世界で最も多く輸出される果物であるバナナ。消費者がバナナを購入するために支払う代金の約43%は小売り業者が持っていき、プランテーション農園の所有主が17%近くを取り、熟成業者と運送業者がそれぞれ約13%を、卸売および輸入業者が10%程度を確保する。バナナの栽培や収穫、洗浄、分類、包装に関与する労働者に渡る割合は3.3%に過ぎない。チョコレートの原料であるカカオを栽培する農民は、チョコレートの小売価格の6%を所得として得るだけであり、コーヒー1杯の価格のうち栽培農民の取り分は1%にも満たない。
慶北大学地理教育科のチョ・チョルギ教授の著書『嗜好と耽溺の食べ物から見た地理』は、嗜好食品の裏面に隠された暗い実状を掘り起こす。茶の木と紅茶、サトウキビと砂糖、カカオとチョコレート、油ヤシとパーム油、バナナ、エビ、ブドウとワインなど7種類の食材と食品を選び、生産から消費にいたる全世界的な「商品鎖」(commodity chain)を暴き、食べ物をめぐる歴史と流れに注目することを求める。食べ物の世界では、私たちはみなつながっており、だからこそ、商品鎖にまつわる矛盾や不合理に目覚めた市民の意識で対抗しなければならないと助言する。
新大陸アメリカで砂糖の原料であるサトウキビのプランテーションを経営した欧州人は、労働力不足の問題を解決するため、アフリカから奴隷を連れてきた。カカオ農場も同様にアフリカから奴隷を連れてきて使った。カカオの栽培地が西アフリカと東南アジアに拡大し、アフリカ諸国が欧州の植民地支配から脱すると、チョコレート生産における児童労働が問題として浮上する。コートジボワールやガーナのような国では、農村の子どもの50%以上が学校に行かずに働くが、そのうち25~50%がカカオ農場で働く。世界第1位のエビ輸出国であるタイのエビ養殖場では、ミャンマーをはじめとする近隣諸国から人身売買で連れられてきた児童や青少年、外国人労働者が、奴隷労働によって苦しめられている。
アフリカ南東部のマラウイの人たちの主食はとうもろこしであるにもかかわらず、輸出目的のサトウキビの栽培面積がとうもろこし畑を侵食したため、とうもろこしの価格が暴騰し、住民の多くが飢えている。「サトウキビ生産は、森林伐採、動植物の棲息地の破壊、水不足、水質汚染などを含む環境問題も引き起こす」。植物油のパーム油の原料という環境にやさしいイメージとは違い、油ヤシのプランテーションは熱帯雨林の破壊の主犯だ。「世界自然保護基金(WWF)によると、1時間ごとにサッカー場300カ所の面積に相当する熱帯雨林が油ヤシのプランテーションを作るために燃やされている」。その過程で発生する二酸化炭素は気候危機を加速化する。
バナナを1本も生産しない米国がバナナの輸出で最大の利益を得て、カカオが生産されないオランダがカカオ輸出順位で5位になる反面、アフリカのカカオ栽培農民の大部分は死ぬ日までチョコレートを見ることさえできない。多国籍企業が支配する嗜好食品市場の恥ずべき素顔だ。「先進国の裕福な人たちが消費するコーヒーやお茶、チョコレートなどには、貧しい生産国の労働者たちの涙がしみ込んでいる」
では、どうすればいいのか。著者の答えはフェアトレード(公正貿易)にある。「少し高い代金を支払ってでも、フェアトレードを通じて生産され流通する商品を選択することによって、開発途上国の農民と農業労働者の安定した生計を保障し、さらには環境を保全する持続可能な農法を支持することができる」