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博物館・市民を再び脇へ押しやる一方的な「外交晩餐会の悪習」が復活=韓国

登録:2022-05-31 10:16 修正:2022-05-31 11:39
[ノ・ヒョンソクの時事文化財] 
韓米首脳会談の晩餐を理由に 
わずか数日前に休館の指示 
進行中の展示が中断され、市民らは抗議 
首脳の鑑賞は10分だけ…結局食事が優先 
文化機関、行事の脇役に過ぎず 
過去の政権の悪習が復活か
ジョー・バイデン米大統領と尹錫悦大統領が21日午後、ソウル龍山区の国立中央博物館で開かれた歓迎晩餐会に先立ち、新羅時代の金冠などを鑑賞している=大統領室提供//ハンギョレ新聞社

 朴槿恵(パク・クネ)政権の国政壟断事態が起きる前年の2015年10月27日、国立現代美術館はホームページに突然公示文を載せた。

 「休館および振り替え開館のご案内」と題する公示文は、当時「今年の作家賞2015」展が開かれていたソウル昭格洞(ソギョクドン)のソウル館を、内部事情で来月1日に一日臨時休館し、16日に振り替え開館するという内容だった。美術館上部機関である文化体育観光部(文体部)は、当時11月1日まで開かれる予定だった「今年の作家賞2015」展も、臨時休館により5日まで延長するスケジュールに変更になったと語った。

 「内部事情」とは、当時の大統領府の要求のために生じたものだった。11月1日に開かれる韓中日首脳会談の晩餐会場として美術館をあけてほしいと強権に近い要求を受けた文体部が、美術館を圧迫し、唐突に休館させることを決めたのだ。つまり晩餐の準備を理由にソウル館の公式展示日程を一方的に中断させ、展示場も閉館させたのだ。文体部は今年の作家展も大統領府の日程を理由に一日繰り上げて終えようとした。一部の作家は、原則に反するとして問題提起した。文体部は、美術館を晩餐会場として使うことを事前に十分に了解を得たり調整したりしておらず、作家たちに一方的に通告しただけだった。反発が大きくなると、文体部はあたふたと振り替え開館と展示延長という解決策を持ち出した。当時、作家のハ・テボムさんは一方的な展示日程変更に抗議する文章をフェイスブックに載せたが、美術館側が「国家機密漏洩」として削除を要求する事態まで起きた。

尹錫悦大統領とバイデン米大統領が21日、ソウル龍山区の国立中央博物館で開かれた韓米首脳歓迎晩餐会で、文化財を鑑賞している=大統領室提供//ハンギョレ新聞社

 約7年前の晩餐会場のハプニングを長々と持ち出したのには理由がある。今月21日、国立中央博物館本館のウトゥムホールで行われたジョー・バイデン米大統領と尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領の韓米首脳晩餐でも、同じ様相が繰り返されたためだ。

 共に民主党のキム・ウィギョム議員室が公開した博物館側の答弁資料によると、土曜日に予定された晩餐会のスケジュールは、わずか3、4日前に外交部から一方的に休館してほしいという通知を受けたことが分かった。文体部のパク・ポギュン長官は、月曜日の16日に通知を受けたという。多めにみてもわずか5、6日で晩餐会場と調理空間、両首脳の動線空間の確保などが慌ただしくなされたということだ。このような中、博物館は晩餐会3日前の18日になって展示場を休館すると案内を出し、市民の抗議が殺到するという事態が起きた。

 西欧では博物館を社交の舞台として用いるのはごく自然な慣行だ。多くの外交交渉や講和会議の舞台となったフランスのベルサイユ宮殿、オーストリアのシェンブルン宮殿などが示すように、中世以来王宮と貴族の遺物、名品の空間は、外交社交の空間として広く使われてきた。18~19世紀の革命時代にも、市民の権力が王宮を接収し博物館に転用してから、ブルジョア市民階層の会合空間として使われてきたという長い伝統がある。米国と欧州の大型美術館は、運営基金の確保のために展示室を含む広い空間を貸し出す事例も多い。理事会体制の美術館が、運営基盤を確保するために展示場を宴会会場としてたびたび提供するのは不思議なことではない。しかし、韓国は日本による植民地時代、宮殿が毀損され博覧会場に転用されるなど、深刻な文化財侵奪にあった歴史が国民の集団記憶に残っている。晩餐会場として活用する場合は、明確に条件を規定したマニュアルと市民の同意が必要だろう。

21日、ソウル龍山区の国立中央博物館で開かれた韓米首脳歓迎晩餐会=大統領室提供//ハンギョレ新聞社

 問題は、権力機関が一方的に指示し晩餐会の場所を急造する過去の政権時代の悪い癖が再発したということだ。李明博(イ・ミョンバク)政権時代も、2010年のG20首脳会議の晩餐会や、2012年に大統領夫人のキム・ユノク氏が主催した、核安保会議に出席した国外首脳の夫人たちとの晩餐会の会場を国立中央博物館とし、展示遺物まで持ち込むなど、様々な論議を呼んだ。朴槿恵政権時代もこのようなやり方の一方的な指示慣行に対する世論の反発が大きく、博物館としては権威とメンツが台なしになった。今回も博物館は同じように一方的に上部からの指示に屈従し、場所を明け渡さなければならなかった。「文化外交」という修辞が使われたが、それもわずか10分あまりバイデン大統領が1階の展示場の金冠と敬天寺址石塔、高麗銅鐘を鑑賞し短い対話を交わす程度で終わった。博物館で過ごした晩餐時間の大半は、10大グループのトップらが参加した「ビジネス首脳外交」だった。トップとの晩餐が優先だった。博物館は空間を提供したのみで、弥勒菩薩半跏思惟像を展示した部屋といった文化遺産の神髄をきちんと見せることもできず、脇役に転落したという声があがっている。

尹錫悦大統領とバイデン米大統領が21日、ソウル龍山区の国立中央博物館で開かれた韓米首脳歓迎晩餐会で乾杯している=大統領室提供//ハンギョレ新聞社

 文化財界隈では、最高権力機関である大統領府を開放したという大儀名分とは裏腹に、自分たちの便宜によって文化機関を行事の脇役に立たせる現政権のダブルスタンダードに対し、いっそう厳しい目を向けている。

 博物館のある学芸員が語った。「権力者が食事の場所として使うと通知すれば、全てを差し置いて従順に明け渡すのが慣行のようになっています。これからも使わせてくれと言われたら従うでしょう。大統領室が至近距離にあるので、それが怖いです」

ノ・ヒョンソク記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/culture/culture_general/1045057.html韓国語原文入力:2022-05-31 07:20
訳C.M

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