「香港で、そしてミャンマーで、韓国の抵抗歌謡を歌うシーンを見て感じたことが大きい。韓国の民主主義を世界の人々と分かち合うために民衆歌謡の歌詞を英語に翻訳して映像化したのもそのためです」
ソウル韓国民族芸術団体総連合(民芸総)のソン・ビョンフィ理事長は「K-民主主義の歌、ソウル広場を超えて世界の広場へ」(以下「K-民主主義の歌」)動画の企画意図をこのように説明した。今月10日に公開された動画はユーチューブのソウル民芸総・ソン・ビョンフィTVのチャンネルで見ることができる。1993年、大学生の歌サークル「祖国と青春」で活動を始めたソン理事長は、ソロ活動を含めこれまで正規アルバム8枚を発表した代表的な民衆歌手だ。
彼はまず、韓国民主主義の優秀さを強調した。「パンデミックの状況でも韓国社会のシステムが善戦している背景には、産業化に劣らず民主化を成し遂げながら積み重ねてきた韓国社会の底力があります。世界でも大韓民国の経済だけでなく民主主義を高く評価していると聞きました」。防弾少年団(BTS)に代表されるK-POPや映画『パラサイト 半地下の家族』やドラマ『イカゲーム』などのK-コンテンツが世界的なブームを巻き起こしている今、「K-民主主義の歌」動画を制作した理由だ。
動画で流れる歌は「あなたのための行進曲」や「燃える渇きで」など民主化運動の現場で鳴り響いた10曲。ソン・ビョンフィ、ムン・ジノ、リュ・グムシン、ソン・ヒョンスク、ヨン・ヨンソク、ソン・スンギュ、アカシアが歌っており、歌詞を翻訳した英語字幕もつけられている。歌だけではない。歌詞に合わせて踊りや絵、写真、詩が登場し、趣を添える。俳優キム・ギョンラクとチャン・ヨンチョルがキム・ナムジュ、シン・ドンヨプの詩を朗読し、舞踊家のイ・サムホンとヤン・ヘギョンが踊りを披露する。
動画の最初の場面は、ミャンマーの学生たちが歌う「あなたのための行進曲」。民主化を求めるミャンマー市民を踏みにじる写真は、5・18光州(クァンジュ)民主化運動の写真に切り替わる。ソウル民芸総は今年2月、数十人の歌手と俳優がミャンマー民主化運動を応援する意味を込めて歌った「あなたのための行進曲」の動画をミャンマーに送った。今回の動画には故国の民主化運動を支持するミャンマーの留学生らが参加した。
連帯が必要な現場でよく歌われた「一緒に行こう、私たちのこの道を」も、民主化デモ現場の思い出を振り返る起爆剤となる。 日本の「いろそら(立ち上がれという意味の韓国語)!合唱団」が韓国語でこの歌の最初の部分を歌う。合唱団のヤマダヒロキ事務局長は「韓国民主主義はいつも私たちの希望。今後も私たちは民主主義を韓国の人々とともに歌う」と語る。ソン理事長は「『いろそら!合唱団』は韓国と日本の抵抗歌謡を中心に歌う合唱団で、私と昔から交流があったため、お願いした」と話した。
「燃える渇きで」では俳優のキム・ギョンラクがキム・ナムジュの詩「手紙」を朗読する。「その歌からは1970年代の維新時代に出た詩を歌詞にした悲壮感が伝わります。家族の期待を一身に背負って、大都市に向かう若者たちにとって、自分と家族の危険を顧みず、苦難の道を歩んでいく際、特に気がかりなのが母親のことだったのでしょう。詩人のキム・ナムジュも刑務所で母親に手紙をよく書いていたそうです。詩人と詩の情緒、告白の対象(母親)がよく調和のとれた詩だと思います」。「荒野で」にはシン・ドンヨプの詩「殻は去れ」の朗読が出てくる。「偉大な詩人です。 分断の矛盾を克服し、狭い視野を破って荒々しいが広大な広野に進もうという意味です」
踊りも登場する。「切に」が流れる時は、ソウル地下鉄2号線九宜(クイ)駅の9-4番ホームで、ヤン・ヘギョンが鎮魂舞を踊る。2016年5月、20代の非正規職の青年がホームドアを点検していたところ、列車にはねられて亡くなった。「清渓川8街」では、イ・サムホンが清渓川(チョンゲチョン)の全泰壱(チョン・テイル)橋で踊る。「『切に』の曲を作って歌ったヨン・ヨンソクは、労働現場で主に活動しているシンガーソングライターです。 『働いた分だけ稼げる世界』などの歌詞から、その切実さがにじみ出ています」
光化門(クァンファムン)のろうそく集会でよく歌われた「並んで歩かなくても2」はソン理事長自ら歌った。「初めはろうそく集会に捧げる歌として構想しましたが、反戦平和のメッセージまで込めて作りました。この歌は日本語で翻訳され、日本の各地で歌われています」
イ・チョンサン民芸総理事長、シン・ウォンチョル・ソウル市議員、チョン・ギルファ国際文化交流振興院長、イ・ウォニョン民主化運動記念事業会常任理事らも応援メッセージを送った。シン・ウォンチョル議員は「香港民主化デモの際、テレビで『あなたのための行進曲』が流れるのを見て驚いた。歌の持つ力は時空間を越えて同質感、連帯感を育てる文化的資産だと思う」と述べた。
ソン理事長は「南米の民主主義の歌である『ヌエバ・カンシオン』は数億人が使うスペイン語の歌だったため、全世界で広く歌われた」とし、「『K-民主主義の歌』も言葉の壁を越えて全世界の多くの人々に歌ってほしい」と願いを語った。