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米国の危機が選択したトランピズム2.0…「また巡り逢う世界」が不安だ(1)

登録:2025-01-18 10:25 修正:2025-01-18 11:18
精神的に不安定なトランプ氏の気質 
国家権力の不正乱用、トランピズムに影響 
米国経済にも国際秩序にも赤信号
2024年11月19日(現地時刻)米国のドナルド・トランプ次期大統領がテキサス州ボカ・チカの発射場で民間宇宙企業スペースXの超大型ロケット「スターシップ」の試験発射に参観している/AP・聯合ニュース

 2025年1月20日、米国と世界は「新たな世界」に向き合う。ドナルド・トランプ大統領(78)が4年ぶりに2期目を始める。トランプ支持者は「また巡り逢えた世界」に歓呼するが、「もう巡り逢いたくない世界」の再現に当惑感と懸念を隠すことができない人たちも多い。トランプ時代は過去にはなかった世界ではない。むしろ、一度は経験した世界の拡張現実になる可能性が高い。彼が追求して実行した理念と政策、「アメリカ・ファースト」と「アメリカを再び偉大に」というスローガンで象徴される「トランピズム」(トランプ主義)が、自国だけでなく国際社会に再び大きな対立と激変を予告しているからだ。

 トランピズムは2016年の米国大統領選のとき、主要メディアがトランプ候補の政治的スタイルと理念的指向を表現する用語として使い始めた。現時点では、厳密に確立された学術的概念というよりは、トランプ路線の特徴とスタイルの描写に近い。極端な自己中心主義と動物的な損益感覚の混在にすぎず、なんらかの理論的体系を備えた政治哲学とみなすのは難しいという意味だ。

 しかし、トランプ氏が政権1期目の間に見せた言動と国内外の政策を通じて、トランピズムの実体を見積もり推察することはできる。極右ポピュリズム、反知性主義、米国第一主義と軍事・外交的孤立主義、多国間主義の秩序を無視する保護貿易主義、極端な反移民感情、政治的反対者などに対する軽蔑と嫌悪、「フェイクニュース」や「オルタナティブ・ファクト」を前面に出した妄想と偽りの扇動などが挙げられる。

 トランプ政権2期目の時代は、さらに強力になったトランピズム2.0を予告する。トランプ氏は就任初日に気候変動枠組み条約を再離脱すると公言している。ユネスコ(UNESCO・国連教育科学文化機関)、国連人権理事会、世界保健機関(WHO)などにも「脱退」の脅しをかけ、西側諸国の軍事同盟である北大西洋条約機構(NATO)加盟国や、東北アジアの安全保障の最前線にいる韓国に対しても、過度な防衛費の引き上げを求めるカードを切った。また、中国製品に60%、他の国の輸入商品には10~20%の普遍的基本関税も予告した。露骨な外国人嫌悪もさらに強まる見込みだ。一方、次期政権の要職を自身に対する忠誠度が高い最側近と家族で固め、議会乱入・暴動事件の主導者を「大規模恩赦」すると述べた。このような独善的な動きは、民主主義と人権の価値を嘲弄し、国際的な多国間機構に対する信頼性の危機を悪化させる可能性がある。

 トランピズム2.0には、過去とは違う様相が現れる兆しもみられる。可能な限り国際紛争に介入しない孤立主義を捨て、国益を最大化するために軍事力の使用も排除しない略奪的膨張主義の内心を公然と示していることがそれに当たる。トランプ氏は最近、パナマ運河とデンマーク領グリーンランドを占領するという野心を示した。米国と国境を接する隣国であり最友好国の一つであるカナダに対しても25%の関税を予告し、それが嫌なら米国の51番目の州になれという。嘲弄的な脅迫を越える、深刻な主権侵害の妄言だ。

 トランピズムという妖怪は、どのようにして生まれ、勢力を育てたのか。3つの要因で説明できる。1つ目は、トランプ氏の成長過程で形成された気質と性情。2つ目は、20世紀の二つの世界大戦以降、ドルの覇権に後押しされた経済力と圧倒的な軍事力によって国際秩序の最高峰にいた米国の独歩的な地位が揺らぐ危機感。3つ目は、民主党と共和党を中心とする二党政治が固定化し、エリートと富裕層が政治を掌握している現実のもと、脆弱階層と社会的マイノリティを代弁するという期待を受けた民主党政権の無気力さに対する失望。

2024年12月14日、米国のドナルド・トランプ次期大統領の別荘があるフロリダ州マー・ア・ラゴ・リゾートの近くでトランプ支持者が米国旗とトランプ氏の写真の旗を振っている/AFP・聯合ニュース

 トランプ氏から政治指導者としての徳性や人間的品格を見出すことは難しい。すぐにばれる嘘やおぞましいヘイトスピーチを続け、政治的反対者などを侮辱することに長けている。それでも、米国の有権者の半数が彼を支持した。とはいえ、彼らに人格的欠陥があるということにはならない。トランプ支持者は哲人政治家を選んだのではない。エリートの既得権集団と戦う闘士、「政治的正しさ」を強調する民主党のアイデンティティ政治に疲労感を感じているが、自分からは言い出せずにいるもどかしさを豪快に代弁してくれるスポークスマン、自分たちの利益と自尊心を確実に守ると豪語する人物を選択しただけだ。ここには、唯一の超大国の時代に対する郷愁、中国の急浮上と国際社会の多極化にともなう地政学的変化、保守的な白人の既得権集団のアイデンティティ危機が重なっている。

 トランプ氏が再選できた背景、トランプ2期目の政権の様々な政策方向については、多くの専門家とメディアから様々な見通しと分析が出ている。しかし、トランプ氏個人の気質と性情がトランピズムの形成に及ぼした影響は、相対的にあまり知られていない。彼に関するかなりの数の書籍から、その過程を推測することができる。(2に続く)

チョ・イルジュン先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/culture/book/1178536.html韓国語原文入力:2025-01-18 07:00
訳M.S

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