「名高い人、(知識の)ある人、(人格の)出来た人」。古い世代であれば、学生時代の倫理または道徳の教科書でみた3つのタイプの人間像が思いだされるだろう。それぞれ、ある分野で才能が優れた人、学識が豊富な人、立派な人格を備えた人を意味する。教科書では3つの類型のなかで、人格を備えた「出来た人」を最も高く評価した。
だが、人生の競争がますます激しくなるにつれ、最近は物質的な富を豊かに「持っている人」(または掴んだ人)を理想とする風土が蔓延する世の中になった。
3つの人間像のなかで、誰が「持っている人」になる確率が最も高いだろうか。
一般的にどの社会でも、高学歴であるほど所得が高い傾向を示す。高学歴者にはそれだけより多くの機会が与えられる。高い認知能力(知能指数など)が所得を高めることに肯定的な役割を果たすという研究もある。
だが、スウェーデン、イタリア、オランダの共同研究チームの新たな研究によると、所得最上位にいる人だとしても、必ずしもより賢いわけではない。
所得に対する家族背景・幸運の影響、年を取るほど大きくなる
研究チームは、所得が一定水準を越えると認知能力との相関関係が希薄になり、所得上位1%に属する人々は、むしろすぐ下の所得層より認知能力が劣るという研究結果を「ヨーロッパ社会学ジャーナル」(European Sociological Review)に発表した。
研究チームは、最上位所得層に現れるこうした現象を「認知能力の停滞」と呼んだ。研究チームは、最高の所得を享受するのは能力だけではなく家庭環境や幸運などが作用するためであり、これらの要因の影響力は年を取るほどさらに大きくなると説明した。
家庭環境は、特に教育や社会的ネットワーク、文化的趣向、物的支援などを通して、職業的成功に広く影響を及ぼすと研究チームは述べた。
能力と所得の相関関係が崩れる分岐点は?
スウェーデン人男性たちを対象にした今回の研究で、認知能力と所得の間の相関関係がこれ以上続かなくなる分岐点は、年間所得6万ユーロ(約900万円)だった。
それよりも所得が多い最上位1%の所得層は、その直下の所得層(上位2~3%)より認知能力は少し劣る。認知能力の最高点数をつけた人の割合は、最上位3%では23.2%だが、最上位1%では17%へとやや下がった。一方で、両グループの所得の差は2倍に達した。
だが、全体的に認知能力は所得に比例する傾向を示した。特に、所得百分位40~90%間では、認知能力と所得の間に強い相関関係があることが明らかになった。
今回の研究は、18~19歳の頃に軍の徴集検査を終えたスウェーデン人男性約6万人の認知能力テスト結果と、これらの人々が35~45歳の間に得た所得と職業に関するデータを総合分析した結果だ。研究チームは「初期の小さな成功が、時間がたっても相殺されず不平等が拡大し、勝者一人占めの様相を示している」と説明した。
所得不平等の深刻化のもう一つの要因
研究チームはさらに、高所得層の場合、職業の認知度・信頼度と認知能力は相関関係を持たないという事実も発見した。例えば、医師、弁護士、教授、裁判官のように、ISEI(職業の社会経済的国際指標)が70点以上ある職業群では、所得と認知能力の間に特別な関係はない。
研究チームは「過去数年間の不平等の深刻化をめぐって繰り広げられた論争で、上位所得者は自分たちの優れた能力が高所得の源泉だと弁護したが、今回の研究では、能力の核心である認知能力の面において、最上位の所得層がその半分の所得の人々よりもさらに優れているという証拠は発見できなかった」と明らかにした。
つまり、所得の不平等が拡大している先進国において、上位所得者の取り分が大きくなるのは、能力とは無関係ということだ。
今回の研究は、スウェーデンと男性という地域的、人口学的な限界はあるものの、最上位層の所得を決めるうえで、能力以外の要因が作用していることを実証的に示したという意味がある。
こうした分析が可能だったのは、スウェーデンが2000年代初期まで徴兵制を維持していたため、徴集年齢に該当する男性の認知能力試験の点数をすべて確保できたためだ。これに、これらの人々の所得や経歴、学歴事項などに関する国税庁と教育部の資料を集合した統計庁の協力を得て、標本ではなく全数調査と分析が可能になった。ただし研究チームは、今回の研究は個人の創意性、心理状態、身体能力のような非認知的要素は考慮しなかったという限界があることを明らかにした。
研究チームはまた、高等教育があまり普及していない国では、労働市場での成功と能力の間の関係がさらに弱いこともあると付け加えた。
※論文情報
The plateauing of cognitive ability among top earners
European Sociological Review