米国とイランは2026年6月14日、14項目の「イスラマバード覚書(MOU)」に合意した。トランプ米大統領とイランのペゼシュキアン大統領が3日後の6月17日にそれぞれ電子署名を行い、覚書が発効した。覚書の第3項は、「米国とイランは、最大60日以内に最終合意に向けた後続交渉に臨む。交渉期限は相互合意に基づき延長されることがある」と定めている。8月16日は覚書締結から60日目を迎える日だった。米国とイランは最終合意に至らなかった。交渉期限の延長についても合意できなかった。覚書の有効期間は満了した。戦争はいつの間にか半年に差し掛かっている。
■イスラマバード覚書「60日間の停戦」が満了
原子力空母「エイブラハム・リンカーン」を中心とする米海軍第3空母打撃群が、カリフォルニア州サンディエゴ海軍基地を出港したのは2025年11月21日。これに先立ち、同空母打撃群は162日間の作戦遂行を経て、2024年12月に帰港していた。空母打撃群が帰港から1年も経たずに再び作戦に投入されるのは異例のことだ。米海軍の「艦隊最適化対応計画」(OFRP)では、空母打撃群の「整備・補修-訓練-作戦遂行」のサイクルを36カ月と定めている。
第3空母打撃群は、出航から20日後の2025年12月11日、米領グアムに到着した。乗組員の休息と物資の補充のために予定されていた停泊だった。翌日に出航した空母打撃群の最終目的地はペルシャ湾だった。米国とイランの戦争が迫っていた。当初2026年5月に帰港予定だった同空母打撃群は、2026年8月20日現在、母港であるサンディエゴを出港してから272日、最後の寄港地であるグアムを出港してから251日連続で「作戦中」だ。帰港予定日は決まっていない。
「夫は不名誉除隊になるのではないかと恐れている。ただ心身ともに疲れ切っていただけなのに、13年間の海軍経歴が水の泡になりかねない。これは公平でもなければ、正当でもない」。米国の軍事専門メディア「ネイビー・タイムズ」は8月12日、アナベル・ローマさんの発言を引用してこのように報じた。リンカーンの乗組員であるローマさんの夫は、甲板から海に飛び込んだ末、救助された。現在は回復のため勤務が中断されている。長期間に及ぶ派兵により、リンカーンで勤務中の乗組員や海兵隊員など約5千人が、集団的なバーンアウト(燃え尽き)の症状を見せているという。米軍機関紙「サン・ジョージ」は8月12日付の記事で、リンカーンで勤務中の配偶者を持つ女性の話として、「夫が『むしろ明日、目が覚めなければいいのに』と言った」と報じた。
「第3空母打撃群に所属する将兵たちの士気低下とメンタルヘルスの危機的状況について、具体的な説明を求める。勤務条件がますます劣悪になり、将兵たちの安全と福祉を脅かす事態に至っているという証拠が積み上がっている」。連邦上院軍事委員会所属の13人を含む民主党上院議員15人は8月15日、ヘグセス国防長官に送った公開書簡でこのように主張した。これに先立ち、ヘグセス長官は8月13日、極右メディア「ニュース・マックス」とのインタビューで、同空母打撃群の将兵が置かれている劣悪な状況に関する報道について、「事実無根」だと主張した。上院議員らは書簡の中で次のように付け加えた。
「適切な準備過程もなく、イラン侵攻を決定した。トランプ大統領とヘグセス長官の度重なる誤った判断により、第3空母打撃群は深刻な危機的状況に陥った。(…)イランとの戦争がいつ終わるか見当もつかない。派兵された米軍将兵も、いつ帰国できるか分からない状況だ。期限のない派兵が将兵たちにどのような影響を与えたか、今まさに我々は目の当たりにしている。むやみに否定したところで解決するような問題ではない。誰かが責任を取らなければならない」
■「作戦開始から251日目」第3空母打撃群の乗組員たちの集団燃え尽き症候群
米国とイランは交渉を中断している。「米軍が完全に掌握している」というトランプ大統領の主張とは裏腹に、世界の原油・天然ガスの海上輸送量の20%を占めるホルムズ海峡は、依然として事実上封鎖された状態にある。英国海事貿易機関(UKMTO)の説明によると、8月17日にもホルムズ海峡の通過を試みていたリベリア船籍のばら積み貨物船「ミノアン・ディグニティ」が、正体不明の飛翔体の攻撃を受け、機関室が破損し、乗組員1人が命を落とした。これまでホルムズ海峡で船舶が攻撃を受けると直ちにイランに報復攻撃を加えていた米国は、今回は何の対応も取らなかった。
「イランは交渉決着のチャンスをふいにした。今後、イランを標的にして最も強力なレベルの経済制裁を科す。イランは前例のないレベルの経済戦争と孤立に直面することになるだろう」。トランプ大統領は8月19日、ソーシャルメディア「トゥルースソーシャル」への投稿で、このように明らかにした。また「金融機関や企業、空港、あるいは政府機関などを通じて、いかなる形であれイランを支援する国は、甚大な経済的影響に直面するだろう。(制裁回避のための)原油の密輸や瀬取り、現金取引、マネーロンダリング、船舶登録の改ざん、ペーパーカンパニーの運営などはもはや許されない」と強調した。さらに「イランを標的とした経済戦争が始まった。イランを孤立させ、イランの脅威を根絶するための米国の取り組みに、すべての同盟国が加わってほしい」と協力を呼びかけた。
米国は1979年1月のイスラム革命直後から、各種の対イラン経済制裁を課してきた。国連安全保障理事会を含む国際社会も、あらゆる口実でたびたびイランを経済的に圧迫してきた。にもかかわらず、イランはこれまで持ちこたえてきた。トランプ大統領の脅しにも、イラン側が微動だにしない理由だ。イランの国営メディア各社は8月20日、トランプ大統領が言及した「最も強力な経済制裁」について一斉に、「失敗した『最大限の圧力』戦術の焼き直しだ。制裁によってイラン経済が崩壊し、軍事力が脆弱化するという主張は、妄想的な心理戦に過ぎない」と指摘した。
■交渉も制裁も通じないイラン、今回は?
覚書の期限切れにより休戦は終わった。制裁は長期戦の入り口だ。軽率な戦争が生んだ泥沼から抜け出すのは容易ではない。イラン戦争は「トランプのベトナム」となってしまうのだろうか。8月19日午後、米空軍のジェイソン・ワトソン少佐が再び逮捕され、「公判前拘禁」に処された。ワトソン少佐は7月1日、軍服姿でワシントンの連邦議会議事堂の階段に上がり、トランプ大統領の「弾劾・有罪判決・解任」を求める一人デモを行った後、逮捕され、一時釈放されていた。米軍刑法第88条は、「米軍将校は、大統領、副大統領、議会および民間の軍事指導者、州知事または州議会を侮辱する発言をしてはならない」と定めている。ワトソン少佐は再逮捕前の8月17日、CNNとのインタビューで次のように語った。
「米国のイラン侵攻は、ロシアのウクライナ侵攻と同じだ。トランプ大統領は、内部からの懸念や助言にもかかわらず、イラン侵攻を『選択』した。これは違憲だ。(…)トランプ大統領の振る舞いは異常だ。大統領の職務を適切に遂行していないばかりか、明らかに憲法と法律に違反している。腐敗は蔓延し、米国民が次々と命を落としている。決して容認できない。私だけでなく、米国民全員がこれを許してはならない」