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北朝鮮への送還求める脱北者「家族のもとに帰りたい母親の物語として見てほしい」

登録:2021-10-28 06:26 修正:2021-10-29 06:16
ドキュメンタリー映画『影の花』、27日に公開 
主人公のキム・リョンヒさんとイ・スンジュン監督のインタビュー
今月25日午前、ソウル銅雀区舎堂洞のアットナインフィルムの事務所でキム・リョンヒさん(左)とイ・スンジュン監督がドキュメンタリー映画『影の花』について笑顔で話している=オ・スンフン記者//ハンギョレ新聞社

 「私は娘一人をもつ平壌(ピョンヤン)の平凡な主婦でした。夫は金策工業大学付属病院の医者で、私は洋服店で働いていました。もともと肝臓が悪く、平壌で治療を受けていましたが完治せず、2011年5月、親戚の家で2カ月間療養するつもりで中国に行きましたが、北朝鮮と違って中国は病院費が高すぎました。北朝鮮に帰る旅費のため、中華料理店で働いていたところ、脱北ブローカーに会いました。『韓国で少し働けば大金を稼げる』と言われて、北朝鮮のパスポートを渡しましたが、何かおかしいと気づいた時にはすでに手遅れでした」

 北朝鮮への送還を希望する最初の脱北者、キム・リョンヒさん(52)は、自分の人生を描いたイ・スンジュン監督のドキュメンタリー映画『影の花』(Shadow Flowers、27日公開)でこのように語った。今月25日、イ監督と一緒にソウル銅雀区舎堂洞(トンジャクク・サダンドン)の「アットナインフィルム」の事務所で会ったキムさんは、平凡な主婦に見えた。

ドキュメンタリー映画『影の花』のスチールカット=アットナインフィルム提供//ハンギョレ新聞社

 2011年9月、彼女は脱北ブローカーにだまされて望んでもいないのに韓国に来た。入国直後に行われた国家情報院の調査でも一貫して北朝鮮への送還を要求したが、受け入れられなかった。法律上、大韓民国の国民であるうえ、北朝鮮離脱住民(脱北者)を北朝鮮に送還した前例がないというのがその理由だった。「家族のもとに帰るためなら何でもしよう」と考え、密航と偽造パスポートの入手方法について調べていた彼女は、国外追放を狙って自分が「脱北者の情報を収集するスパイ行為をした」として自首し、処罰を受けたこともある。2015年7月、本紙の報道で世間に知らされた事実だ。イ監督はこの記事を読んでキムさんを訪ね、ドキュメンタリーの制作に着手した。彼はセウォル号を取り上げたドキュメンタリー『不在の記憶(In the Absence)』で昨年、韓国で初めて米国アカデミー短編ドキュメンタリー部門にノミネートされた。

 撮影8カ月目の2016年3月、キムさんはベトナム大使館を訪れ亡命を申請した。「『北朝鮮に送ってほしい』と頼んだが断られました。大邱(テグ)地検は、このこととフェイスブックなどに書いた北朝鮮関連の書き込みを問題視して、昨年12月、1回の取り調べもなく、私を国家保安法違反の容疑で起訴しました。1月に開かれるといわれた裁判は、これまで無期限延期されています。2018年5月にパスポートが発給されたましたが、国家保安法違反だとして3年間出国禁止状態です」。政権が変わり、南北首脳会談が開かれたが、彼女の状況は変わらなかった。

ドキュメンタリー映画『影の花』のスチールカット=アットナインフィルム提供//ハンギョレ新聞社

 過去10年間、韓国社会は一度も彼女に対する敵意を緩めなかったが、彼女を支えたのもまた、惜しまぬ支援をしてくれた韓国の人々だった。「クォン・オホン会長をはじめ(正義・平和・人権のための)良心の囚人後援会の方々は本当に韓国で出会った新たな家族のようでした。路頭に迷っていた時に住居を提供し、そばにいてくれました。最近肝臓がんの手術を受けたのですが、皆さんが面倒を見てくれました。『同じ民族の血というのはこういうことなんだな』と思いました」

 このように苦難の中でも人生は続く。『影の花』は生き別れたキムさん家族の苦しみを見つめながらも、彼らの日常に温かい視線を送っている。工場で一人でご飯を食べていたキムさんは、一緒に入国した脱北者たちと久しぶりに会って会話し、彼らに励まされる。平壌のキムさん家族も同じだった。イ監督の知人であるフィンランド人のドキュメンタリー監督が、北朝鮮当局の許可を得て2回撮影した平壌のシーンで、キムさん家族は変わらぬ日常の中で、キムさんの帰還を待っていた。イ監督は「北朝鮮の人々や脱北した人々も、私たちと同じように日常生活を営んでいるごく普通の人」だとし、「彼らと私たちが変わらないこと、似ているということを見せるのがこの映画の一つの目標だったため、平壌のシーンは必ず入れたかった」と語った。

今月25日午前、ソウル銅雀区舎堂洞のアットナインフィルムの事務所でキム・リョンヒさん(左)とイ・スンジュン監督がドキュメンタリー映画『影の花』について笑顔で話している=オ・スンフン記者//ハンギョレ新聞社

 平壌のシーンを見て、「夫が医者だったら、中流階級だったのではないか」と尋ねると、キムさんは「中流階級ではなかった。韓国と違い、北朝鮮で医師はただの公務員だ」とし、「夫より洋服店で働いていた私の給料の方が多かった」と話した。

 キムさんが家族に帰る道はないのだろうか。イ監督はこう話した。「これから韓国政府にはもう少し柔軟にアプローチしてほしいです。北朝鮮に送還すれば北朝鮮の体制宣伝に利用されると考えているようですが、『利用したいなら、そうすれば』というふうに、大きく構えれば良いではありませんか。キム・リョンヒさんを送還すれば、他の脱北者たちも同じ要求をするだろうと言いますが、審査を経て北朝鮮への送還を強く望んでいる場合は、送ってあげるのも人道主義でしょう」

 インタビューを終えてキムさんは「『監督はアカだ』など、否定的なコメントが多かった。その方々に、家族が北朝鮮に抑留されているなら、自分はどうしたいのか聞きたい。家族のもとに帰りたい母親の物語として見てほしい」と語った。

オ・スンフン記者(お問い合わせ japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/culture/culture_general/1016780.html韓国語原文入力:2021-10-27 10:42
訳H.J

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