、俳優組合が要求したことの一つは「生成型人工知能(生成AI)」関連の対策だ。組合員たちは118日間のストライキの末に意味のある結果を引き出した。俳優が直接演じていないシーンを生成する場合、48時間前に必ず通知し、明示的な同意を得なければならないことや、エキストラ俳優の雇用を保障する条項(「生成AIのエキストラ雇用を回避する目的での使用禁止」)などが含まれた合意案をつくったのだ。

 生成AIに関しては、音楽も例外ではない。私は、聞くたびに感嘆するほど好みの声を持つアイドルを数人挙げられるが、彼ら彼女らの声がユーチューブで「AIカバー」の動画として投稿されることは望まない。そのような声で歌うために努力してきた当事者たちは、どう思うだろうか。労働組合があれば、アイドルの声をAI学習用に使わせないようにするとか、関連コンテンツを作る際に遵守する最小限の規定を設けようという議論を進められるのではないだろうか。

米国の俳優組合と脚本家組合の役員が2023年、米国ロサンゼルスの組合本部で合同ストライキを決め、勝利のための決意を新たにしている/AFP・聯合ニュース

 少し挑発的な質問も投げかけてみよう。たとえば、現在のK-POPのランキングシステムについてはどうだろうか。たとえば、ランキングを付ける際に主に含まれる「アルバム(初動)販売数」の指標が使われ続ける必要はあるのだろうか。これは大量の「アルバムのゴミ」を作る最大の原因であると同時に、アイドルが数カ月にわたりファンサイン会をしながら、様々な「サービス労働」を強要される要因でもある。このような労働に従事する際の最小限のセーフティーネットについての議論をしてはどうか。(2017年には、女性アイドルグループのサイン会場で、ある男性ファンが違法撮影の可能な眼鏡を着用していたことがあった)

 「ランキング」のための指標が、多くのアイドルに等しくチャンスが与えられるよう公正に設定されているかどうかについても、議論の余地がある。現在のK-POP市場は、様々なレーベルを吸収した大手芸能事務所を中心に再編成されている。ファンダム(特定分野に熱心なファン集団)の規模は多くの場合、芸能事務所の規模に比例しており、現行のランキングシステムはこのようなファンダムの規模と財力に絶対的に左右される。つまり、相対的に小さい芸能事務所のアイドルは、ランキングで見出され光を放つチャンスさえ得るのが難しい。

 このような現実のもとで、アイドルたちは宣伝効果を期待して、オーディション番組に出演する。今では所属会社があっても、さらにはデビュー後であっても、オーディション番組に出る。競争と脱落を繰り返すオーディションの無限ループの中で、アイドルの健康と労働権はどれほど保証されているのだろうか。このような無限ループが正当なのかどうか、疑問を投げかけることもできるだろう。一緒に考える人さえいれば。

 このような大仰な議論まで進まなくても、少なくとも労働組合があれば、各種の活動と公演スケジュールを調整する過程で、今よりは少しはましな交渉力を持つことになるのではないかと想像する。

 チャン・ソヨン弁護士(公益人権法財団「共感」)も同様に、現在のK-POPの専属契約システムのもとでは、アイドルの権利保護の装置が不十分であることを指摘している。「投資額の規模が徐々に拡大していく傾向のなか、アイドルが遂行しなければならないサービス提供の義務と時間も比例して増大」しているにもかかわらず、芸能事務所の責任は不透明な領域に留まっているということだ。チャン弁護士は「芸能事務所に『高度な信頼関係』を維持する義務と法的責任を与え、これが破られた場合、アイドルに(専属契約の)解約権を認めることが、法的に公平だといえる」とみている。

 アイドルが第1世代から第5世代まで移行する間、そしてK-POPが国の威信を象徴するジャンルであり産業になる間、いくつかの光景は全く変わらなかった。芸能事務所の規模を問わず。昨年の国政監査の場では、韓国最大規模の芸能事務所「HYBE(ハイブ)」の「アイドル品評報告書」(HYBEが作成したアイドルの容姿評価を含む韓国アイドル業界動向資料)が公開され、4月には「143エンターテインメント」の代表が未成年者のガールズグループのメンバーに暴言やセクハラをし、強制わいせつ容疑で告訴された事件が発覚した。いずれも、アイドルの労働権や人格権などがいかに脆弱なまま放置されているかを示す事例だ。

ハンビッメディア労働人権センターが4月29日ソウル市中区の全国言論労働組合の会議室で「143エンターテインメントのイ・ヨンハク代表の強制わいせつ事件告訴記者会見」を開いている=ハンビッメディア労働人権センター提供//ハンギョレ新聞社

 もちろん、「アイドル労働組合」が夢想のような話であることはよく理解している。「アイドルの労組結成は難しいでしょうか」という質問をすると、音楽・放送・芸能産業の従事者のすべてが、現実性に欠けるとして首を横に振った。同じアイドルであっても、置かれた状況が完全に違うからだというものだった。ある人は自分の体調もメンタルも構う暇なく働かなければならず、一方である人は非活動期間中にただ暇をつぶさなければならないのが現実であるため、共通の利害関係を土台に団結することを想像するのは難しいと語った。

 さらに、K-POPを構成する「K」の中核となる精神を思い出してみよう。黙々と努力して犠牲を払い、不条理なことまで乗り越えられる献身と投資は必須だ。何より、芸能事務所の投資に感謝して人間的にそれを裏切ってはならないという家族主義まで作用する。労働組合は考えることさえ不可能なものだ。

 しかも、外部に発信されるアイドルのすべてのコメントと行動の一つひとつまで、芸能事務所から「コンファーム(同意)」を得なければならない現実と、自分が応援するアイドルが社会的イシューに意見を表明することを極度に嫌うファンダム内の暗黙のルールが存在するなかでは、独立した声を上げることさえ困難だという点も理解している。

 それでも私は、アイドル当事者の発言がもっと多く出てくることを夢見ている。当事者自らの発話がない現実のもとでは、労働権に関するすべての制度的議論が当事者を排除したまま進められてしまうからだ。実際に第21代国会で、青少年の大衆文化芸術家のサービス提供時間をめぐる「大衆文化芸術産業発展法」改正の議論が挫折した過程は、これをよく示している。

 この改正案には、現行よりサービス提供の可能な時間を減らして「12歳未満/12歳以上15歳未満/15歳以上」に年齢基準を細分化し、このような時間制限に違反した場合、芸能事務所に過料を課す条項を新設する内容などが含まれていたが、所管の常任委員会(文化体育観光委員会)は通ったものの、次の法制司法委員会の議論の段階で失敗に終わった。芸能事務所を代弁する協会などの強い反対が影響を与えた。

 このように、大手の芸能事務所が国会と直接接触できるロビーイングの規模を増やし、中小の芸能事務所がそれに追随する状況で、歌って踊る当事者の声は事実上「聞こえない」のが現実だ。産業の特殊性と閉鎖性を考慮すれば、誰よりもアイドル当事者の発言が切に求められる領域であるはずにもかかわらず。

昨年放映されたドキュメンタリー番組「SBSスペシャル―ボディメンタリー」で体形に対する強迫観念を打ち明けたガールズグループ「SISTAR」のソユ=SBSより//ハンギョレ新聞社

 それでも希望を捨てないのは、亀裂が少しずつ広がっているからだ。ボーイズグループ「VICTON」のハンセは、音楽番組への出演がアイドルにとっていかに負担になるのかを具体的に語り、NewJeans(自身が改名したグループ名はNJZ)は、数多くの批判と法的闘争などに立ち向かって自らマイクを握り、立場を表明する方法を選んだ。

 HYBEの報告書「アイドル品評」が表面化したとき、SEVENTEENのスングァンは「芸能人という職業は自分が選択したものであり、多くの人に愛される中で耐えなければならない部分もあるだろうが、傷ついて死の直前まで自分をすり減らしてまで、何が何でも耐えなければならない職業ではないと思う」という主張を、自身のインスタグラムのアカウントに投稿した。少女時代のテヨンは最近、日本公演が突然キャンセルになったことを批判したファン連合の声明文を自身のインスタグラムに掲載し、芸能事務所に共同で対策を求める姿勢を示したりもした。

 自身が従事する労働の範囲を主体的に選択したり、業界の悪影響を積極的に語ったりするケースも出てきている。DAY6のドラマーのドウンは昨年10月、「今は自分を大切にしなければならない状況」だとして、有料のコミュニケーション・プラットフォーム「バブル」を中断すると宣言した。アイドルとして活動した経験をもとに、練習生の労働と人権について語る国会討論会で証言する人たち(元「TEEN TOP」のパン・ミンス、元「Brave Girls」のノ・ヘラン、元「Bob Girls」のホ・ユジョン)もいる。ハン・スンヨン(KARA)、チョン・ヒョソン(Secret)、ソユ(SISTAR)、ファサ(MAMAMOO)などはドキュメンタリーで、「体」に対するK-POPシーンの長年の慣習が自分にどのような影響を及ぼしたのか、率直に打ち明けた。

 今でもK-POPシーンで誰かを熱烈に応援する一人として、私はより良い方法で応援できる道を発見しただろうか。まだ首を横に振るしかない。最善の応援方法を考えてみても、それが正解だという確信はない。フォトカードをここまでたくさん作る必要があるのかと疑問を抱きながらも、素敵すぎる推しのフォトカードの前では、欲しくてどうしようもなくなる一人のファンにすぎない。

 ただし、確かに言えることは、アイドルがファンの無理な要求を聞くよりも断固として断る姿勢に、K-POPシーンにおける慣行に当然のごとく従うよりも熾烈に悩む姿に、怖くても勇気を出して発言する姿に、より大きな拍手を送る準備ができているということだ。

 このような発話が、現行のK-POPシーンを革命的に変えることはできないかもしれない。でも、「ファンを愛する」を超えた話をすることの負担が減るとき、ファンダムもまたこのような発言を寛大に受け入れようと心を開くとき、これをもとに芸能事務所も積極的に産業の別の方向を想像して進むとき、そのとき初めて、K-POPの持続可能性を少しは予想できると信じている。

パク・タヘ記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/culture/culture_general/1196955.html韓国語原文入力:2025-05-12 15:19
訳M.S

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