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米国の危機が選択したトランピズム2.0…「また巡り逢う世界」が不安だ(2)

登録:2025-01-18 11:12 修正:2025-01-18 22:00
『トランプ自伝:アメリカを変える男』韓国語版表紙//ハンギョレ新聞社

(1の続き)

 トランプ氏は不動産とエンターテインメント事業で巨額の資産を儲けた企業家出身だ。2016年の大統領選を前に70歳の年齢で共和党候補選に飛び込み、政治に踏み入った。これに先立ちトランプ氏は、41歳(1987年)に自叙伝的な初めての著書を書き、韓国では『取り引きの技術』というタイトルで翻訳出版された(日本語版『トランプ自伝:アメリカを変える男』)。簡単な成長過程、不動産投資を皮切りに事業を順調に拡張した時期の回顧、ビジネスの成功談と秘訣が盛り込まれている。トランプ氏は著書の各所で自身の勝負師の気質を自慢する。「時には戦いで敗北を味わうことによって、次の戦争で勝てる新しい方法を探すことができる」。韓国語版の翻訳者は「この本で明らかにされたトランプは(…)世の中の変化を人より早く読み取り、成功のためには手段と方法を選ばない。(…)一言で言うと、強くて隙がなく、卑劣なほど冷静な人だ」と評した。トランプ氏はこの著書で「私は父から本当に多くを学んだ。過酷な事業をしながら荒々しく対応する方法を学び、人々をリードする方法を学んだし、競争と効率性について学んだ」と書いた。

『世界で最も危険な男:「トランプ家の暗部」を姪が告発』韓国語版表紙//ハンギョレ新聞社

 ところが、トランプ氏の唯一の姪であり臨床心理学博士であるメアリー・トランプ氏が2020年の米国大統領選挙を前にして書いた著書で、母方のおじとその家を酷評した。トランプ氏による出版禁止仮処分訴訟で勝って出された著書のタイトル名は『あり余るのに満足を知らない』(Too Much and Never Enough)だ(日本語版『世界で最も危険な男:「トランプ家の暗部」を姪が告発』)。

 それによると、3男2女の次男であるトランプ氏は父親に虐待に近い無視をされ、防御策を開発したが「その方法は強力だが原始的だった。ドナルドは他人に強い敵がい心を示し、母親の不在や父親の無関心は気にも留めないふりをした。このうちの後者は、一種の『学習された無力感』に発展した」。このような評価も、トランプ氏にとっては痛いところだ。「ドナルドは、ささいな叱責も自身に対する挑戦と受け止める。批判を受ければさらに悪い行動をとり、そうしても構わないようかのようにしつこくふるまう。(…)それから50年後、全員を破滅に導く決定と対策のないコミュニケーションのしかたは、文字通り多くの人を苦しませている」

 2017年、トランプ政権1年目に出版された『ドナルド・トランプの危険な兆候:精神科医たちは敢えて告発する』(バンディ・リー編)はさらに衝撃的だ。米国の精神科医師、臨床心理学者、精神分析家、心理治療専門家など27人が、それぞれトランプ氏の精神分析と医学的評価、経験談などを1冊の本にまとめた。著者の診断結果によると、トランプ氏は「極端な現在の快楽主義、病的なナルシシズム、信頼不足、ソシオパス(反社会性パーソナリティ障害)、不道徳や狂気、猜疑性パーソナリティ症、共感能力の欠乏、他人に暴力を行使しようとする意志」を典型的に示す人物だ。

『ドナルド・トランプの危険な兆候:精神科医たちは敢えて告発する』韓国語版表紙//ハンギョレ新聞社

 米国精神医学会(APA)の医療倫理原則(別名「ゴールドウォーター・ルール」)は「医師が公認の精神科的な問題に関する一般的な内容を言うことはあるが、直接の検査を実施することなく、適切な許可を得ていない場合、専門的意見を提示することは非倫理的」だと明記している。著者たちは、ルール違反を押し切ってまでこの本を出版した理由も説明した。「国家権力が精神的に不安定だとみられる人物によって乱用されていることを感知した場合は、われわれは市民としてだけでなく、特殊な情報を知っており大衆を教育する責任がある専門家として、その事実を伝えなければならない」

 2023年11月、トランプ氏は自身の主治医が作成した診断書を公開し、健康を誇示した。「身体状態は正常の範囲で、認知力など精神健康は卓越している」と書かれていた。昨年の大統領選の期間中、カマラ・ハリス候補をはじめとする民主党議員がトランプ氏の乱暴な言動を指して用いた「奇怪な」(weird)という言葉がかなり流行した。トランプ氏はこの表現に激しく怒った。「私でなく彼ら(民主党)が奇怪だ」と反撃しても怒りが収まらなかったのか、ハリス候補に「間抜け」「言うことがころころ変わる共産主義者の狂人」「IQ(知能指数)が低い」などの非難を浴びせた。

『アメリカの罠:トランプ2.0の衝撃』韓国語版表紙//ハンギョレ新聞社

 トランピズムの強化は、トランプ支持層の期待とは違い、米国経済に不利に作用して、政治的民主主義を傷つけ、国際秩序にも破壊的変曲点をもたらすだろうという懸念も小さくない。ユヴァル・ノア・ハラリ、ポール・クルーグマン、ジム・ロジャーズ、ジェフリー・サックス、ジャック・アタリなど各分野の著名な専門家たちが共著者として参加した『アメリカの罠:トランプ2.0の衝撃』も同様の趣旨の本だ。

 クルーグマン氏は、トランプ氏が自国民の所得税を外国商品に課す関税に変えるという発想は「関税引き上げ→消費者の負担増加→輸入減少→関税引き上げ」の悪循環に陥るものだと指摘した。サックス氏は「トランプの外交政策は気まぐれで予測が不可能だ」としたうえで、「彼の性格は敵意に満ちており、政治と外交分野でもビジネスの取引をしているかのようだ。トランプの話はありのまま受け入れてはならず、公然と大声を上げたりむやみに威張ったりする(…)駆け引きをしている最中だということを把握しなければならない」と直撃した。

『民主主義の死に方:二極化する政治が招く独裁への道』韓国語版表紙//ハンギョレ新聞社

 米国の政治学者スティーブン・レビツキー氏とダニエル・ジブラット氏の著書『民主主義の死に方:二極化する政治が招く独裁への道』は、トランピズムの政治的危険性に対する警告としても読まれる。著者たちは「独裁者の判別基準」として、(1)民主主義の規範の拒否、(2)政治ライバルに対する不正、(3)暴力に対する助長と容認、(4)報道機関とライバルの基本権に対する抑圧傾向などを挙げたが、「トランプは私たちのリトマス・テストの4項目すべてで陽性反応」を示した「ポピュリズム・アウトサイダー」だと規定した。「ポピュリストは既成政治に反対し、エリート集団を処断して権力を国民に返すと約束する。しかし、選挙で勝つと、彼らはしばしば民主主義制度をまず攻撃する」

 いまやトランプ氏は米国の歴史上、最高齢で大統領に再任できない再選に成功し、政権就任を控えている。彼が作っていく世界、トランピズム2.0が支配する今後4年を、全世界が不安な気持ちで見守っている。

チョ・イルジュン先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/culture/book/1178536.html韓国語原文入力:2025-01-18 07:00
訳M.S

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